2023.08.25

ブルゴーニュ - ドメーヌ ソメーズ ミシュラン

 

「ブルゴーニュは高価なものになってしまった。」そんなことは、昔からワインを嗜んでいる方には周知の事実だ。ただ、一つ間違いないことがあるのは、昔とは明らかに品質が異なる。「昔は安かったから良かった。」という声は散見されるが、果たして今のブルゴーニュを知っているのであろうか。若いうちに理解しようと努力しているのであろうか。値段や生産者、土地の価値で判断しているのではないか?
ワイン業界において毎ヴィンテージ新しい発見を追っていると常日頃直面する問題だ。

マコンという産地はその消費者の“偏見”がまだまだ強く根付く産地であるのではないだろうか。
「ブルゴーニュの外れでしょ?」「ブルゴーニュなの?」と、まだまだ未開拓の産地であることは間違いない。

ただ、ご存じの方も多いが2020年からプイィ・フュイッセにはプルミエ・クリュが誕生した。これはこの産地にとって大きな一歩だろう。なぜならコート・ド・ニュイのマルサネより早い導入なのだから。

Domaine Saumaize Michelin / Bourgogne
ドメーヌ ソメーズ ミシュラン

マコネでワイン造りをする「ソメーズ・ミシュラン」があるのは、マコネのヴェルジッソンという村の“ロッシュ・ド・ヴェルジッソン”丘の中腹に位置する。産地を調べていただくとわかるのだが、断崖絶壁が点在するエリア。 ワインを嗜む方にとって、この断崖絶壁というネガティヴ風ワードは、むしろプラスにとらえられるのだから面白い。 そんなあまり知られていない産地で、夫婦と従業員1名と小さなドメーヌで、ぶどうのポテンシャルを上げるため、畑作業を重視し、フラージュやバトナージュをといった昔から変わらぬ造りをする生産者。

プイィ・フュイッセ、サン・ヴェラン、マコン・ヴィラージュ、マコンの4つのアペラシオンに26区画、約9haの畑を所有している。幼いころからぶどうに携わり、ぶどう畑で生きてきたヴュニュロンが手掛ける味わいは、どこか懐かしい安心のある味わい。優しい果実と、優しい酸、優しいミネラル。そう、全てが優しい。時間や温度変化によって変わる抱擁感は、思わず人柄や想いが伝わってくると錯覚してしまう。


ソメーズ・ミシュランの個性は、当主ロジェ・ソメーズのいう「若いワインは、飲みやすい。」その言葉に全てが詰まっていると感じる。現在のブルゴーニュは、若い世代への代替わりもあり、様々なコミュニケーション手段で最先端の情報交換が行われている。醸造技術はもちろんのこと、醸造設備や、様々な害への対策も素早く、的確だ。

「若いワインは、飲みやすい」というのは、<若い造り手の>や、<今の若い>という前置きが来るのではないかと思うほど、一人の売り手としても伝えたい。 それほど今のワインは若いうちに飲んでも柔らかく、十二分に楽しめる。 「若くても、熟成させても」美味しいワインを造るという心がけは、とっても難しいが、良いワインにとって一番重要なことではないか。 飲み頃は、飲む人が決めていいんだよ?と問いかけられているような、 インタビューとPouilly-Fuisse 1er Cru La Marechaude 2020を飲んで気づかされた。

造り手のホンネに迫る?
質問状

Interview : ロジェ ソメーズ

ワイン醸造学の学校時代の同級生にはボジョレーのヴィニュロンの息子達が多くいました。彼らの家に集まり、カーヴの奥でよく遊びました。いろんなことを話したり、ワイン飲んだりして楽しんだのです。当時はまだワインが今ほど文化として成り立っていなかったですし、今よりもとても自由な時代でしたから。そんな思春期の楽しかった友達との付き合いの中で自然とワインが好きになりました。

小さい頃は自分が生まれ育ったこの地域から出ることはほとんどありませんでした。小さな田舎のつつましいヴィニュロン一家に生まれ育ち、昔は映画館もなく、レストランに行くこともほとんどなく、でも何もないけれども幸せでした。当時はヴァカンスだってなかったのです。両親が畑で仕事をしている間、畑に連れて行かれて、何もすることがなく、空に浮かぶ雲を眺めて過ごしていました。そして雲を眺めながら、中世の騎士に憧れました。広い大地を馬で駆け抜ける騎士は自由の象徴だったのです。当時、家にテレビは無くて、水曜日に祖父の家にテレビを見に行き、広い大地を馬で駆け抜けるカウボーイの映画やドラマを見ていたので、その影響もあったのでしょう。大人になってから自分の馬を持ち、今でも馬に乗るのは子供の頃の夢のせいかもしれません。

