シャンパーニュ(Champagne)はフランスを代表するスパークリングワインの一つです。英語で発音すると”シャンペィン”のようになるのですが、本稿では本国の発音に近づけてシャンパーニュで統一してお話していきます。
シャンパーニュは畑ごとの格付けや主要品種、製法などで分類されていますので、ある程度の知識があると選びやすくなります。今回は、シャンパーニュについての解説とおすすめのワインを紹介していきます。
目次
シャンパーニュとは
シャンパーニュとは、フランスの首都パリの北東部、シャンパーニュ地方で造られるスパークリングワインを指します。スパークリングワインとはその名の通り発泡性ワインの総称で、シャンパーニュのほかにもイタリアのフランチャコルタやスペインのカヴァ、ドイツのゼクトなどがよく知られています。
実はシャンパーニュ地方以外で造られるスパークリングワインは「シャンパーニュ」と名乗ることができません。
北の産地ならではの味わいの特徴や、それを構成するブドウ品種、気候など、知ればもっと楽しめる魅力にあふれたシャンパーニュの世界。次項より、シャンパーニュの基礎知識をお伝えしてまいります。
シャンパーニュの基礎知識
シャンパーニュはフランス北東部にある地方で、その北側に位置するランスで緯度は49.3度。一般的にワイン用のブドウ栽培に適しているとされるのが南北ともに緯度30~50度ですので、まさに北限の産地の一つと言えます。
季節による温度変化は比較的少なく(年間平均気温約10度、生育期で14.7度前後)、日照時間も限られるため、温暖化が問題視される昨今ですが、ブドウは綺麗な酸を保ったまま育ちます。その酸が、繊細で優雅なシャンパーニュの味わいにも大きく関係しています。
なお、シャンパーニュ地方では、スパークリングワイン(シャンパーニュ)以外にも、コトー・シャンプノワ(Coteaux Champenois。白・ロゼ・赤)や、ロゼ・デ・リセイ(Rosé des Riceys。100%ピノ・ノワールのロゼ)などの非発泡性ワインも造られています。
シャンパーニュで栽培されるブドウ品種の特徴
シャンパーニュで栽培されている主なブドウ品種はシャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエの3品種です。
(アルバンヌ、プティ・メリエ、ピノ・ブラン、ピノ・グリも使用が認められていますが、この4品種を合わせても全栽培面積の0.3%程度ですので今回は割愛します。)
上記3品種の特徴を表にまとめて解説します。
シャンパーニュの代表的な産地
シャンパーニュ地方の個性を見ていく際に、大きく5つに分かれた地区があります。北から「モンターニュ・ド・ランス」「ヴァレ・ド・ラ・マルヌ」「コート・デ・ブラン」「コート・ド・セザンヌ」「コート・デ・バール」。それぞれについて簡単に下の表にまとめます。
生産地区ごとの特徴
地区 | 特徴 |
モンターニュ・ド・ランス | 一般的に十分なボディを持ちながら、エレガントな酸との調和によってバランスに優れたワインを多く産出する地区です。ピノ・ノワールの優良な産地としても知られています。9つのグラン・クリュ(特級)の村を持ち、アンボネやブージィ、ヴェルズネイなど人気の高いエリアを数多く含んでいます。非発泡性ワイン「コトー・シャンプノワ」の産地としても有名です。 |
Montagne de Reims | |
ヴァレ・ド・ラ・マルヌ | この地区を流れるマルヌ川に沿って長く東西に広がるエリアです。西に向かうと川を挟んで渓谷がそびえ、東側のアイ村から先には日照量の確保しやすい開けたエリアがあります。ムニエの生産が中心ですが、ランスやアイ村のあたりから東側では質の高いピノ・ノワールも収穫されます。グラン・クリュはアイとトゥール・シュル・マルヌのふたつがあります。 |
Vallée de la Marne | |
コート・デ・ブラン | 優れた石灰質・白亜の土壌から高品質で洗練されたシャルドネを産出するエリア。ここのシャルドネから生まれるワインは常にフレッシュでデリケート、エレガンスに溢れた仕上がりになります。6つのグラン・クリュがあり、アヴィーズ、クラマン、ル・メニル・シュル・オジェはここに含まれます。このエリアのシャルドネを使って素晴らしいブラン・ド・ブランが数多く造られています。 |
Côtes des Blancs | |
コート・ド・セザンヌ | ここはコート・ド・ブランの南西に位置する地区。ランスからは約72kmほど離れた場所にあります。コート・ド・ブランと同様の白亜土壌ですがやや粘土質が加わることで、豊かなミネラルや酸味に加えて、ふくらみのある果実味とコクをもったシャンパンが生まれます。特級や1級格付けの村はありませんが、今後さらに期待される地区の一つです。 |
