アンフォラで造られたワインの特徴や味わいとは?
アンフォラで造られたワインの特徴や味わいとは?

歴史や地域別の呼び方も紹介

歴史や地域別の呼び方も紹介

THE CELLAR JOURNAL --- writer : Tomohiro TAKAMARU

ワインの発酵・熟成では樽やタンクなどさまざまな容器が使われていますが、その中でも近年注目を集めている「アンフォラ」という容器をご存知でしょうか?
「アンフォラ」という言葉自体あまり聞きなれないという方もいるのではないでしょうか。
本記事では、「アンフォラ」の魅力について、また、アンフォラで造られたワインの魅力について、ご紹介いたします。
ワインの発酵・熟成では樽やタンクなどさまざまな容器が使われていますが、その中でも近年注目を集めている「アンフォラ」という容器をご存知でしょうか?
「アンフォラ」という言葉自体あまり聞きなれないという方もいるのではないでしょうか。
本記事では、「アンフォラ」の魅力について、また、アンフォラで造られたワインの魅力について、ご紹介いたします。

アンフォラで造られたワインの特徴や味わいとは?歴史や地域別の呼び方も紹介

歴史や地域別の呼び方も紹介
2024.07.22

1. アンフォラとは

アンフォラとはテラコッタ容器の総称で陶器の一種です。テッラ(土)、コッタ(焼いた)の意味合いを持ちます。
ワインをはじめとした様々な液体や物品を運ぶために用いられた素焼きの陶器の名称で、一般的にステンレスタンクや木樽を使うワイン醸造が主流ですが、昨今はこのアンフォラを用いたワイン造りを実践している生産者も増えています。

歴史を遡る事、紀元前15世紀ごろから古代世界に広まり、古代ギリシャ・ローマにおいてはワインだけではなく、オリーブ、オイル、ドライフルーツ、魚醤など、様々な必需品を運搬及び保存するための手段として用いられていました。

2. アンフォラの歴史

アンフォラの歴史

【ワイン発祥の地】
アンフォラを使ったワイン造りが始まったとされるのが、ワイン発祥の地でもあるジョージア(旧グルジア)です。紀元前6000年もの昔から、アンフォラ使ってワインが造られていました。当時は当然、ステンレス製のタンクもなく、木樽を使うというよりは、このアンフォラを使った方が保存が効くという事で活用をされていたようです。

【クヴェヴリ製法】
ジョージアのワイン造りは歴史が古いのですが、ワイン造り当初からクヴェヴリと呼ばれるアンフォラが使用されていました。
粘土で出来た素焼きの卵型の壺「グヴェヴリ」を地中に埋めて、果皮、果肉、果梗、種と共にブドウ果汁を陶器に投入する方法です。
クヴェヴリが地中に埋まっている事で温度が低温で安定し、発酵がゆっくり進むことが特徴的で、クヴェヴリを使ったワイン醸造は、世界最古の醸造方法として2013年ユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。

【アンフォラの起源と変化】
ジョージアでワイン造りを開始した当初、アンフォラはワインだけではなく食料の運搬や保存にも利用されていました。
持ち運びが出来るように持ち手があって、その容量は平均して20リットルから40リットルほど。
ただ、これでは多くのワインが仕込めない為、ワイン造り用として200リットルから400リットルくらいの大きな卵型で持ち手が付いていないアンフォラがワイン造りとして主流になってきます。

アンフォラワインの先駆者

太古より使用されていたアンフォラの技術を、現代のワイン造りに広めた立役者は、イタリアで名高いワイン生産者であるヨスコ・グラヴネル氏です。

ヨスコ・グラヴネル氏は近代的な白ワインの造り手として、1980年代に脚光を浴びた人物です。
なるべく自然を活かした環境でのワイン造りをモットーとしており、その画期的な製法に世界中の生産者が注目しています。
このグラヴネル氏はイタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州の造り手で、フリウリは白ワインの産地であり、グラヴネル氏が造るのも主に白ワインです。

ワイン造りに対し、「もっと自然にワイン造りをする必要がある」と感じたグラヴネル氏はワインのルーツでもある、ジョージアを視察。そこでジョージアワインとクヴェヴリにインスパイアされ、自身のワイン造りにもクヴェヴリでの醸造を導入しました。
グラヴネル氏が生み出すワインは、20年は熟成することが出来る偉大なワインばかりで、「イタリア最高の白ワイン生産者」と称されています。

