2021.07.19 更新

北海道・達布 宮本ヴィンヤード

北海道・達布 宮本ヴィンヤード

宮本ヴィンヤード

宮本 亮平 氏

日本のピノ・ノワールの在り方として、最もセンセーショナルなものの一つと断言できる。


日本ワインコラム | 北海道・達布 宮本ヴィンヤード

宮本ヴィンヤード は、北海道三笠市達布地区に位置するヴィンヤード。 2011年より、葡萄畑の開墾を始め、ピノノワール、シャルドネ、ピノグリなどを中心に約4,000本を植樹した(※現在は約3ha、8000本)。広さにして2haほどの、急斜面上に広がる畑はタキザワワイナリーに隣接して位置し、 自園より収穫された葡萄の醸造は2020年ヴィンテージまで タキザワワイナリーの施設を使用しておこなってきた。

宮本ヴィンヤード は、TAKIZAWA WINARY に隣接した南西向きの斜面上に自社畑を所有している。 ▲ 宮本ヴィンヤード は、TAKIZAWA WINARY に隣接した南西向きの斜面上に自社畑を所有している。
宮本ヴィンヤード 宮本亮平氏 ▲ 宮本ヴィンヤード 宮本亮平氏

今考えると、ワインと出会うために調理師学校に通っていたのだと思います。

調理師学校時代、20歳でワインに心を打たれた宮本さんは、調理師の職を得た後も、その魅惑の沼に沈み続け、所得の大半をワインでフランベする情熱的な日々を送った。 やがて、調理師としての仕事にピリオドを打つと、2002年に長野県の著名な生産者である「小布施ワイナリー」に乗り込んだ。日本ワイン特集でピノノワールの栽培家として紹介されていた事が決め手だったそうである。
「ここで働かせてください!」のような特攻スタイルと言えばいいのだろうか。 単身、小布施ワイナリーでの研修を申し出た。どういうわけか、そのアタックは功を奏し宮本さんのワイン造りのヴォワイヤージュがスタートした。

突然押しかけた私を受け入れて、ワイン造りを教えてくださった曽我さんには本当に感謝しています。私の恩人の一人です。

小布施ワイナリーでの研修を経て、ニュージ―ランドの楠田ワインズ、リムグローヴワイナリーなど、著名なピノノワールの生産者の下で修行を積み、日本に帰った宮本さんはいよいよ運命的な出逢いを果たす。 ジャッキー・トルショーというドメーヌをご存じだろうか。
ブルゴーニュは、コートドニュイ、モレサンドニの往年のスター選手である。 2005年ヴィンテージを最後に引退し、所有する畑の殆どを売却したこの生産者のワインは、一世代前の、ダイナミックかつエレガントなピノノワールのあり方を象徴する素晴らしい作品だった。現役時代、彼のワインは殆ど日本へ入ってきておらず、幻のように扱われていた。現在では、入手可能性は極端に低いといってよい。法外な金額を支払う準備があれば話は別だが。
そんな希少なピノノワールは、宮本さんの心に響く味わいだった。
唯一心を揺らしたというトルショーに従事したい一心で直後ブルゴーニュへ飛んだ。そして2004-2005年、トルショーが引退するまでの最後の2年間を彼のドメーヌで過ごすことになる。 その後は、ワイン生産者のための職業訓練学校であるC.F.P.P.Aやジョルジュ・ルーミエでの研修を重ねた。

自分が飲みたいワインを造りたい。

そんな宮本さんにとって、最も重要な品種はピノノワールだった。繊細な品種であるために、日本で栽培するとなれば、自ずと場所は決まってくる。長野県も視野にあったが、最終的にたどり着いたのは、達布地区の急斜面だった。 宮本ヴィンヤードの斜面のすぐ麓付近に位置するタキザワワイナリー。その醸造施設内で仕込まれる2020年のバレルサンプルを試飲させていただいた。

ところで、日本においてブルゴーニュを志向するような動きは少ないような気がしている。
「北海道でブルゴーニュ ピノノワールを造る!」
のようなハイコンテクストな理想を掲げるワイナリーは少ないように思われる。それはフランスワインと並べてその中で勝ちたい。というようなものではない。ブルゴーニュワインが持つ要素を、少しでも多く獲得したい。というような執念や理想のことだ。

確かに私のような意地の悪い、辛辣なミドルやエンドユーザーを想定したときに、その少年漫画的な、「ピノノワール・努力・勝利」を内包するスローガンを掲げることは、ターゲットにピュアネスを幻視した愚行のようにも思われる。

また、現在はピノノワールを日本に適応させる段階であるとも言える。クローンや台木の選定、土壌改良や栽培する場所選び、樹齢による味わいの変化、醸造法など検証していかなければならない課題が山積している。

その中で日本の食文化にリンクするキーワードを備えた「出汁」のような旨味を彷彿とさせるスタイル、北海道の冷涼な気候を表現した、スマートな酸とタイトな果実味で構成されるスタイル、その他諸々、同一産地でありながら、生産者によってそのやり方は大きく異なる。
と勝手に話を進めたが、私が試飲した他の生産者のワインと比較しても、宮本ヴィンヤードのワインには、ブルゴーニュ的な要素が多分に散りばめられているように感じた。特にピノノワールは、果実味の妖艶さが他の日本ワインと全く違う、気がする。

ここ2年は温暖化の影響もあって、葡萄の熟度も高く仕上がりました。

なるほど、温暖な年であったが故に果実味に伸びがあるわけですか。と得心するもやぶさかではないが、しかし、それだけでこんなにブルゴーニュらしくなるとは考えられない。根拠はないが、腑に落ちない。
「ワインに品種の名前を表示する事はやめました。品種自体を表現したいわけではないので。」
北海道の土地の表現を志すワイン造りであるために、品種の表現には固執しない宮本さん。 実際に、宮本ヴィンヤードのワインにはEntre Chien et Loup (黄昏時)、Prisme(プリズム)など詩的な名前が冠されている。 だから、あまり品種名を連呼したり、ブルゴーニュ的と書くのは良くない。大変失礼なことだと感じている。申し訳ありません。

その中で、ピノノワールには「Volonté 」という名前が付けられている。 直訳すると「意志」という意味だ。 他のワインの名前とはちょっと毛色が違うような気がしている。「葡萄が自らなりたいワインになる手助け」という、葡萄の意志を尊重するような意味合いも含んでいるかもしれない。しかし、一方で、そこには宮本さんご自身の強い「意志」の存在もあるように思われるのである。 宮本さんの意志がブルゴーニュやトルショーの再現に向いているというようなことを言うつもりは全くない。 ただ、試飲させていただいた「Volonté 」は、ある種「日本のピノノワールを飲む姿勢」を崩した上で感動できる味わいであり、そこに、かの産地を志向する不可抗な意志の伏流を想像してしまったとうことである。 わかるだろうか。
ピノノワール好きとしてのクリーピーな側面が目立つ原稿となってしまったことは悔やまれるが、間違いなく感動的な味であると約束できる。 日本のピノノワールの在り方として、最もセンセーショナルなものの一つと断言できる。

今後、宮本ヴィンヤードが、日本のワインの考え方に何か変革をもたらしてくれるのではないだろうか、なんて大げさなことを考えたらそわそわしてきた。皆様にもぜひこの胸騒ぎを体感いただきたい。
ピノノワールへの「意志」がそれを叶えてくれるでしょう。

Interviewer : 人見  /  Writer : 山崎  /  訪問日 : 2021年7月19日

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