Côtes de Sézanne | |
コート・デ・バール | シャンパーニュ地方の中で最も南側に位置しているため、この地方としては少し温暖な気候です。そのためヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区などと比べて果実味豊かな味わいのピノ・ノワールが多く栽培されています。ピノ・ノワール100%で仕立てるロゼ・デ・リセイはこの地区から生まれます。コート・ド・セザンヌと並んで、今後もっと評価が上がるであろう地区の一つです。 |
Côtes des Bar |
シャンパーニュの歴史
シャンパーニュ地方はローマ帝国の影響もあり、1世紀にはブドウ栽培が行われていた歴史あるワイン産地です。元々は赤ワインの産地であり、ブドウも今と違う品種を使っていたようです(モリヨン・ノワール、グエ・ノワール、フロマントーなど)。当時のワインは味わいも軽く色も薄いワインだったと考えられています。
496年、ランスのノートルダム大聖堂でクロヴィス1世の洗礼式が行われたことをきっかけに、歴代フランス国王の戴冠式がランスで執り行われるようになり、ここで扱われるワインは「王のワイン」としての名声を得ることになります。そして1575年、アンリ3世の戴冠式ではついにシャンパーニュ地方産のワインのみが提供され、その名声が定着することとなりました。
しかし、スパークリングワインとしてのシャンパーニュが広まるまでには、幾つかの技術革新が必要でした。
1670年代にはある修道僧が、ワインをブレンドして品質を保つアッサンブラージュ法を考案します。続いて、ブドウに負担をかけない圧搾法により、黒ブドウから白ワインも安定して生産できるようになります。この間、ワインが発泡するメカニズムも解明されて、ガス圧のコントロールが正確にできるようになってきます。
並行して、フランス国内のガラス製造技術の向上によって、シャンパーニュのガス圧でも破損しにくいボトルが造られるようになり、1729年の勅令により、流通が樽から瓶へと移り変わってゆき、翌年からは一般に向けても本格的に流通が拡大していくことになります。木に縄を巻き付けた古典的な栓も、コルク栓になって普及してきます。
ナポレオン3世の命により鉄道網が拡充することで流通はさらに拡大、加速的に市場へ浸透していきます。
広がる名声とともに、「シャンパーニュ」という呼称の不正利用が目立つようになり、製品の保護を目的とした規則を確立する動きが出てきます。1919年には原産地呼称(A.O.C.)としての「シャンパーニュ」が制定されます。現在使用されるブドウはこの時定められました。
2015年7月4日、シャンパーニュ地方の丘陵、メゾンとカーヴが、シャンパーニュのワインを生み出した文化的景観としてユネスコ世界遺産に認定されました。
シャンパーニュとシャンパンの違い
シャンパンとは、「Champagne(シャンパーニュ)」というフランス語を読みやすいようにアレンジした呼び方です。「シャンパーニュ地方」や「シャンパーニュ地方産の定められた製法で造られたスパークリングワイン」を指す言葉です。
日本ではどちらも使われる言葉ですが、現地につながりの深い方ほど「シャンパーニュ」という表現を使うことが多いように思います。
シャンパーニュの分類
シャンパーニュは大きく分けてランク、品種と製法、甘辛度の3つで分類されます。
ここからはそれぞれ順番に解説していきます。
ランク
「ランク」とは主にシャンパーニュの価格帯のことを指しており、同じメゾンであればランクが高いほど時間や良い素材、コストがかけられており、その分高くなる傾向があります。
今回は分かりやすくスタンダード、ヴィンテージ、プレステージの3つのカテゴリーに分けて解説します。
品種と製法
シャンパーニュは白ワインと赤ワインを混ぜることが認められています。
ここではロゼ、ブラン・ド・ブラン、ブラン・ド・ノワールの違いを表にまとめて解説します。
甘辛度
シャンパーニュは瓶内二次醗酵の後、瓶口に溜めた澱を、デゴルジュマン(オリ抜き)によって取り出し、目減りした分を蔗糖を混ぜたワイン(リキュール・デクスペディシオン)を使って補充します。その際に、二次醗酵までに極辛口になっているワインの甘辛度を調整します。これをドザージュ(糖分添加)と呼んでいます。
シャンパンの甘辛度を示す表記、残糖値について以下に記しましたので選ぶときの参考になさってください。
シャンパーニュの格付け
シャンパーニュ独自の格付け「エシェル・デ・クリュ」は1919年に導入されました。ブドウは天候により収穫量にバラつきが出やすいため、栽培農家の保護制度として生まれたといわれています。
格付けは村(コミューン)単位で行われ、ブドウの取引価格基準とされています。シャンパーニュにある319の村それぞれに対して、公定価格から100%〜80%で取引価格の格付けがされ、村ごとに比率に応じた価格で取引が行われていました。
