山道をしばらく登っていくと、突如シャープでモダンな建物が現れた。一瞬「こんなところに美術館?」と思ったのだが、視線を奥にやると一面のブドウ畑が目に入り、ワイナリーだと気付かされる。 ここが今回の訪問先、岡山県新見市哲多町にあるdomaine tettaだ。洗練された空間使いと眼下に広がる一面のブドウ畑を目にすると、海外のワイナリーに来たような錯覚に陥ってしまう。

ワイナリーの前に広がる8haの広大なブドウ畑。圧巻の景色だが、少し前までは全く違う姿だった。平成初期に県による造成で出来た生食用ブドウの畑だったのだが、経営していた農業法人が撤退し、20年近く耕作放棄地となっていたそう。ビジネスとして成り立たなかったのは仕方ない。しかし、地元の景色が荒れていく姿を見るのは、やはり辛い…。そういう想いもあり、高橋さんは手を挙げたという。自分がここでブドウ栽培しワインを造る、と。
しかし、なぜブドウ栽培をしたことも、ましてやワイン醸造の経験がない高橋さんが、ワイナリーを造ろうと思ったのだろう?・・・その秘密は畑の環境にある。

畑に足を踏み入れると、白い岩や石が畑のあちらこちらにある。新見市は南北に広がり、場所によって土壌環境が異なる。南に位置する哲多町は、石灰岩と赤土で構成される石灰岩土壌を誇る。石灰質はブルゴーニュやシャンパーニュ地方といったワインの銘醸地に多く見られる土壌で、保水と水はけのバランスが良いことで知られている。日本で石灰を採掘できる場所は非常に限られている上、石灰岩土壌でブドウ栽培しているワイナリーは更に限られる。高橋さん曰く「日本では、domaine tetta以外で1、2社程度ではないか」とのこと。これはかなり貴重な武器である。実は、この土壌環境に目を付け、以前、勝沼醸造がこの地でメルロ、シャルドネ、ピノ・ノワールといった欧州系ワイン用ブドウを栽培していたそう。大手も認めるポテンシャルの高い場所なのだ。

domaine tettaでは、可能な限り自然な環境でブドウを栽培すべく、除草剤や化学肥料を使わない。岡山県内では北側に位置することから台風の直撃はほぼ無いか、年々降雨量は増えており、畑ではレインカットが欠かせない。レインカットがあることで病気の発生率がぐんと下がり、農薬の使用量もかなり抑えられるので、環境にも人にも優しい栽培が可能なのだ。


多品種を栽培しているので、仕込みの数も多い。収穫量に合わせて、様々な大きさのタンクを用意し、個別に対応しているそうだ。収量が多い品種では、区画を分けて仕込むものもあるそう。8haの広さの畑の管理と醸造の全てを、7人の常駐+数人のパートタイムの方で対応されているとのこと。常にフル稼働に違いない…

多品種を栽培しているからこそ、ブレンドの面白さが際立つ。特に、domaine tettaでは醸造用ブドウのみならず、生食用ブドウも多く栽培していることもあり、試してみたくなるブレンドが沢山ある。
挑戦は続く。domaine tettaのワインは海外にも輸出されているのだ。きっかけはアメリカにあるワインインポーターから届いたインスタのDMだった。現在はアメリカのニューヨーク州を始め、ミシガンやテキサス、カリフォルニアといった場所でもdomaine tettaのワインが流通されているのだ。しかも、ダイナーといった場所で地元のご飯と一緒に提供されているそうで、安芸クイーンなどの日本固有品種が人気とのこと。現在はアメリカ以外にもヨーロッパにも卸しているというのだから脱帽する。日本のワインがワインの本場で現地の食と一緒に楽しまれているという光景に、グッとくるものがある。

