ボルドーからロワール、そしてビオディナミへ
「ぶどう樹を対等な存在として敬意を払い理解する」という哲学
ぶどうの樹に愛を注げば注ぐほど、ぶどう樹はその愛に応えてくれると語るティエリー氏。
発芽前には、樹液の流れを妨げないように、樹の生え方などに応じて樹の語りかけを聞きながら選定。発芽の時期はぶどう樹が垂直に育つよう、新梢が重ならないよう、自由に呼吸できるよう、自然な流れで育てる。そして、夏季はぶどうの蔓を伸ばし、ぶどう自身の生育サイクルを妨げず、実が育つよう導く。なにより、ポジティヴな気持ちで仕事をすること。
彼のぶどうに対する考え方はまるで大切な我が子を育てているかのよう。畑仕事は流麗であり、それがワインの味わいにも反映されている。自然の力を秘めた、美しいワインができあがる。
醸造の過程もぶどうに対して愛があふれる
一番驚き、なるほどと思ったのが、「育ったテロワールに合わせて、醸造・熟成する容器を選択していること。」
粘土質豊かな土壌はスペースが必要であり、力強さがある土壌だから広さが必要で、円形の幅の広い樽で熟成させる。一方で、石灰質豊かな土壌は垂直的だから、楕円形の縦型の樽を使用する。
土壌=容器と考えている生産者は世界中を見回してもそういないだろう。
この話を聞くだけで、彼の土壌違いのワインを試したくなるのは私だけではないはず。
丁寧な仕事ぶりとロワールのエモーションを感じるワイン
シュナン・ブランは、ピュアで丸く、懐の広い温かみのあるテクスチャ。旨味も重すぎず詰まっており、気づけばワインが空になってしまう軽快さも併せ持つ。
現地の評価の高さから、日本でもいずれ人気になることは間違いない
現地メディアでは、下記のような輝かしい高評価を得ている。
- 2011年、フランスの著名なワイン雑誌「ラ ルヴュ デ ヴァン ド フランス」で「ヴィニュロン オブ ザ イヤー」獲得。
- フランスを代表する2つのワイン評価誌で最高評価を獲得。「ル ギド デ メイユール ヴァン ドフランス」は2015年版から「ベタンヌ+ドゥソーヴ」は2017年から最高評価。
- 2018年「ラ ルヴュ デ ヴァン ド フランス」誌の「フランスで最も影響力のあるワイン人物200人」の1人に選出
歴史ある地、ロワールはまだまだ日本人にとって開拓のしがいのある産地ではないだろうか。
まだ飲んだことのない人は、一度飲んで欲しい。この記事とQ&Aを読んだうえで、彼のワインを味わえばファンにならないということが難しい。 優しさとフィネス感じる、エモーショナルなロッシュ・ヌーヴをぜひ味わっていただきたい。
造り手のホンネに迫る?
