2024.03.14

ロワールとは?ロワールワインの基礎知識や味わいなどをわかりやすく解説

 

ロワールはフランスで3番目に大きなワイン産地として知られています。その規模はおよそ全長1000キロにわたり、ロワール河の本流とその支流近辺に大小のまとまりをもった多くの産地が連なっています。しかし、産地によって風土や栽培されているブドウ品種が異なるため、ある程度の知識を持つことでロワールワインをより楽しんでいただけるかと思います。
今回はそんなロワールの多種多様なワインを知っていただくべく、解説していきます。
ロワール地方は軽快な白ワインをはじめコクのある赤ワイン、そして甘口ワインとフルーティーなロゼワイン、スパークリングワインを生産しており全てのタイプを生み出す銘醸地ですが、広大な産地が故に、栽培している品種も多種多様でワイン造りも色々なスタイルがあります。

ロワールとは

ロワールは、フランス北西部に位置し、フランス最大の大河であるロワール川の渓谷沿いにわたって広がっています。15の県にまたがる大規模な産地で多彩なスタイルのワインを生み出す事でA.O.C ワインの産地としてはフランス第3位の面積を誇ります。
次項よりロワールの基礎知識や味わいなど順を追って解説したいと思います。

ロワールの基礎知識

ロワールはフランス北西部に位置し、全長800kmにも及ぶ長い運河が大西洋に向かって伸びているというのが大きな特徴です。ロワール地方、ナンテのブドウ畑は1世紀にはその存在が確認されており、歴史ある産地である事に間違いはありませんが、この長い運河がワイン造りに大きな影響を与えています。
例えば大きな樽を積んで大型の船が通れる運河がある事で流通も販売にも大きなメリットがあり、ワイン産業も発展した歴史が残されています。
緯度としては北緯47度前後とフランスではシャンパーニュに次ぐ冷涼な気候で全般的に軽やかで爽やかなワインが生まれやすいのですが、東西に長いことから同じロワール地方でも異なったタイプのワインが造られます。
大西洋沿いに広がるペイ・ナンテ地区から上流に向かい、トゥールあたりまでは海洋性気候ですが、トゥーレーヌ地区を東に行くほど海の影響が薄くなり、サントル・ニヴェルネ地区は大陸性気候となるため、この2つの気候によって様々なワインを造ることが出来るのです。

ワイン造りにおいてはフランスのナチュラルワイン・ムーブメントの発信地としても有名で、現在でも多くの生産者がナチュラルなワイン造りに取り組んでいます。
時代の流れと共にこの数年で日本国内でもナチュラルワインがかなり浸透している印象があり、グランメゾンから待場のレストランに至るまで、ナチュラルワインを目にしない事はないくらいの規模感になっていますが、1980年代にフランスで初めてナチュラルワインの取り組みを始めたのもロワールの生産者と言われており、歴史ある伝統的な製法を用いる生産者も居れば、ナチュラルワインに重きをおいてワイン造りを行う造り手もロワールには大勢います。

ロワールは11~15世紀の間に建てられた古城が点在することから、「フランスの庭」と呼ばれています。
建築当初はいずれも防衛目的の要塞や王族貴族の住居の為に建てられたものですが、その一つ、シノン城は英仏百年戦争でジャンヌ・ダルクがフランス王太子シャルル7世に謁見した場所として有名ですし歴史文化的な価値が評価され、2000年にユネスコの世界遺産に認定をされました。

ロワールの主なブドウ品種

広いエリアにまたがるロワール地方の代表的な品種は7品種ほどありますが、海洋性気候で日照量に恵まれて海から涼しい風の影響を受けることで塩味を感じるミュスカデを始めとし、穏やかな大陸性気候で冬は平均マイナス1度、夏は平均26度と寒暖差がある事で引き締まったブドウを造り出す産地もあります。

白ブドウ
・ミュスカデ:別名、ムロン・ド・ブルゴーニュで名前の通り、ブルゴーニュ原産の品種で1630年代に修道院により持ち込まれた品種。
・シュナン・ブラン:アンジュー地区とトゥーレーヌ地区で多く栽培されており、灰色カビ病に弱いのですが貴腐になることもありスパークリングワイン、辛口から貴腐・遅摘みの甘口まで造ることが出来る品種です。
・ソーヴィニヨン・ブラン:ロワール地方ではもっともポピュラーな品種でトゥーレーヌ地区とサントル・ニヴェルネ地区で主に栽培をされています。

黒ブドウ
・カベルネ・フラン:ロワール地方の赤ワイン用品種で最も多く栽培がされており、シノンを中心にブルグイユ、サン・二コラ・ド・ブルグイユで造られています。
・ピノ・ノワール:ロワールのピノ・ノワールはブルゴーニュに比べてコンパクトで小ぶりな印象がありますが、ロゼワインでは欠かせない品種として扱われます。
・グロロー:カベルネ・フラン、ガメイに次いでロワールで多く栽培されている黒ブドウ品種でフルーティーなロゼワインによく使われます。