そんなグラヴネル氏の影響を受けて、フリウリの造り手が次々とアンフォラを使用したワイン造りを開始。
そして現在はイタリア全土、そして世界各国に広がっていきます。
特に2010年代以降は人的介入を少なくしたいと考える自然派の造り手を中心にアンフォラでのワイン造りは世界中の生産者を惹きつけ、現在では新しいワイン容器として再び注目を集めることになったのです。

3. アンフォラワインの特徴や味わい

アンフォラワインの特徴や味わい

アンフォラで造られた「アンフォラワイン」は、木樽で熟成させたワインのように緩やかな酸化による柔らかさが出ますが、木樽由来の香りやタンニンがワインにつかない為、クリアでピュアなブドウの果実味を得る事が可能です。

また、果皮や種と共に果汁を約半年近く寝かせるため、ジョージアのオレンジワインのように黄色系色素が溶け出して、オレンジに近い色調になります。
更に味わいも複雑味が感じられ収斂性のある引き締まった口当たりのワインになるのも、アンフォラワインの特徴の一つです。

4. アンフォラを使うメリット

アンフォラを使うメリット

アンフォラにはオーク樽と同じく微酸化作用があります。
アンフォラは素焼きの粘土で作られているため、ステンレスタンクやコンクリートタンクに比べ気密性が低く、木樽同様にワインに微量の酸素を供給する必要があります。
ほんのり酸化をさせる事でワインに柔らかさを与えるのもアンフォラ醸造のメリット。
木樽のニュアンスにはない、ピュアな風味でありながら、ステンレスタンクでは醸し出せない『酸化による丸く優しい味わい』がアンフォラで熟成をさせたワインの特徴です。

また、粘土素材の性質により外気温の影響を受けにくいため、人工的な温度管理を必要としません。
独特な卵形の形状が自然対流を生み出すためバトナージュ等の攪拌作業を必要としないのも、アンフォラのメリットして挙げられます。

容器の風味がワインに移らない

たとえばオーク樽を使ってワインを造ると、ワインに木特有の風味や香りが移り、そのワインの個性として表現されます。

しかし、アンフォラは内側が蜜蝋ワックスでコーティングされていることから、ワインに直接土が触れないようになっています。
つまり、ステンレスタンクと同様にワインに容器の風味が付きませんので、ブドウ本来のピュアな果実味を存分に堪能できます。

樽熟成とステンレスタンク熟成、両方の良い点を兼ね備えたワインに仕上がるのが『アンフォラワイン』の特徴です。

微酸化作用がある

アンフォラは一般的なワイン造りで使用されるコンクリートやステンレスのタンクと比べて気密性が低いため、オーク樽と同じように、ワインに極少量の酸素を届けられる、いわゆる「呼吸する」状態を作り出すことができます。
これによって木樽造りのワインのような、優しいまろやかな味わいを感じられるようになります。

気密性が低いと熟成に向かない…?と思われますが、そうではなく、酸化を促しながらも、温度変化が少ない事でワインの風味を一定に保たれるため、アンフォラは熟成にも向いていると言えます。

外気の影響を受けにくい

アンフォラは素材が粘土のため、外気温に左右されづらく、人の手で温度管理を行う必要がありません。
また、形状が卵型であることで自然対流が生まれ、人工的に攪拌する手間がかからないというメリットがあります。
特にクヴェヴリが埋められている醸造所は低い温度帯が一定で保たれることもあって、発酵と熟成がゆっくりと進んでいきます。

規模と材質が違いますが、シャンパーニュ地方の地下カーヴも古代からの石切り場を使う事で温度を一定に保っています。
粘土を使うアンフォラも温度変化が少なく保存や熟成に向いているのでしょう。

5. 地域別のアンフォラの呼び方

地域別のアンフォラの呼び方

伝統的にアンフォラを使用していた地域として最も有名なのはジョージアです。
この地でアンフォラは「クヴェヴリ」と呼ばれています。
同じようにアンフォラを使用している国は他にもあり、その名称も国や地域によって異なります。

ジョージアと共に、ワイン発祥の地の一つと言われているアルメニアでもアンフォラによるワイン造りの歴史があり、約6100年前の醸造所の遺跡があるアレニの洞窟やエレヴァンの郊外でワイン造りに使われていたアンフォラが見つかっています。
この地でアンフォラは「カラス」と呼ばれています。

