▲ 山の斜面にあるブドウ畑。太陽の日差しを受け美しさが際立つ。
大阪府柏原市に降り立った。柏原市は大阪府の中央東部に位置し、市の東側は信貴生駒山系を隔てて奈良県と接し、西側には大阪平野が続く。山地から低地へと高低差に富んだ地形が特徴の街柏原市にある堅下(カタシモ)という土地で、100年以上に亘ってワインを造り続けている老舗だ。
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ワイナリーにある550mlサイズの古いワインボトル。歴史を感じる。
技術的にデラウェアでスティルワインを造るのが難しいのであればと、最初に取り組んだのはジュース造り。ワイナリーだからこそできる収穫後即絞りによるブドウ本来の香りや風味が楽しめる一本に仕上がった。
その次に取り組んだものが面白い。
なんとブランデー(白ブドウの果汁を蒸留したお酒)である。ジャパニーズブランデー葡萄華35度は1990年頃から研究を重ね、2001年に製造販売、G20大阪サミットで採用されたほか、2021年にはサンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティションで金賞を受賞。日本のブランデーでは唯一の受賞である。今まで誰もやったことのないことをやってのけてしまう。そこには悩みや葛藤もあっただろうが、高井さんはさらっとしか語らない。
その次にリリースしたのが、スパークリングワイン「たこシャン」だ。
こちらも1990年頃から研究を重ねてきたものだ。まずネーミングがニクイ!たこ焼きに合うスパークリングワイン。気軽に本格的な瓶内二次発酵のスパークリングワインを楽しんでもらいたいという気持ちが前面に現れている。たこシャンはG20大阪サミットで採用されたほか、「ジャパンワインチャレンジ2019」にて、たこシャン2018が銅賞を受賞している。
そして最後にデラウェアを使ったスティルワインの製造に繋がるのだ。ジュース、ブランデー、スパークリングワインで培った技術とノウハウをもとに2000年頃から研究開発を進めたようだ。今は、この他にもデラウェアを使ったノンアルコールワインも販売している。
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4代目と5代目が揃って、ワインの発酵チェックを行う姿。無事に発酵が進んでいるようで、この後、自然と笑顔が溢れた。
嫌々始めたかもしれないが、あっという間の年月。柏原の大地にブドウ畑を切り開いた初代。100年以上前にワイン造りを始めた2代目。50年前に全く安定しない瓶で甘口の瓶内二次発酵のスパークリングワインを造った3代目。糖分をかなり残して瓶内二次発酵していたそうで、瓶内にガスが大量に発生して頻繁に蓋が飛んでいたようだ。
前述のデラウェアとの向き合い方で気付かれたと思うが、4代目高井さんは実験好きで、まずはやってみるという精神の持ち主だ。ブドウ畑は壮大な実験場となっている。
▲ それにしても高井さんは健脚だ。かなりの斜面をスイスイ登っていく。早口で話しながら、手元にはハサミを握りしめ、不要なブドウの花を切り落とす。70歳を超えているとは信じられない、頭脳と手足である。
畑には謎のブドウが沢山植わっている。聞いたこともない品種が多いのだ。
例えば、「ポンタ」。巨峰とブロンクスシードレスを交配したハイブリッドで、大阪府がオリジナル品種としてブランド化を目指すブドウだ。その他にも山ブドウとマスカット・ベイリーA、スペイン系品種、カベルネ・ソーヴィニヨン等とのハイブリッド、イタリア品種のハイブリッド等々、色々と紹介される。なぜここまでハイブリッドを育てるのだろう。
例えば、山ブドウとのハイブリッド。山ブドウは病気になりにくいという強みがある一方、香りや味わいがワイルドで商品化が難しい。山ブドウの病気への耐性を残しつつ、他の品種の風味を引き出し、お客さんが飲んだことのない面白い味わいを提供できるか。高井さんは実験をしているのだ。
他にも、あるハイブリッドでは、ブドウ品種を掛け合わせることで樹勢を抑え、小さいブドウから凝縮した味わいを作りだそうとしている。
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生食用ブドウの花の切り落とし方をワイン用ブドウで試しているという高井さん。
ハイブリッドだけではない。種からもブドウを育てているというではないか。通常、ブドウの育成は、親と同じ性質を引き継いだブドウをまとめて栽培・収穫する方が管理しやすいため、挿し木や接ぎ木等を通じて行われることが多い。種から栽培すると、親と異なる性質が現れる可能性(突然変異)があり、倦厭されるのだ。しかし、高井さんは、堅下本ブドウ(甲州)を敢えて種から栽培し、突然変異を狙っていると言う(例えば、ピノ・グリはピノ・ノワールの突然変異種)。いつ突然変異が起こるのか、起こったとしても、それが望む姿かも分からない。それでも心血を注いで、その時を待っているのだ。話のスケールが違う。
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民家の屋根の上にあるブドウの木。今は少なくなってきたが、昔はこれが当たり前の景色だった。
高井さんの畑に植わっている堅下本ブドウは1878年に新宿御苑より譲り受けた甲州ブドウの苗木。もう一つの紫ブドウは江戸時代以前から明治初期にかけて盛んに大阪で栽培されてきたと言われるものだ。因みに、大阪では、今年3月に「大阪RN-1」という醸造用の黒ブドウが農林水産省に品種登録された。アントシアニンが豊富なオリジナル品種だ。
カタシモワイナリーには樹齢100年以上の堅下本ブドウ(甲州)が4本植えられていることは確かだ。最年長は108歳。今も現役でワインを産み出している。これ程古い木を管理しているワイナリーは世界を見渡しても多くない。
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畑にある108歳の堅下ブドウの古木。化成肥料に頼らない土壌管理をしているからこそ、ここまで生きながらえているのだ、と土壌管理の大切さを語る高井さん。