長男が親の仕事を継ぐのが当たり前の時代でした。義務というよりも、自然と特に疑問を持たずに引き継ぐのが普通だったのです。小さい頃は畑に連れていかれることにうんざりしていたので、10-12才の頃は農家や酪農家などブドウ以外の何かを育てる仕事がしたかった。少し大きくなってヴィニュロンの叔父の仕事を手伝うようになって、ヴィニュロンという仕事に対してもっと現代的な視野で見られるようになりました。それからは自然とヴィニュロンの道を継ぐことになりました。

人との関係、土壌との関係、全ての物事に関して敬意を払う事です。これはヴィニュロンの仕事を通して学んだことで、だから後にビオディナミに行きついたのかもしれません。土壌や地球で生きる全ての生物、全ての物事を尊重すること、愛情を持つことはビオディナミを象徴するものだと思います。ビオディナミは全て関連する要素をつなぐものです。 また感謝の気持ちを持つこと、心が無ければ意味がないのです。 現代では与える前に享受したいと思ってしまいます。何かを享受するには、制限なく、条件なく、まず与えることが必要なのです。自ら捧げることなくして、素晴らしいワインは造れないのです。

私自身、ワインが非常に大好きで、よく飲みますが、若いワインを飲むのが好きです。若いワインは飲みやすい。私のワインがそうですが、若いワインはどんなシチュエーションにもあったワインです。アペリティフや人と会う機会、朝の9時でも、真夜中でも、アミューズ ブッシュとも、食事とも若いワインは合います。 若くから飲めて、熟成もできる、それがマコネのワイン。私自身も若くても、熟成しても飲めるようなワインを造ることを心掛けています。

2つの異なるヴィンテージのタイプによって、合う料理が異なります。1つは暑い年のワイン。リッチで凝縮したヴィンテージであれば白身の肉、伝統的な料理で言うと、ブレス鶏とモリーユ茸のクリームソースは非常に良く合います。
もう一つはブルゴーニュらしい、北部の気候の涼しい気候のヴィンテージです。酸があり、よりフレッシュ感があり、特に若い時は塩味、海のニュアンスを感じるので、海鮮系のお食事と良く合います。今の季節であれば、ホタテが良いでしょう。適度に火を入れたホタテは甘みがあり、また甘みを支えるヨードのニュアンスもあるので、甘みもあり、緊張感とフレッシュ感を備えた私のワインによく合います。 

ワインのプロモーションで2013年に1度来日しました。大阪、京都、東京に行きました。桜が綺麗だった八坂神社が印象的でした。

日本に行った時に、京都で伝統的な日本料理を食べました。名前はわかりませんが、小さく区分けされた器で色々なお料理が出てきたのが印象に残っています。でも畳に座って食べたので、慣れていなくて辛かったです(笑)

シャルドネの生産者としては、職業柄のせいか白が好きです。私にとって最も偉大な白ワインはバタール・モンラッシェやモンラッシェです。孤島に1つ持って行くならと言われれば、バタール・モンラッシェでしょう。

例えるならバタール・モンラッシェ。透明感、すらりとした気品がありながら、夢想にふけるような、夢を見させてくれるような。そして哲学的ですが精神を向上させてくれるようなワインです。

良いシャルドネを造るには、石灰質土壌が必要です。ヴェルジッソンはその点では恵まれていて、岩に囲まれた非常にミネラル豊かな土壌です。ブルゴーニュではテロワールや地質学的性質、環境状況を組み合わせた”クリマ”という言葉を使いますが、ヴェルジッソンは地質学的にもミクロ・クリマにおいても非常に変化に富んだ環境です。ワインを造る上で、豊かなテロワールを理解し、それぞれのテロワールをブドウに反映させることが大切で、まさに私が生涯の情熱を注いでいることです。

ヴェルジッソンは自然環境、風景においても美しく、私はここのブドウ畑の景色に非常に愛着を持っています。私は単調なのは好きではありません。ヴェルジッソンの自然環境は変化に富んでいて、特に切り立った岸壁のある素晴らしい風景です。この景色の素晴らしさもワインにも反映されていると思います。

ブドウの栽培において重要なことが2つあります。まず1つはブドウ樹に栄養を与える土壌です。土壌に細心の注意を払い、敬意を払わなくてはいけません。この観点からビオディナミを行っています。土壌に敬意を払い、圧縮しないようにします。微生物の働きが活発になる秋と春に土壌の手入れを慎重に行います。また長い間、化学的なものは排除してきました。

次にブドウ樹に対して、細心の注意を払うことです。特に冬に行う選定は非常に重要で、その年の収量に影響するわけですが、更にその先の将来にも影響を与えるからです。また発芽から実が熟するまで、ブドウ樹の成長に寄り添いながら、さまざまな作業を行います。経験も必要ですが熱意も必要です。ブドウ樹は繊細で聡明な植物です。作業する人の気持ちを感じ取って、作業する人のやる気や作業の丁寧さに影響を受けるのです。できるだけ機械化は避けて、ブドウ樹の身近にいることも大切で、ブドウ樹は人間がそばにいてくれることが好きなのです。

