2016年創業、2017年にワイナリーをオープン、ククラパン ドメーヌ・デ・テンゲイジの歴史は新しい。ワイナリーは山梨県北杜市明野にあり、圃場はワイナリー隣接地と車で15分程離れた韮崎市上ノ山の2ヶ所に跨る。甲府盆地の北西部に位置し、訪れると八ケ岳や南アルプスといった山々に囲まれた日本有数の美しい山岳景観が心を癒してくれる。
この地域は勝沼よりも常に2‐3℃低いと言う。これ以上、何を望むと言うのだ。ブドウ博士のおばあちゃん農家から受け継いだというその畑には、樹齢20年を超えるマスカット・ベーリーAが植わっていた。今では畑も拡大し、マスカット・ベーリーAに加え、甲州、シャルドネ、サニー・ドルチェ(生食用)を栽培している。

ドメーヌ・デ・テンゲイジのワインは、自社栽培のブドウに加え、契約農家のブドウからも造られている。
「未来につなぐ、ほんまもんのワイン。」というヴィジョンを前に、自社だけで活動しても未来はないと考えた。周りの農家と一緒に産地を作っていくという覚悟が必要だ、と。この土地が100年先もワイン産地として、続いていくようにと想いを込めた。

植えたブドウは、2人が好きな品種とニュージーランドでの研修で携わったものを中心に、ピノ・ノワール、リースリング、シャルドネ、ピノ・グリ、ピノ・ブラン、ゲヴェルツトラミネールの6種類で全てヴィニフェラ種だ。日本に於けるヴィニフェラ種の栽培は歴史が浅く、これまでは系統管理がなされていなかった。また、台木も生食用のものを使うことが多く、農家にとっても管理が大変だった。
山梨といえば甲州とマスカット・ベーリーAを思い浮かべる人が多いだろう。
アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアといったニュー・ワールドの成功の影には、系統菅理がある。ここでもやるべきだ、と。明野圃場のブドウは、全て系統選抜・管理されている。こうすることで「未来につなぐ」ことができると考えている。
ピノ・ノワールの系統は全部で6種類。うち一つは、ニュージーランドから取り寄せたもので、あのロマネ・コンティの苗をルーツに持つものだという。ブルゴーニュからニュージーランドに渡り、そして明野に辿り着いたこのブドウがどのような顔を見せてくれるのか、今から楽しみでしかたがない。

直近の2、3年は天候が恵まれず、特に昨年は雨が多く難しい年となった。急な収穫が何件か重なることもあり、スケジューリングが大変だったという。更にコロナの影響で契約農家にも不安が広がったが、ドメーヌ・デ・テンゲイジでは前年より高くブドウを買い取り、生産量が増えたとのこと。大量のブドウを鮮度が落ちない短期間の間に仕込まないといけない。「この間の仕込みの記憶がない」程に忙しかったそうだ。
と嬉しそうに語る。ニュージーランドでの研修で、参加者が自国のワインを持ち寄った際、持参した尊敬する生産者のマスカット・ベーリーAに対して酷評が集まった。「ボロカスに言われて悔しかった」が、見返してやるという闘争心が芽生えた。今は、海外の人に飲んでもらっても恥ずかしくないワインを造っていると言う自負がある。それが忙しさをものともしない原動力になっている。