中でも格付け100%の17村はグラン・クリュ、格付け99%~90%の44村はプルミエ・クリュと認定され、複数の村で収穫されたブドウでもグラン・クリュのみであればシャンパーニュのラベルに“Grand Cru”と表記することができます。
1999年からは格付けによってブドウの価格を決定する制度は廃止され、自由取引となっていますが、実際は廃止以前から定められた価格よりも高値で取引されることが多かったようです。
現在は格付けが価格の高さと必ずしも比例するとはいえませんが、ブドウの品質の評価基準として機能しています。
シャンパーニュが人気な理由
シャンパーニュが人気な理由は複数考えられます。
歴史でも少し触れましたが、フランス国王の戴冠式や国家をあげた重要な宴席でもシャンパーニュは度々採用されており、祝宴に相応しいワインとしてのブランドイメージがあることは大きいと思います。また、その栄誉に傷をつけることのないように、シャンパーニュは厳格な基準を満たして造られているため、価格に見合った質の高いワインが多いことも現代においては重要な要素です。
立ち昇る泡立ちは優雅で気品に満ちており、ミネラル感や豊かな酸味は繊細で上質な料理との相性も抜群です。ブドウ品種やヴィンテージごとの個性をブレンドしたり、時にダイレクトに感じさせてくれる味わいや醸造のバリエーションの豊富さは、料理とのマリアージュや相手の好みに合わせたプレゼントなど様々なシーンで活躍します。
嗜好が多様化した昨今において、地方としての共通する個性(アイデンティティ)を持ちながら、豊かなバリエーションを誇り、高い付加価値を感じさせるシャンパーニュは今後も必要とされるワインであり続けるでしょう。
シャンパーニュに合う料理
シャンパーニュは食前から飲まれる機会の多いワインです。また、冷やして飲まれることが多いため、前菜のお料理には相性の良いものがたくさんあります。
このあとはタイプ別のおすすめをいくつか簡単にご紹介します。
まず、良く冷やしたスタンダードなものには白身魚のカルパッチョにハーブのサラダを添えたり、ホタテ貝柱のお造りに海塩を合わせて楽しむのも良いと思います。白カビチーズとの相性も良いです。
ブラン・ド・ブランのように軽快で引き締まったものには「ミネラル」がキーワード。生牡蠣やキスの天麩羅、少しワインの温度を上げて蟹のしゃぶしゃぶに蟹酢を添えたものも素材の優しい甘みが引き立ってよく合います。
ブラン・ド・ノワールは味わいにふくらみがありますので、12℃くらいの少し高めの温度にして、レバームース、蒸し鶏にクリームソースを合わせたものや、鴨のローストにフルーツの甘酸っぱさを加えたソースを添えても良いでしょう。
ロゼには赤い果実の香り、スパイスとの相性の良さがありますので、身の甘みと殻の香ばしさを持つエビ料理との相性はとても良いです。また青椒肉絲などの中国料理や若鶏のから揚げも興味深い組み合わせです。
ヴィンテージ(または長期熟成したもの)であれば熟成によって身につけた芳ばしさがありますので、魚の皮目を芳ばしく焼いてみたり、ローストしたナッツを添えてみるのも料理とワインを近づけるアクセントになると思います。
ほかのワインにも言えることですが、ワインが持つ要素と料理が持つ要素の共通項をより多く見つけることができれば、その組み合わせはさらに拡がりを持って楽しめるものになるでしょう。
他のスパークリングワインとの違い
シャンパーニュはシャンパーニュ地方で造られたスパークリングワインのみを指します。
スパークリングワインにも様々な種類があり、国や地方によってその呼び方は違います。
ここではヨーロッパにおける代表的なスパークリングワインを紹介していきます。
様々なスパークリングワイン
名称 | 生産国 | 特徴 |
シャンパーニュ | フランス | フランス北東部のシャンパーニュ地方で瓶内二次醗酵で造られたスパークリングワイン。主なブドウはシャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエ。 |
クレマン | フランス | シャンパーニュ地方以外の7つの地域(アルザス、ブルゴーニュ、ロワール、ジュラ、ボルドー、ディー、リムー)で、瓶内二次醗酵で造られる。コストパフォーマンスに優れ、産地によるブドウの違いも楽しめます。 |
フランチャコルタ | イタリア | ロンバルディア州で瓶内二次醗酵で造られるスパークリングワイン。最低熟成期間は18か月とシャンパーニュよりも長く、イタリアの高級スパークリングワインの位置づけになります。 |
プロセッコ | イタリア | ヴェネト州でグレーラ(プロセッコ)種主体で造られる。多くは二次醗酵をタンク内で行うシャルマ方式で造られます(瓶内二次醗酵も採用可)。比較的味わいも軽やかでフルーティなので親しみやすいものが多いワインです。 |
