2022.07.20 更新

長野・レ・ヴァン・ヴィヴァン

長野・レ・ヴァン・ヴィヴァン

レ・ヴァン・ヴィヴァン

代表 荻野 貴博 氏
荻野 朋子 氏

稲妻級の衝撃的な出会いから ~ 固定概念を壊すワイン&シードル


日本ワインコラム | 長野 レ・ヴァン・ヴィヴァン

山梨県出身の貴博さんと北海道出身の朋子さん。山梨県も北海道も名の通った素晴らしいワイン産地だ。にも関わらず、荻野ご夫妻はなぜか長野県東御市でワイン造りに精を出す。この辺りからして、一筋縄ではいかない何かを感じてもらえるだろう。けれども、ご夫妻にとっては自然な流れでここに来たのだ。

冷涼系ブドウを育てたいと思っていたご夫妻にとって、長野県東御市は県内有数の冷涼な気候でドンピシャ。また、千曲川ワインバレーとして県が力を入れている先でもあり、サポート体制もしっかりしているところも安心材料だった。2016年からワイン用ブドウの栽培を始め、2019年秋にはワイナリーも完成した。今回は、そのワイナリーでお2人の哲学をじっくりお伺いしてみた。

▲ 白い壁が目を引く、雰囲気のあるワイナリー。併設する畑は、ご夫妻が委託を受けて育てているブドウの木が植わっている。 ▲ 白い壁が目を引く、雰囲気のあるワイナリー。併設する畑は、ご夫妻が委託を受けて育てているブドウの木が植わっている。

Lightening could strike.

ご夫妻は以前、東京のレストランで働く同僚だった。仕事柄、ワインの勉強としてボルドーの格付けシャトーを覚えたり、周りの大人達から薦められて、名の通ったワインを飲んだりもした。確かに、有名どころのワインは美味しいが、体で納得する味わいではなかった。ところがある日、ヴァン ナチュールを初めて飲んだ時に衝撃が走った。お出汁を飲んだみたいに体に沁み込む感じがして、「ワインって本当に美味しい!」と心底思ったのだ。

当時はまだ日本ワインブームの始まりと言われる時期で、日本でヴァン ナチュールを造っているところは少なかった。日本では無理だと言われていたのだ。そうだとしても、自分達も日本でやってみたい・・・最初にヴァン ナチュールを造りたいと言い出したのは貴博さん。朋子さんもすぐに賛同した。15年程前の話である。

最初にヴァン ナチュールを造りたいと言い出した貴博さん。朴訥とした語り口の中にアツイ気持ちが見え隠れする。 ▲ 最初にヴァン ナチュールを造りたいと言い出した貴博さん。朴訥とした語り口の中にアツイ気持ちが見え隠れする。

その後、山梨の中央葡萄酒株式会社(グレイスワイン)で修行を重ね、フランスのボジョレーやアルザスのヴァン ナチュール生産者の元でも経験も積み、今の場所に居を構えることになる。その間、日本のヴァン ナチュール先駆者達も歩みを進めていた。ご夫妻は、金井醸造場のマスカット・ベイリーAを飲んだ時、日本にもこんな考えを持って美味しいワインを造り上げている人がいるなんて・・・!と衝撃を受けたそうだ。自分達もやらなきゃという思いを強くしたと語る。

ワイナリーの中のディスプレイが一つ一つオシャレ。素朴で温かみがあって居心地がいい雰囲気なのだ。 ▲ ワイナリーの中のディスプレイが一つ一つオシャレ。素朴で温かみがあって居心地がいい雰囲気なのだ。

そう、ヴァンナチュールとの出会いによって、お2人は稲妻並みの衝撃を受け、今の道に繋がったという訳なのだ。「ジョー・ブラックによろしく」という映画をご存知だろうか?アンソニー・ホプキンズ演じる億万長者が娘に「Stay open. Lightening could strike!」と語るのだが、まさに「Stay open (心をオープンにする)」と「Lightening could strike(稲妻が打たれる(くらいの出会いがある)かもしれない!)」という言葉はご夫妻のワインに対する姿勢にぴったりと合致する言葉なのだ。

Stay Open.

リアルなものを大事にしたい

2016年にワイン用ブドウの栽培を開始した。ワイナリー(標高720m)からそう遠くない場所にある畑の標高は720~920m。ご夫妻が望んでいた通り冷涼な場所だ。と同時に日照量もある、雨が少ない、昼夜の寒暖差もある。一目ぼれした場所だった。

畑には、7年目を迎えるピノ・ノワール、シャルドネ、リースリングと、その後に植えたシュナン・ブラン、ガメイが育っている。また、ワイン用ブドウのみならず、シードル用のリンゴも植わっている。環境に優しい栽培手法を徹底していることもあり、ブドウの木の成長はゆっくりだ。去年、漸く、収穫らしい収穫ができたと言う。今年も順調に育っているそうで、楽しみだ。

畑では化成肥料も農薬も一切使わない。地層深くの土壌がどうなっているかも敢えて調べない。そもそも日本は火山が多く、黒ボク土壌の場所が多い。それに、ブドウの前に植わっていた物を知ることや、実際に雑草がどれくらい伸びているのかを見る方がよっぽど有益だ。実際に目に見えるもの、リアルを大事にする姿勢を貫いている。

息ぴったりのお2人。ヴァン ナチュールに対する思いを語ると止まらない!!! ▲ 息ぴったりのお2人。ヴァン ナチュールに対する思いを語ると止まらない!!!