ギリシャでは「ピトス」と呼ばれており、150個のアンフォラが地中に埋まる、世界最大規模のアンフォラ醸造所を所有するシチリアの生産者コスは「ピトス」という名前のアンフォラワインを造っています。

ポルトガルのアレンテージョではアンフォラは「ターリャ」と呼ばれ、昔からワイン醸造に使われていましたが、1950年代を境に大量生産の時代に入ると、セメントタンクやオーク樽が多くなり、この伝統はほぼ消滅しました。
2010年、アレンテージョ地方のワイン委員会がアレンテージョDOCに新たに「ヴィーニョ・デ・ターリャ」と呼ぶカテゴリーのワインを承認し規定に加えたことでアンフォラ(ターリャ)でのワイン造りが復活し年々、生産量も増えています。

6. おすすめのアンフォラワイン・自然派ワイン3選

キャサリン・マーシャル シュナン・ブラン アンフォラ2022

キャサリン・マーシャル シュナン・ブラン アンフォラ2022

なめらかさと、爽やかで穏やかな酸味を感じる南アフリカのアンフォラ・ワインです。
ハーブや花、熟した果物の香りが、熟成するとアーモンドやスパイスなどの香りも感じます。

南アフリカワインの評価本の権威であるプラッターで高く評価されたワイナリーが製造しており、シュナン・ブランの特徴ともいえる丸み帯びた果実と柔らかい酸味があり、上質さを感じる1本です。

アウソニア マカオン アブルッツォ・ペコリーノ・アンフォラ 2021

アウソニア マカオン アブルッツォ・ペコリーノ・アンフォラ 2021

新鮮なハーブや熟成した柑橘系の香りにフローラルさも感じるオーガニックワインで深い味わいに酸味の切れがよく、心地よい苦みが後味に広がります。ワイナリーでは、伝統的な手法を実践しながらもなるべく自然に近しい栽培方法を実践。

伝統的な技法を残しつつ、味わいは時代に則したピュアで果実味をしっかりと感じる、ミネラル感を豊富に感じる仕上がりのワインです。

ヴォドピーヴェッツ ソーロ 2013

ヴォドピーヴェッツ ソーロ 2013

ヨスコ・グラヴネル氏と同じイタリア、フリフリ・ヴェツィア・ジューリア地方の造り手。
アンフォラで発酵をした後、大樽で熟成します。

ブドウを皮ごと漬け込む「マセラシオン発酵」によって造られるオレンジワインで、これぞまさに伝統的な技法を現代にまでそのまま継承して生産をする、アンフォラワインの代名詞といえる1本です。

7. まとめ

アンフォラを使ったワイン造りは紀元前6000年にも遡ることが出来る伝統的な技法です。
以前は『自然派』と呼ばれる特定の生産者だけがアンフォラを使用していましたが、現在ではボルドーのトップシャトーを始め、ブルゴーニュの一流ドメーヌもアンフォラ醸造を採用しています。

まだアンフォラ醸造の評価は未知な部分が多いのも事実です。
ワイン造りの原点回帰ともいえるアンフォラ醸造は原始的な要素と最新の醸造技術をバランスよく融合させており、今後も市場で目にする機会も増えてくると思いますし、オレンジワインブームにのったトレンド的な側面も感じますが、これから先もアンフォラワインが注目されることは間違いないと思います。

アンフォラワインを飲んでみたい!と思われた方は、ぜひTHE CELLAR online storeで探してみてください。

※当サイトの内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。また、まとめサイト等への引用を厳禁いたします。
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高丸智天

ガストロノミー “ジョエル・ロブション” シェフソムリエ

【経歴】
1977年 広島県生まれ。
ホテル・レストラン専門学校卒業後、千葉県のホテル内フレンチレストランで10間年勤務したのち
2008年 ガストロノミー “ジョエル・ロブション” 入社
2012年 同店 プルミエソムリエ就任
2016年 同店 シェフソムリエ就任
2023年 テタンジェ社よりシャンパーニュ騎士団 シュヴァリエ 叙任
現在に至る

ミシュランガイド17年連続三ツ星「ガストロノミー “ジョエル・ロブション”」シェフソムリエ。シャトーレストランにストックする3,000種類 25,000本のワインを熟知し、お客様に最適な1本を提案している。また、料理とワインのマリアージュには定評があり、多くの人から高い支持を得ている。