ロワールワインの産地と味わい

先述の通り、ロワールのワイン産地はロワール川に沿う形で広がっています。
その中でも代表的な4つの産地についてご紹介します。

○ペイ・ナンテ地区:ロワール川の河口、大西洋に近いナント市を中心にし、白ワインの一大産地「ミュスカデ」が広がります。
4つのA.O.C.が存在し、ミュスカデ種から繊細でフレッシュ、引き締まった辛口ワインが生まれますが伝統的なシュール・リー(滓の上)と呼ばれる滓引きをせずにワインを敢えて滓と接触させる事で旨味成分を引き出す技法で造るワインもあります。

○アンジュ・ソミュール地区:海洋性気候のため、夏は暑く冬は温暖な気候。
アンジェ市の周辺から約40キロ上流に位置するソミュール市までに広がるエリアでタイプは赤、ロゼ、白、貴腐の甘口、スパークリングと多彩なワインを造り出しています。
ロゼワインだと有名なアンジューロゼがあり、赤ワインだとソミュール、ソミュール・シャンピニィがあります。さらにロワール3大貴腐ワインと呼ばれる、コトー・デュ・レイヨン、カール・ド・ショーム、ボンヌゾーもあります。

○トゥレーヌ地区:フランスの庭園と呼ばれるほど気候が温暖。
トゥール市を中心に、ソミュールの東側オルレアンまで産地が広がります。海洋性と大陸性の影響が交差しており、温暖な気候でありながらも寒暖差があるため、果実味を味わえるワインが多いのが特徴的な産地です。
白ワインだとソーヴィニヨン・ブランから造られ、アロマが豊かなトゥーレーヌをはじめ、シュナン・ブラン100%で柔らかみを感じるアゼイ・ル・リドー、そしてロワールで最も有名な赤ワインと呼んでも過言ではない、カベルネ・フランを用いたシノンがあります。

○サントル・ニヴェルネ地区:フランス中央部ロワール地方の最東に位置する産地。
フランスの中央部にあたる中央フランス地域で、ここはロワール川を挟んで左岸に広がるサンセールと右岸のプイィ・フュメが代表的な産地です。
果実味が豊かなサンセールに対し、石灰質土壌やシレックス土壌のプイィ・フュメはシャープで引き締まった印象のワインになります。

ロワールワインの醸造法

地区ごとで気候や土壌が異なるため栽培するブドウ品種も様々。当然醸造方法にも違いがあります。
例えば、ペイ・ナンテ地区では「シュール・リー」という醸造法がありますが、この技法で得られる味わいはリッチさと複雑性です。滓とワインを接触させることで旨味成分が生まれ、酸味を残しつつもワイン全体に厚みを持たせることが出来ます。酵母がぎゅっと詰まっていて、味わい豊かな印象を与える醸造テクニックです。

ロワールワインが人気な理由

ロワールワインが人気な理由はいくつかありますが、バラエティーの豊かさは随一と言っていいでしょう。
タイプで言えば、赤、白、ロゼ、貴腐や遅積みの甘口、そしてスパークリングまで、全てのタイプを生み出すロワールはフランスのワイン産地の中で最も多種多様なワインを生産しています。
そして、サンセールやプイィ・フュメといったワイン初心者の方でも飲んでみて「美味しい!」と思えるような、味わいの特徴を掴みやすい産地でもあるため、ロワールのワインを飲んでワインを好きになっていく飲み手も多いと思います。

川の上流は岩や大きな石が点在する事でミネラル分を多く含むワインが生まれますが、上流で大きかった石が下流に流されるにつれて摩擦などによって石は小さくなり、大西洋沿いで海に近いエリアは塩味を感じる印象を放ちますが、これもまたロワールならではの特徴と言えます。

ボルドーやブルゴーニュと異なり、厳格な格付けがなく、地域がそのままワイン名になっているため、覚えやすいのがロワールの強みかも知れません。格付けがない事で一般的な流通価格も比較的リーズナブルな値付けが多く、更に熟成を得ずとも瓶詰め後すぐに飲んで楽しめるのもロワールワインの良さだと思います。

ロワールの王道ともいえる、ソーヴィニヨン・ブランの繊細なワインもあれば、複雑性のある赤ワイン、更にはナチュラルワイン発祥の産地としても知られ、愛好家の方も幅広く楽しんでいただける産地であります。

ロワールワインの当たり年は?

