アデレード･ヒルズとラングホーン･クリークで栽培家として大手ワイナリーにブドウを納入していたトム･キーランは、 2002 年、手塩にかけて育てたプティ･ヴェルドの買取りを拒否されたことから必要に迫られ「ザ･ポーン･ワイン･カンパニー」を設⽴する。名前の 「ポーン」は、チェスの最下位の駒のこと。巨大企業が中心プレーヤーであるワイン業界では、小規模生産者は大手が繰り広げる市場戦略ゲームで翻弄され犠牲になるいわばポーンと同じ⽴場という意味をこめた命名だ。 一方で、ポーンだからこそできることもある。買収合併により巨大化が加速するワイン業界において、冷涼な畑の⾼品質ブドウから、丁寧な手作業で少量のアルチザンワインを造るというのはポーンならでは。19 世紀後半にヨーロッパからの移住が始まった南オーストラリ ア州にあって、アデレード･ヒルズとラングホーン･クリークは昔ヨーロッパから持ち込まれた多様な品種も健在。トムは、通常はカベルネなどのメジャー品種のブレンドなどに使われることの多いそれらの品種を丁寧に育て、できるだけ自然に近い昔ながらの製法で醸造することにより、品種の個性を輝かせ、楽しく飲めて食事に合わせやすいワインにすることを目指している。