2018年、青山でワインバーを経営しながら、長野県にある千曲川ワインアカデミーで、ブドウ栽培とワイン醸造、ワイナリー経営などを学ぶと共に、自身のワイナリー設営に向けた畑も探していた。長野県内でも畑を探したが、土地が細分化されていて、纏まった土地を入手するには多数の地主の了解を得る必要があり、現実的ではなかった。
そんな中、余市で出会った現在の畑は魅力的だった。元牧草地と元果樹園はそれぞれ4haと広大で、地主もそれぞれ1人だけ。 東向きの丘陵地はブルゴーニュ地方のコート・ドールの丘を彷彿とさせ、ブルゴーニュ好きの心がくすぐられた。朝日を浴び、風も抜けるので湿気が溜まらない環境。日本海と余市川を臨む位置にあり、海や川に近く温暖な環境なのも素晴らしい。特に気に入ったのはサクランボや梨などが植えられていた元果樹園だ。温暖な気候を活かした早生のサクランボ(佐藤錦)が人気で、有名芸能人がお取り寄せしていたそう。元果樹園の土地を狙っていたが、先に決まったのは隣の元牧草地。少し肩透かしをくらったが、翌年には狙っていた元果樹園も手に入るのだから、万々歳としか言いようがない。

畑を開墾して嬉しい発見もした。土壌が灰色火山礫が風化してできた白灰色の細かい土で、水はけに優れているのだ。余市では保水性に富む赤粘土土壌のところが多い中、世界の銘醸地に比べ降雨量が多い日本の環境を考慮すると、水はけの良い土壌を確保できるのは非常に有難い。温暖な気候、風通しの良さ、水はけの良さ。必要だと考えていた要素が揃う場所に巡り合えた。

栽培品種で一番栽培面積が広いのはもちろん、ブルゴーニュワインの筆頭品種であるピノ・ノワール(2ha)とシャルドネ(1ha)。計8haの畑の植栽面積が6haなので、全体の半分を占める。
特に元果樹園に植わるシャルドネの出来は最高だそうだ。基本的に畑は東向きの斜面だが、シャルドネが植わっている一角のみ南東向きの斜面になっており、畑の中でも特に温暖な環境。人気の早生のサクランボもこの場所で栽培されていたらしい。また、実際に栽培してみて、余市の環境はピノ・ノワールの栽培に向いていると実感。余市では、昔からツヴァイゲルトレーベとケルナーが盛んに栽培されてきており、今も栽培面積は広い。ただ、昨今の温暖化の影響で酸落ちしやすいのも事実だそう。そんな中、栽培が難しいと言われてきたピノ・ノワールは逆に、温暖化の影響で栽培しやすい品種になってきた。Misono Vineyardでも一番出来がいいと感じているそうだ。


メインの2品種以外では、黒ブドウのカベルネ・フラン、ガメイ、白ブドウのソーヴィニヨン・ブラン、アルバリーニョ、アリゴテ、ナイアガラが栽培されている。ご存知の方もおられると思うが、ガメイとアリゴテはブルゴーニュでピノ・ノワールとシャルドネに次いで多く栽培されている品種だ。ここでもブルゴーニュ好きの顔が現れる。
ソーヴィニヨン・ブランとカベルネ・フランは、苗木がなかなか手に入らなかった開墾時に入手できた品種。温暖化の影響もあってかカベルネ・フランは予想よりも育ちがよいそうだ。一方、ソーヴィニヨン・ブランの成長は遅く、この地には適さないと判断し、アリゴテへ植え替えつつある。アルバリーニョは栽培が盛んなスペインやポルトガルと同じように棚仕立てで栽培。両産地と同様に余市は海が近い環境なので、品種との相性がよいのではないかと踏んでいるそう。