質問状
Interview : Thierry Germain
元々、ボルドーのヴィニュロン家系に生まれ育ちました。家族で常にブドウやワインについて話し、飲んでいたので私が進むべき道だったといえます。しかし本当に好きになったのはワインを通じて知り合ったヴィニュロン達との出会いによってです。
小さい頃は馬に乗るのが好きで、将来の夢はプロの騎手でした。ワインの世界の事を考えたのは後になってからです。子供の頃の思いのせいか、今はドメーヌで馬を飼い、馬で畑の作業をしています。
まず大切にしていることは家族、子供達です。子供のジャンヌとルイにドメーヌを引継いでいくという機会にも恵まれ、私たちのフィロソフィーを伝えていくことです。そして感動をボトルに込めることができるように努めることです。
始めは家族のドメーヌを出て、友達と会社を造りました。しかし90年代に幸運にもドメーヌ デ ロッシュ ヌーヴを引継ぐ提案があり、(妻の)マリーとロワールを訪れて、風景、土壌、光やロワール川に惹かれ、すぐにこの地方に恋に落ちました。そして少し偶然のように、ロワールのヴィニュロンになったのです。
このドメーヌを担うというチャンスを手にし、20年後に完全に買い取って自分のものにできました。土地や家との関係も強いのでしょう、この土地に選ばれたのかもしれません。
祖父が「若くても、10年、20年、30年経っても、良いワインはずっと良いワインだ。」とよく言っていました。私は若いワインの光り輝くようなところが好きです。純粋で生命を感じさせてくれる。まるで子供が生まれて、歩くようになり、大きくなって、巣立っていくようです。若いワインは色々な表情があるので、様々な料理に合わせやすいと思います。
造り手によっては、若い時は落ち着いていないものもあるかもしれません。そういう時は飲む前にデキャンタするなど、アエレーションをしたほうが良いでしょう。
カベルネ フランは様々な料理に良く合います。胡椒のニュアンスはスパイシーな食事ともあいますし、鶏肉とも、脂ののった肉料理とも合います。昔はしっかりした味の中華と合うとよく言われました。私のワインは酸もあり、この酸がバランスを取ってくれるので、繊細な料理、例えば日本料理にも良く合うと思います。
そしてシュナン ブランは、日本に来た時に刺身に良く合うと思いました。純粋さ、酸、ヨードのニュアンスが生魚とよく合います。
まだ咲き始めでしたが、桜が咲いている京都を訪れました。自然と調和して落ち着いていて、とても美しかった。いくつかお寺も訪れました。歴史ある日本の文化を感じられて強く印象に残っています。しかし、ゆっくり観光する時間が無かったので、今度は妻とゆっくり観光もしたいです。新幹線から富士山を見ましたが、ぜひ富士山も訪れたいです。
ドメーヌ ゴビーのワインです。幸運にも90年代にジェラール ゴビーに出会い、ビオディナミに進むきっかけとなりました。1996年の「ムンタダ」はヴィニュロンとしてのエスプリを開かせてくれたワインで、ブドウの栽培についても、カーヴでの仕事の仕方についても影響を与えてくれました。また上級キュベはもちろんですが、例えばカルシネールは果実味豊かで素晴らしく、毎日でも飲みたいですね。
少し気取っているかもしれませんが、洗練されてエレガントなブルゴーニュのピノ ノワールとピュアでエレガントなドイツのリースリングでしょうか。この2つの品種に共通するフィネスがあり、洗練されているところでしょう。
私の赤は”ブルゴーニュを思わせる”とよく言われることがあり、10年ほど前は誇らしいと思いましたが、今は私のワインに自信があるので、ロワールのカベルネ フランらしさ、この地方のエモーションを感じて欲しいです。
どんな土壌で栽培しているか、土壌の構造を理解することは重要です。歴史的に先人によって造られた、塀に囲まれた”クロ”はその当時から特別な畑として認められ、塀に囲まれてはっきりと定義された畑です。そのすぐ傍の畑は似ている土壌であっても、与えてくれるものが全く違うのです。ヴィニュロンとしてそれぞれの畑の独自性を解釈して栽培することが大切です。2人のヴィニュロンがいれば、各自の解釈と、どのように表現したいかが異なるので、2つの違うワインができるのです。なので土壌を理解することは非常に大切ですが、必ずしも分析が必要というわけではありません。先人の知識は分析によってではなく、農民としての良識によって、分析よりも正しく偉大なテロワールだとわかっていたのです。