ランブルスコ | イタリア | エミリア・ロマーニャ州でブドウはランブルスコ種。赤・白・ロゼがあり、少し珍しいのですが赤の生産量が約90%。ガス圧は低めで甘口から辛口まで幅広いバリエーションがあります。 |
アスティ・スプマンテ | イタリア | イタリア北部のピエモンテ州でモスカート・ビアンコ種から造られる甘口のスパークリングワイン。モスカート=マスカット種由来の華やかな香りが特徴で口当たりも優しいので広く親しまれているワインです。 |
カヴァ | スペイン | カタルーニャ地方でシャンパーニュと同じ瓶内二次醗酵で造る。ブドウはマカベオ、チャレッロ、パレリャーダ種を用い、暖かい地方らしく酸味が穏やかで日常的に飲みやすい金額帯のものが多いです。 |
ゼクト | ドイツ | 世界一スパークリングワインを消費するドイツで造られるスパークリングワイン。瓶内二次醗酵のトラディショナル方式、トランスファー方式、シャルマ方式、メトッド・リュラル方式が認められており、EU産のブドウをブレンドできるゼクト、ドイツ産のブドウのみで仕立てるドイッチャー・ゼクトがあります。 |
シャンパーニュのおすすめワイン3選
それではTHE CELLARがおすすめするシャンパーニュ3選をご紹介します。
アンリオ ブリュット・スーヴェラン NV
アンリオは200年以上続く家族経営のシャンパーニュ・メゾンです。
ブリュット・スーヴェランはアンリオのスタンダードキュヴェで果実味とミネラルのバランスに優れた1本です。
泡もきめ細かで活き活きとしたハリがあり、様々なお料理とも楽しむことができます。スタンダードクラスという枠をを超えた上質な味わいです。
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スタッフ
おすすめスタッフ
おすすめ白ワイン、スパークリングワインアンリオ ブリュット・スーヴェラン NV(化粧箱入り)
白ワイン、スパークリングワインフランス/シャンパーニュ通常価格8,360 円 (税込)通常価格単価 あたり750ml、シャルドネ他、ミディアム 750ml、シャルドネ他、ミディアム
特筆すべき複雑味と骨格を持つシャンパーニュ
アンリオ ブリュット ミレジメ 2012
続いてこちらは同じアンリオの2012年ヴィンテージです。評価の高い2012年のグラン・クリュとプルミエ・クリュのブドウのみを使用したシャンパーニュです。
エレガントでありながら、恵まれたヴィンテージを感じる果実の充実感があり、香りも複雑になってきています。
誕生日やクリスマスなど、イベントのときに開けて楽しみたい一本です。
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スパークリングワイン
アンリオ ブリュット ミレジメ 2012(化粧箱入り) *
スパークリングワインフランス/シャンパーニュ通常価格15,400 円 (税込)通常価格単価 あたり残り12個
750ml、シャルドネ他、ミディアム 750ml、シャルドネ他、ミディアム
メゾンのスタイルとヴィンテージの個性が融合した逸品
ボランジェ ラ・グラン・ダネ ロゼ 2014
ボランジェもアンリオ同様長く家族経営を続けるシャンパーニュ・メゾンです。その実力は折り紙つきで英国王室御用達にもなるほど。
ラ・グラン・ダネはボランジェが誇るプレステージ・シャンパーニュで、彼らが認めたヴィンテージのみ生産される拘りの1本です。
ピノ・ノワール主体でボリュームがあり、ブレンドしたシャルドネは味わいに洗練した印象を与えます。お世話になった方へのプレゼントや、お祝い事の時にプレゼントしても喜ばれるかと思います。
まとめ
シャンパーニュとは、シャンパーニュ地方でトラディショナル方式(瓶内二次醗酵)で造られたスパークリングワインを指します。
ランクや品種と製法、甘辛度で分類されているため、購入する際はラベル表記を知ると選ぶのが楽しくなります。シャンパーニュを飲み比べてみたい方は以下のサイトもぜひ覗いてみてください。
この記事を書いた人
角 敏行 / つの としゆき / Toshiyuki TSUNO
福岡県出身。
都内のフランス料理店、恵比寿「タイユバン・ロブション」、南青山「ピエール・ガニェール・ア・東京」、銀座「ベージュ・アラン・デュカス東京」でソムリエとして研鑽を積み、六本木「リューズ」、駒形「ナベノ-イズム」では支配人兼シェフ・ソムリエとして従事。
現在は自身の会社を持ち、後進の育成、レストランサービスのアドバイザー、また「Champagne Laurent Perrier」、日本酒「F1625」のブランド・アンバサダーとして活動している。