ブドウは一度植えるとずっと付き合っていくもの。だからこそ、「自分がぐっとくる品種じゃないとやってられない」。池さんが育てるのは、ピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランだ。

ブドウの木を植えて9年目。ブドウの木の主幹はしっかりと締まっていて、理想的でゆるやかな成長を遂げている。畑は見込んでいた通り、いい場所だった。南西向きで日照量がしっかりある。穏やかな風が終始スーっと感じられる。標高は高いが、風があるので冷気が溜まらず、凍害もでないそうだ。また、風が吹くことで湿気が溜まりにくく病気にも強い。農家によって株元の雑草に対する考えは異なるし、池さんも昔は刈らなかったと前置きされた上で、今は雑草があると湿気が溜まりやすいと考え、しっかり刈るようにしているそうだ。
粘土質土壌は養分が多く含まれるので、味の濃いブドウに仕上がる一方、水はけの悪さがネックになることも事実だ。池さんの畑はなだらかな斜面になっているので、水の流れはいい。また、池さんが信頼を寄せ、シードル用のリンゴを買い入れている農家のアドバイスを聞き、ブドウの根元に土を盛り高畝に仕上げることで、更に水はけのよさを確保している。

ここまでしっかりと畑の管理をしても、ブドウは病気にかかりやすい。基本的に殺虫剤はまかないが、最小限の農薬は散布する。農薬散布はタイミングが命だと仰る。効果の8割方はタイミングで決まる、と。しっかりと畑のブドウと向き合っているからこそ、タイミングを逸せず、必要最小限の量に抑えることができるのだろう。
ワイン用ブドウ栽培を始めて5年後の2018年8月、ワイナリーが竣工した。それまでは近くのワイナリーに委託醸造をお願いしていた。ワイナリーを設立するためには、いくつかの条件をクリアにする必要があるのだが、2017年10月、委託醸造を依頼した近所のワイナリーの様子を見学している時に、条件が全て揃っていることに気付いた。今だ!と思い、全力で動いたという。1年未満で竣工しているのだからそのエネルギーに驚かされる。

最近リリースした「グラスホッパー」という名のオレンジワインは、ブドウの個性をうまく引き出せたからこそ生まれたワインだ。お客様からのリクエストが多い一本だ。池さんは言う。
ワインが大好きだという気持ちに突き動かされている池さん。大学生の頃、イタリアワイン専門ショップで勧められた1300円くらいのソアヴェのマグナムボトルを食中酒として楽しんだ時にワインの美味しさに目覚めたそうだ。30代前半に男友達と夜桜を見ながら湯呑で飲んだワインも異様に美味しかった。ワインは気取らなくていいんだと、ワインに対する接し方が変わった瞬間だ。その後、30代半ばで奥様と一緒に行ったフレンチレストランで飲んだワインも忘れられないという。飲んで感動したことは体が覚えているのだ。

今はその感動を届ける側にいる。ブドウ栽培も醸造も奥様と2人だけなので労働力は限られているが、その中で天塩にかけてブドウを育て、ワインに仕上げる。手間暇がかかるので製造本数が限られているが、徐々に本数も増えて、必要とされるお客様の手元に届くようになってきた。
ワインが大好きだという真直ぐな気持ちで造られたワインは、優しい飲み口で寄り添ってくれる、そんなワインだ。「自分が造ったワインは、やっぱり自分っぽい。」と仰っていた池さん。誠実な人が誠実に造ったワイン。皆さんも試してみませんか?