所有している畑、それぞれの特色はありますが、ソミュール・シャンピニーのアペラシオンはこの土地の特徴である母岩が白亜質の石灰岩テュフォーの粘土石灰質土壌であり、ロワール川の影響を受け、夏はやや涼しく、冬は穏やかな温暖な地域です。
ドメーヌのフィロソフィーとしては、まずはブドウ樹を対等な存在として敬意を払い、理解することです。
発芽前にはブドウ樹を理解して、樹液の流れを妨げないように剪定することが大切です。ロボットのように機械的に剪定するのではなく、それぞれの樹の生え方に応じて、ブドウ樹の語りかけを聞きながら、剪定するのです。
発芽の時期はブドウ樹が垂直に育つように導きながら、成長を助けて補強する501番のプレパラシオンを使います。(輸入元注:501番は水晶の粉末を使用したプレパラシオン。ブドウの葉の光合成のパワーを高め、病気に対する抵抗力を高める効果があります) 夏季剪定は行わず、ブドウの蔓を伸ばします。蔓の成長が終わると、ブドウ樹のエネルギーは実に注がれるのです。途中で剪定してしまうと、エネルギーの流れを妨げてしまい、その年だけでなく、翌年以降の成長にも影響します。
ブドウ樹に愛を注げば注ぐほど、ブドウ樹はその愛に応えてくれるのです。春から夏にかけて、畑の作業がある時も、無い時でも、常にブドウ樹と繋がっていることが大切です。そして常にポジティブな気持ちで仕事をすることが大切です。
温暖化に関しては様々なことが議論され、南の品種を北で栽培するなども検討されていますが、問題はそこではないと思います。まずは理解すること、各地域がどのように機能していくか、自然が与えてくれる多様性を新たに検討する必要があると思います。例えば剪定の時期や方法を考え直したり、接ぎ木の台木を再検討するなど、カベルネ フランとシュナン ブランの個性を考えながら、再考していく必要があると思います。もちろん収穫時期の決定に注力を払うには大切ですが、ブドウ樹への愛も重要です。ビオディナミをしていると、自然や植物を愛する精神が育まれているので、既に恵まれています。
特別にはありません。あえていうなら、育ったテロワールにあわせて、醸造・熟成する容器を選択していることです。
例えば、粘土質豊かな土壌はスペースが必要です。力強さがある土壌なので広さが必要で、円形の幅の広い樽で熟成させます。一方、石灰質豊かな土壌は垂直的なので、楕円形の縦型の樽を使用します。幅の広い容器で熟成させると、石灰質のダイナミックさが表現できないのです。容器の形によって、ブドウが持っているテロワールの純粋さや個性をゆがめてしまうのです。
カベルネ フランはフラン ド ピエ以外は除梗します。ベルトコンベヤーでタンクへ運び、ブドウを丁寧に扱うために、ポンプは使用しません。
抽出は無理にしないようにしており、破砕やピジャージュなどブドウを攻撃するようなことはしません。決まった作業、工程をするのではなく、毎朝、状態を見てどうするか決めます。ブドウが表現するヴィンテージの個性を尊重した醸造を心掛けています。ワインを飲んだ時にヴィンテージの個性が表現されていることは大切です。
熟成もブドウに合わせた樽を使い、新樽は使わず、1-10年使用した樽を使います。赤の樽はシュヴァル ブランやラトゥール、白はアルフォンス メロなどから購入しています。ブドウに合わせ、400-2500Lの丸形や楕円形の樽を使用します。熟成はどれだけ長くという期間で判断するのではなく、ワインがバランスの取れた状態になっているかを重要視しています。
瓶詰めは月のカレンダーに従って行いますが、ビオディナミのワインは生きているので数日の違いでワインが変わってしまうこともあり、タイミングが難しいのです。試飲をしながら、準備ができたとワインが伝えてくれる時を逃さないように瓶詰めしています。
2020年からグランヴァンの一部を長期熟成用にとってあり、2030年からは10年熟成させたワインを出荷できるようになります。ドメーヌのフィロソフィーを子供たちに伝え、次の世代に継承していくことは大切だと思っています。
またクロの壁を修復するための団体を作りたいと思っています。クロは継承すべき遺産ですが、壊れた壁を修復する資金や手段がない生産者もいるので、クロを継続させるための基金を作って修復や存続を手伝える活動をしていきたいと思っています。