アンリ・ジロー
その歴史は1625年まで遡るという、シャンパーニュメゾンの中でも最も古いメゾンのうちの一つに数えられます。創業者であるフランソワ・エマール氏がアイ村の地に畑を購入したことからその歴史は始まりました。
まもなく創業400年を迎えようというアンリ・ジローが直面した最大の危機は19世紀中ごろ以降ヨーロッパに侵入したフィロキセラと第一次世界大戦の戦禍により、ブドウ畑が壊滅状態に陥ったことでしょう。しかし、この危機を乗り越えようと奮闘したのがエマール家の娘と結婚した10代目当主レオン・ジローでした。戦争から帰還した彼は、シャンパーニュ造りの研究に打ち込み、アメリカの台木に接木するという当時では最先端の技術を導入しました。そうした努力と情熱によって見事に畑を復興させたのです。
アンリ・ジローが所有する畑は全てアイ村のグラン・クリュです。栽培比率はピノ・ノワール70%、シャルドネ30%。栽培・醸造ともに伝統に則った手法で行います。
そんなアンリ・ジローが2016年に発表したのは「ヴァン・ナチュール レヴォリューション」。自らの意思に忠実であるために独自の革命を始めたのです。ナチュールと聞くとノン・ドサージュや自然派といった言葉が浮かびますが、彼が目指すのは昔の手法に回帰していくことでした。そのためにステンレスタンクを全廃し、アルゴンヌ産のオーク樽と卵型のタンクでの醗酵・熟成というスタイルに転換しています。
また、「トリプル・ゼロ」という除草剤・殺虫剤・農薬の使用をゼロにするという試みも30年以上続けられています。その結果、フランスの公的機関に依頼して行った残留農薬検査では189種類の化合物のうち僅か2種類検知されましたが、いずれもマイクロレベルで有意とみなされるものではないとして、残留農薬ゼロが認証されました。
アンリ・ジローのこだわりはブドウだけでなく、樽にまで及びます。材料となるオークの樹はシャンパーニュ地方から約70km程離れたアルゴンヌ産のものを使用します。他のシャンパーニュメゾンでもアルゴンヌ産のオーク樽は使用されますが、当主自ら伐採の作業に立ち会い、樹の選定を行うことは非常に稀です。
近年ではアルゴンヌの森にはテロワールが存在するとして、森の中のどこの樹を使うかといった点まで追求し、選定を行います。アンリ・ジローが誇るトップキュヴェの「アルゴンヌ」ではその名の通りアルゴンヌ産のオークの新樽を100%使用しています。ブドウのテロワールと樽のテロワールが合わさったとき、1+1が2よりも大きくなるような計り知れない味わいを生み出すのです。