余市で最も新しいワイナリーの一つ「山田堂」を立ち上げた山田雄一郎さんは、スペインの醸造学校で学問を修めた経験を持つ。選んだ土地はリベラ デル ドゥエロ、リオハに次ぐスペインを代表する銘醸地だ。

現地のワイナリーの跡取りたちの中で、葡萄の栽培から醸造までを修めて帰国した山田さんは、その脚で山梨県へ向かった。日本で自身のワインを造ることを目指していた彼にとって、歴史、伝統そして何よりも情報の宝庫である山梨県を訪れ、そこでのワイン造りの経験を積むことは必然的なことだった。
将来独立を前提にしていた自分にとって山梨で経験を積むことには大きな意義があると感じていました。それに、日本でワイン造りをするなら、甲州やマスカットベーリーAを知らずにワイン造りは語れないとも思っていました。

機会に恵まれ、1939年創業の老舗ワイナリーである白百合醸造に就職。5年間ワイン造りに携わった。独立のためのステップとしての、ある種修行のような位置づけのワイン造り。その経験を白百合醸造という生産量の多いワイナリーで得たことは、山田さんにとって非常に大きな意味を持っている。

2020年にドメーヌ・タカヒコでの研修を終えた山田さんは、2021年の3月から同じく余市町内に住居と倉庫、圃場を備えた土地を取得した。 自園が位置するのは、自宅の裏手を流れる小登川(このぼりがわ)という小川を越えた西向きの斜面上。小川に面した畑であるため石が多く水捌けのいい土地だ。そこに現在植えられている前所有者が栽培していたナイアガラは、一部来年に植え替えの予定。そこで山田さんが選んだのがミュラートゥルガウだ。スペインではなくスイス由来の交配品種であるミュラートゥルガウは、ドイツなど冷涼なワイン生産国で広く栽培されている。 ドメーヌ・タカヒコでの研修の中で、北海道の葡萄から初めて山田さんが造り上げたロゼワインにも、主要品種としてミュラートゥルガウを採用した。

自社圃場に加えて、山田さんはドメーヌ・タカヒコにて自社畑「ナナツモリ」の一部の作付けを増やす試みに携わっている。そこで収穫されたブドウの一部は購入しワインにする。ピノノワールなどが植えられており、北海道では珍しい新しい剪定方法の試みも行なっている。