教科書を鵜呑みにしない

与えられた環境の中で取れたものをシンプルにワインにしていくことをテロワールと捉えている。自然の恵みを頂くという考えが根底にあるので、自然の恵みをこねくり回して特定の形に仕上げてやろうという気もない。だからこそ、畑の環境を大事にする。生食用ブドウと異なり、ワイン用ブドウは液体に変えて何年も貯蔵することを念頭に置いて栽培するもので、ブドウ本来の力がないと始まらない。だから農薬は一切使わない。ボルドー液(硫酸銅と生石灰を混ぜた殺菌剤)も使いたくはないが、場合によっては年1,2回使用する。このようにして栽培されたブドウの生命力は強い。確かに葉に病気は出るが、全体としては綺麗で許容範囲内だ。去年も病気はポツポツと出たが、畑には広がらなかった。

ご夫妻はブドウを余すことなく使ってワインにしたいと考え、茎も含む全房で仕込んでいる。農薬を使用したブドウの委託醸造も請け負っているそうだが、醸造を進める中で、自社の無農薬ブドウの方が農薬を使ったブドウよりも底力があると気付いた。その様子を目の当たりにして、自分達のやり方に納得したと言う。

教科書は素晴らしいとは思うが、あくまでも教科書。先人達にとってやりやすい方法が纏まっているものであって、鵜呑みにはしないようにしていると言う。実際にやってみてその通りだったら取り入れるが、その通りにならないケースの方が多い。だから「それって本当?」と疑うことから始めるようにしているそうだ。確かに農薬を使わないことで、ダメになってしまった木もある。ただ一方で、病気になってしまった木に農薬とは別の独自の手法で手当てを行ったら、病気が綺麗に治ったという。こんな奇跡みたいなことに巡り合うからやめられない。

ワイナリーの窓から見える、委託を受けて育てているブドウ畑。こちらは慣行農法で育てられている。 ▲ ワイナリーの窓から見える、委託を受けて育てているブドウ畑。こちらは慣行農法で育てられている。

「農薬は一滴も使いたくないので、それに代わる何かを一生をかけて探していきたい。」

そう語る朋子さんの目は真剣だ。目の前の木と向き合って、解を探したい。机の上には答えはないのだ。

否定しない

2019年に建てられたワイナリーもお2人の哲学が感じられる場所になっている。外観はシンプルでオシャレ。中に入ると天井は高く、空気もひんやりしている。北欧の環境に配慮した設計で、効果的な断熱材を入れていることから、夏に36、7℃まで気温が上がってもワイナリー内はエアコンなしで18℃くらいをキープすることができるそうだ。確かに初期投資は高いが、ランニングコストはうんと低く抑えられるし環境にも優しい。

丁寧に育てた果実に、追加で何かを加えるということはしない。収穫から瓶詰めまで亜硫酸を添加せず、野生酵母で醸造を行っている。シードルも野生酵母で醸して、メトード・アンセストラル製法(発酵の終盤で瓶詰めし、瓶内で発酵を完了させる)で製造しているそう。

天井の高いワイナリー。温度管理が求められるので、一般的に、ワイナリーが消費する電気の量は多い。そんな中、夏でもクーラーを必要としない設計になっているとは、何ともエコで画期的だ。 ▲ 天井の高いワイナリー。温度管理が求められるので、一般的に、ワイナリーが消費する電気の量は多い。そんな中、夏でもクーラーを必要としない設計になっているとは、何ともエコで画期的だ。

亜硫酸添加なし&野生酵母での発酵なので、温度管理は徹底して行う。それでも、やはり酢酸エチルといったオフ・フレーバーが発生してしまうこともある。一度、発酵の過程で悪い菌が発生してしまったそうだ。商品にはできないが、そのまま置いておいたところ、匂いと味わいに再度変化が起こり、美味しくなったという。この時に、目に見えない微生物に支えられている、という感覚を強く持ったという。すぐ答えを出すのではなく、微生物の力を信じることの大切さを学んだ。

勿論、製品として出す・出さないの線引きはしっかりと行わなければならないが、市場に出回っている味わいと少し違うから「ノー」という答えにはならない。嫌いな人もいるかもしれないけど、好きな人もいるかもしれない。自分達は美味しいと思っているのだけど、どうですか?という気持ちでお客さんに提示したいという気持ちがある。

色んな人に愉しんでもらいたい

自分達のワインは日常のワイン

生食用ブドウで造るワインはイマイチだという風潮もあるが、お2人は真っ向から反論する。シャルドネやピノ・ノワールだけがワインではない。デラウェアやマスカット・ベイリーAといった日本の生食用のブドウで造るワインはトップクラスに美味しいし、日本人に寄り添うデイリー・ワインとして最高だ。