ワインを選ぶときに気になることの一つに「当たり年」があるかと思います。ワインにおける当たり年とは、気候条件に恵まれ、ブドウの出来が良い年に造られたワインを指します。
例えば、ボルドーワインのように一つの品種が困難だった年でも、複数のブドウをブレンドする事である程度均一なワインを造ることが可能かも知れませんが、ロワールのように殆どが単一品種の場合はヴィンテージの良し悪しがワインに反映されやすいのもまた事実です。ただ、その年の気候がワインに反映されやすい、単一品種の方が味わいをはっきりと体感できてワインの醍醐味を楽しめるのではないでしょうか。
ロワールだと1996年、2016年、2019年が良い年とされていますが、いずれも霜の被害が少なく、夏場も適度な雨が降った年で1年を通じて天候に恵まれたグレートヴィンテージとして評価をされていますが逆に雨が多かったとされる2013年などは難しい年と言われています。

ロワールワインに合う料理

一般的にロワールワインは上流の地域なら鶏肉料理、下流なら魚介類と合わせやすいとされています。
それはなぜかというと、上流は厚みのあるワインも多いことから、赤ワインなら、パテ・ド・カンパーニュ、リエットや鶏肉の赤ワイン煮込みなどが合い、下流は塩味を持ったシャープなワインが多いことから魚介類(川魚)とよく合うということなのです。

白ワインと赤ワイン、食事との合わせ方をより詳しく見ていきましょう。

ロワール地方の白ワインに合う料理

ロワールで造られる白ワインの最大の特徴は「酸味とシャープさ」だと思います。ソーヴィニヨン・ブランは一般的にレモン、ライム、柑橘類、ハーブの香りが強いためスモークサーモンや魚介のカルパッチョなどがよく合います。
一方で海に近いペイ・ナンテ地区のミュスカデは引き締まった辛口で旨味もあるため、貝類のレモン添えなどが合います。
ちょっと面白いペアリングだと不思議な事に熟成をしたサンセールは白トリュフの香りが出るので白トリュフのサラダやリゾットなどもお勧めです。あとは何といってもロワール渓谷一帯で生産しているシェーブルチーズは抜群の相性を奏でます。

ロワール地方の赤ワインに合う料理

ロワールの赤ワインに合わせるお料理だと、伝統的にウナギの赤ワイン煮込みなどが有名です。全体的に柔らかく円やかな印象の赤ワインが多いため、焼き鳥も合いますし、中国料理のスパイシーなお料理にもぴったりと寄り添います。
サンマやイワシを甘辛いソースで火を入れ、そこにアクセントで肝を加えて仕上げるお料理などはソミュールの赤ワインともマッチしますので是非試して頂きたいです。

おすすめのロワールワイン3選

それではTHE CELLARがオススメするロワールワイン3選をご紹介します。

マルタン ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ シュール・リー ヴィエイユ・ヴィーニュ 2021

ミュスカデの生産者では数少ない、ヴィエイユ・ヴィーニュからワインを造ります。樹齢は60年から80年の古木から生み出される厚みのあるワインで、シュール・リーのテクニックもしっかりと感じることが出来ます。今飲んでも美味しいですし、この先10年ほど熟成させても面白いワインです。

ノゼ サンセール・ブラン 2022

サンセールでは代表的な生産者であり、サンセールのテロワールをしっかりと反映させたお手本のようなワインですが、非常にフレッシュで繊細な味わいが特徴的です。早飲みタイプのワインで、酸味をしっかりと生かすため、十分に温度を下げて小さめのグラスで楽しんで頂きたいワインです。

ロッシュ・ヌーヴ ソミュール・ブラン クロ・ロマン 2020

魔法のようなテロワールから生まれる、貴重なキュヴェで生産本数も少なく造れても500本程度。星付きの有名レストランを始め、顧客を中心に販売するため市場での流通量が極めて少なく、貴重性が高いワインで出会えればラッキーです。
ボリューミーかつ凝縮感のある果実味で長い余韻を楽しんでいただけます。

まとめ

ロワールは歴史も古く、ロワール川がある事でワイン産業が発展し、多くの皇族がロワール川沿いに点在する豪華なお城で生活をし川とお城の周辺にブドウ畑が広がっていきました。川の上流と下流では全く違う表情をワインに与え、更にはブドウ栽培面積がフランス国内3位だけあって、バラエティーに富んだワインを生み出す唯一無二の産地がロワールです。早飲みタイプから熟成向きのワインまで、様々なシーンで楽しませてくれます。

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この記事を書いた人

高丸智天

高丸智天

ガストロノミー “ジョエル・ロブション”
シェフソムリエ 高丸智天 (Tomohiro TAKAMARU)

【経歴】
1977年 広島県生まれ。
ホテル・レストラン専門学校卒業後、千葉県のホテル内フレンチレストランで10間年勤務したのち
2008年 ガストロノミー “ジョエル・ロブション” 入社
2012年 同店 プルミエソムリエ就任
2016年 同店 シェフソムリエ就任
2023年 テタンジェ社よりシャンパーニュ騎士団 シュヴァリエ 叙任
現在に至る

ミシュランガイド17年連続三ツ星「ガストロノミー “ジョエル・ロブション”」シェフソムリエ。シャトーレストランにストックする3,000種類 25,000本のワインを熟知し、お客様に最適な1本を提案している。また、料理とワインのマリアージュには定評があり、多くの人から高い支持を得ている。

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