最近の気候変化はみんなが心配していることです。今後は気候変化の影響を抑えるような方法やテクニックを見つけないといけないでしょう。まだはっきりとした答えがないので、心配です。しかしブルゴーニュにおいては、ここ20年来の気候変化は今のところまでは良い影響をもたらしています。最近は暑くなってブドウが良く熟すので、良いヴィンテージや秀逸なヴィンテージばかりです。昔は違いました。特に80-90年代はブドウがなかなか熟さないことはよくありました。昔は収量も多かったので、ブドウが熟すのが難しかったのです。
ワインとは人間的な要素があるもので、ヴィニュロンの仕事としては人々を楽天的に、希望する意義をもたらすことでもあるのです。次の世代が、近い将来に気候変化の影響を抑えるような方法やテクニックを見つけてくれるとポジティブに考えたいです。

マコネやプイィ・フュイッセでは珍しいことかもしれませんが、ずっと以前から樽で醸造・熟成させています。それ以外の特別な設備はありません。私のワイン造りはテクノロジーを駆使した醸造ではなく、昔ながらのシンプルな方法で行っています。テクノロジーは何か足りないものを埋め合わせるために駆使されるものです。素晴らしいテロワールで品質のよいブドウを収穫できれば、後はシンプルな方法で醸造すればよいのです。私にとって、よいカーヴとはよい酵母が育つ場所で、ミクロ・クリマでもあります。現代的なカーヴは空調が効いて、作業的には効率がよいかもしれませんが人工的な環境です。私のカーヴは石に囲まれた地下のカーヴで、昔ながらのものですが、私が造りたいワインができる場所です。

マコネらしい工程として、圧搾の前にフラージュ(破砕)を行います。フラージュはブドウの実をつぶすのでなく、実をやぶって、皮や種、梗に含まれるミネラルなどの物質の抽出と拡散を促すのです。その後、空気圧式の圧搾機を使って、ゆっくり丁寧に、的確に圧搾を行います。ブドウの熟度や状態に応じたフラージュと圧搾を行うことが大切です。

樽での熟成を待つことです。ワインは澱と樽に接点を持って、じっくり熟成することが大切です。もちろん樽の質も重要ですが、時間が重要なのです。
そしてバトナージュです。元々ブルゴーニュで生み出された手法で、最近ではしばしば悪く言われることの多いバトナージュですが、私は今でも行っています。澱はワインの熟成において重要な役割を果たします。熟成中のワインを撹拌して澱と接触させるバトナージュを定期的に行うことで、ワインを豊かにします。昔はブドウの熟度が足りない時に非常によく使われていた手法です。なので、最近の暑い年ではブドウの熟度に応じて頻度や期間を調整して慎重に行います。バトナージュを行い、フレッシュ感とグラと豊かさを調和させることで、私が造りたいワイン、酸ではなく心地よいフレッシュ感があり、味わい豊かで、飲む喜びあふれるようなワインができるのです。

月のカレンダーに従って、スーティラージュ(澱引き)と瓶詰めを行っています。瓶詰め前に、それぞれの樽をタンクにアサンブラージュして最低2か月は置き、調和のとれた状態にします。そして瓶詰め前に清澄を行い、ワインを研ぎ澄ますのです。その後はフィルターはかけずに瓶詰します。

時と共に、人々のメンタリティーやフィロソフィーが変わってきました。私自身、44年のキャリアの中で進化してきました。化学物質の使用を止め、当時は革新的だったビオロジック栽培を始めました。そしてテロワールを理解し、人や植物、土壌に敬意を払い、ビオディナミを始めて、テロワールをより表現できるようになりました。ビオディナミを行っていますが、認証は取っていません。今まで認証を取りたいと思いませんでした。 (輸入元注:自然との繋がりを重視しているロジェにとって、ビオディナミの認証を取るための作業よりも、自分らしいやり方でブドウ樹や畑と向き合って栽培することに力を注ぎたい思いがあるのです) しかし最近の現代社会では認証を取ることが義務のようになってきたと思います。すべて枠に収まっていないといけないのです。エチケットに表示することが求められています。
型にはめられているようで、私は好きではないのです。先に話したように、私が子供の頃は自由な時代でした。現代の世界はより洗練された世界かもしれませんが、自由が無くなっているように感じます。
私が自分で醸造するようになって2021年が44回目の収穫でした。ここ10年来は息子がドメーヌを手伝ってくれて、最近、娘もドメーヌに加わり、これからは子供達が中心となってドメーヌを担ってくれます。そして子供達は今、認証を取る準備をしています。様々な困難があるでしょう。でもそれも進化なのかもしれません。