ハレの日ではなく、日常を彩る身近な存在としてのワイン。自分達が造りたいワインがまさにそれだ。ハレの日に着飾って飲むものではなく、身近な飲みものとして愉しんでもらいたい。高級感がなくていいのだ。普段飲むものなのだから、1本ではなく2本手に取ってもらえるような飲み物でありたい。自分達がワインの入り口として存在して、そこから別の生産者が造る高級ワインも知っていってもらえたら最高じゃないか。ハレの日のワインも日常のワインもそれぞれに良さがあるのだ。お互いを否定せず、補完しあえる関係にありたい。お2人のお話は、とてもフェアで潔い。

シードルの裾野を広げたい

実は、荻野夫妻が最初に手掛けたものはワインではなく、シードルだ。並々ならぬ思いがあって始めたのかと思ったら、シードルをやるつもりもなかったし、そんなに飲んだこともなかったと言う。しかし、またしても稲妻が落ちた(Lightening could strike!)。友人からもらったシードルに衝撃を受けて、「これが造りたい」と思ったのだそうだ。

東御市に移住した当初、リンゴ栽培のバイトをしていたこともあり、リンゴ栽培のイロハも習得していた。最初は本場フランスのシードルの味わいを追求したが、実際に仕込んでみると味わいは違った。そもそもフランスのリンゴを手に入れるのは難しい。また、日本は食べて美味しいリンゴで、フランスのものとは違うのだ。やっぱりあの味わいにはならないのだなと体感してみて、方向性を切り替えた。

日本人による・日本のリンゴで造る・日本人の為のシードルを造ろう、と。であれば、食べて美味しいリンゴを作って、シードルに仕上げるのが一番だ。目の前の材料をよく理解して、最善のものに変える。こういう考え方を持っていて良かった、と心から思ったという。

目を引くシードルのボトル。今まで持っていたワインボトルに対するイメージをガラッと覆してくれる。 ▲ 目を引くシードルのボトル。今まで持っていたワインボトルに対するイメージをガラッと覆してくれる。

そのシードル。ボトルをご覧になった方もいるだろう。何てったってカワイイのである。今までのワインやシードルのイメージと全然違う。ポップでキュートなのだ。

「固定概念をぶっ壊したかった」

と言う。

刺激的な言葉遣いだが、思いは優しい。
普段お酒を飲まない人や若い人達にアプローチしたい。オジサン・オバサンの飲み物としてのワインやシードルではなく、若いオンナノコ達が思わずジャケ買いしたくなるような、今までにないものにしたい。一度飲んでもらって、良さを分かってもえらえたら、若い人達がシードルやワインを好きになるきっかけになるかもしれない。そういう思いがあったという。

「ラベルは女の子にしたい」、「商品名を色にしたい」という2点だけをお願いして、ラベルをイラストレーターに作ってもらったそうだ。味の説明はしたが、特に色も指定せず、イラストレーターに選んでもらった。そうして生まれたのが、「はくろ」、「みずいろ」、「あお」の3種類だった。

その後、「あか」や「こくう」といった仲間も加わった。お2人は言う。

日本のシードルの底上げをしたかった

と。日本のシードルは、ワイナリーが契約農家から加工用リンゴを買って造ることが多く、ワイナリーのメインの商品として扱われることはない。お2人は自分で育てたリンゴを使って、ワインと同等の扱いで顧客に提供し、製品としてのシードルの素晴らしさやシードルの楽しみ方を伝えることで、シードルの良さをどんどん伝えたいと語る。ワインに対する愛情と同じだけの愛情をシードルにも注いでいるのだ。

ヴァン ナチュールもシードルも、稲妻級の衝撃を受けた「好き」が詰まったもの。

この「好き」があるからこそ、休みがなくても頑張れる。朋子さんは

ブドウとリンゴの木は戦友で、心が通じ合える生き物だから一日中畑にいられる

と仰る。昼間は畑、夜はワイナリーでの仕事でプライベートの時間が全くない。ボトルのラベル張りまでもお2人でやっているというのだから、頭が下がる。大変そうだけど、お2人は楽しそうだ。

今回、インタビューが行われたワイナリー内には終始、心地よい音楽が流れていてリラックスできた。貴博さんは大の音楽好き。ワインやシードルを仕込む時も、ガンガンに音楽をかけているという。そして、朋子さんは映画を始めとしたアートが大好き。「引き出しを沢山持っていたい」という言葉の通り、色んなことに興味を持っておられる。

アーティスティックでエッジ―なお2人だからこその、あのワインとシードル。好きな音楽をかけながら、美術館に行った時の様にラベルをじっくりと眺めながら、色、香り、味、舌触り等、自分の五感をフルに活用して愉しんでみたくなる。皆さんも今晩如何ですか?

荻野貴博さん、朋子さん、素敵なお話をありがとうございました! ▲ 荻野貴博さん、朋子さん、素敵なお話をありがとうございました!

Interviewer : 人見  /  Writer : 山本  /  Photographer : 吉永  /  訪問日 : 2022年7月20日

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