ドメーヌ・タカヒコをはじめとする余市や、多くのスタート・アップ生産者を輩出する10Rワイナリーが位置する岩見沢など、源泉が点在している。 一方で、2018年、そのような発展の形とはやや性質を異にする出来事が起こった。 ブルゴーニュの名門ドメーヌ「ド・モンティーユ」の函館への進出である。 歴史と基盤をもつブルゴーニュの生産者。そのような老舗ワイナリーが、新天地として、まだ黎明期にある日本の北海道を、かつワイン産地として殆ど歴史を持たない函館を選択したことは、多くの驚きを呼んだ。

当初2.5haだった自社畑は、36haにまで広がりを見せた。ヴォルネイの小規模ドメーヌという既存のイメージを一新しようというような動きは、ド・モンティーユのラインナップを鑑みるに見事に作用していると言えるだろう。そのように、まるでかつての栄華を取り戻そうとするかの勢いで、グランクリュ街道を突き進む、エティエンヌ・ド・モンティーユ。そんな彼が、チャレンジのネクスト・ステージとして選んだのが、「北海道」だったことは、やはり意外というほかないように思われる。

現在は、余市をはじめとするブドウ産地の優良な契約農家から供給される葡萄から、ピノ・ノワール、ツヴァイゲルト、ケルナーの3種のワインをリリースしている「ド・モンティーユ&北海道」。
2018-2022年ヴィンテージまでの5年間について、醸造は道内岩見沢でブルース・ガットラヴ氏が運営をしているカスタム・クラッシュワイナリー「10Rワイナリー」にて行われている。「日本という環境で北海道のブドウを醸造する方法を学び、理解する期間」という位置付けだ。 コロナ禍によって、エティエンヌ氏が来日してのワインメイキングは困難な状況であるが、バレルサンプルのテイスティングやリモートでの頻繁なコミュニケーション、そして日本でのワイン造りに精通したブルース氏のサポートによって、彼が目指すブルゴーニュの技術・ノウハウと日本のテロワールの融合は、着実に前進の模様を見せている。

既に、2ヴィンテージのリリースを果たした「ド・モンティーユ&北海道」。
買いブドウの委託醸造という、エティエンヌ氏にとってもチャレンジングな条件でありながら、そのビハインドを感じさせない完成度は、「ド・モンティーユ」の実力を強く感じさせるものだった。北海道の冷涼な気候を美しく反映した仕上がりとなっており、そのエレガントで焦点の合った味わいは、エティエンヌ氏のテロワール解釈の精度の高さを裏付けるようでもある。

エティエンヌ氏の父、ユベール氏は映画『Mondovino』において「テロワールの保守者」としてのヴィニュロンの姿勢を世界に示した人物としても知られる。そんな父の意匠を受け継ぐエティエンヌ氏も、ムルソー、ヴォルネイ周辺の詳細な土壌分析を推し進めた功績をもち、テロワールのリサーチャーとして大きな存在感を示す人物だ。
だからこそ、全面ビオディナミ農法を採用という栽培方法の革新を成し遂げることができたと言ってもいいだろう。 函館での葡萄栽培からワイン造り。それが未知の領域であることは間違いない。
そんな白紙の土地に、エティエンヌ氏の情熱とノウハウを有する「ド・モンティーユ&北海道」が大きな知的躍進と技術の発展を齎してくれることへの期待は大きい。