2024.03.15

甲州ワインとは?基礎知識や味わいの特徴、醸造法などをわかりやすく解説

 

日本国内で栽培されたブドウを使って、国内で醸造された「日本ワイン」。数十年前であれば、日本ワインなんて…という声もあったかもしれませんが、今ではその美味しさの虜になる方が多いですよね。中でも、日本を代表する甲州ワインは海外でも高く評価されています。
甲州には、へぇーっと驚くルーツや発展の歩みがあります。ぜひ、本記事で基礎知識を頭に入れて、色んなスタイルの甲州ワインを飲み比べしてみて下さい。また、甲州ワインからスタートして他の日本ワインを試すのもいいですね。より深く楽しめるかと思います!では、甲州の扉を開いていきましょう~。

甲州ワインとは

甲州ワインとは、日本固有品種の白ブドウ「甲州」を使ったワインです。
近年は、世界的なコンクールで受賞するなど、日本国内のみならず海外での認知度が高まっている日本を代表するワインです。ここでは、歴史的背景や味わいなど細かく解説していきます。

甲州ワインのルーツ

甲州のルーツについては長い間秘密のベールで被われていましたが、2013年にDNA解析が行われ、DNAの7割がヨーロッパで古くからワイン用に使われてきたヴィティス・ヴィニフェラ種、残りが中国の野生種であるヴィティス・ダヴィーディ種であることが判明しました。つまり、カスピ海のほとりにあるコーカサス地方から、東西交易でシルクロードを渡り、中国の野生種と交雑して日本に渡来したのです。日本に上陸したのは、1300年も前のこととも言われ、壮大な歴史物語にワクワクさせられます。

甲州ワインの歴史

甲州の日本での発見には諸説あるのですが、山梨県勝沼が舞台となっています。1600年頃までは山梨県のみで栽培されていましたが、江戸時代に甲州街道が整備されると、将軍に献上されるなどして知名度が上がり、徐々に他県にも栽培が広がります。

一方、甲州ワインが造られたのは、明治時代になってから。1870年代に甲府でワイン造りが始まり、1877年には、初の民間ワイナリー「大日本山梨葡萄酒会社」から青年2人がフランスに派遣されます。彼らの帰国後、ワイン造りが本格化しますが、ワイン文化のない日本で販路を拡大することは至難の業。甲州ワインを始め、日本ワイン産業は長い低迷期を経験します。低迷期の中でも先人達は努力を続けます。当時の日本人にとって飲みなれないワインに甘味を加えて販売したところ人気に。こうして、ワインと言えば甘口という時代が長く続きました。

1970、80年代に入り流れが変わります。高度経済成長の波に乗ってワインの消費量が上がり、食事と相性がよい辛口ワインの需要が出たのです。甲州ワインも甘口からスタイルを変更。1984年には、発酵後のワインを澱の上で熟成させ旨味を増すシュール・リー製法を用いた最初の甲州ワインがリリースされます。

1987年には「勝沼ワイナリークラブ」が発足され、甲州ワインの更なる品質向上や海外に向けた発信が加速。そして、ついに2010年に国際ブドウ・ワイン機構(O.I.V)が甲州をブドウ品種として登録することになり、世界的な認知が高まったのです。140年という時間を経て、世界の表舞台に出た甲州ワイン。そこには先人達の涙ぐましい試行錯誤の歴史があるのです。

甲州ワインの産地

甲州は日本で最も栽培面積が広い醸造用ブドウ品種ですが、生食需要もあるので、日本全国で栽培されています。ちなみに、甲州は白ブドウですが、やや紫がかったピンク色の果皮を持ちます。果皮が厚く、病気に強い点が、湿気の多い日本という栽培環境に適しています。

主要産地は山梨県で9割方を占めます。豊かな山々に囲まれた甲府盆地があり、昼夜の寒暖差が大きい、夏と冬の気温の差が大きい、年間降雨量が少ないといった内陸性の気候が甲州の栽培に適していると考えられています。

甲州ワインの味わいの特徴

香りは穏やかで柑橘系が主体、ユズやスダチといった和柑橘も感じ取られます。穏やかながらフレッシュな酸味があり、後味に柑橘の皮のような若干の苦味もあります。甲州は他の国際品種の白ブドウに比べると糖度が上がりにくいので、アルコール度数は控えめです。全体的に軽やかで穏やか、すっきりした味わいのワインです。

甲州ワインの醸造法

ブドウ本来の味わいが穏やかで優しいので、甲州には様々な醸造手法が用いられます。醸造スタイルによって味わいが変化するので、飲み比べが楽しいワインですので、参考になさって下さい。

まずは辛口の白ワインの中から。
・ シュール・リー(Sur Lee):発酵終了後にワインをそのまま澱(lee)の上(sur)で寝かせることで、フレッシュさを保ちながら澱による複雑味や旨味を追加するもので、甲州ワインの中では一般的な醸造手法。青りんごや日本酒の吟醸香のような、酵母の香りが感じられる。
・ 樽発酵・樽熟成:木樽で発酵させ、発酵後に木樽で熟成させるもの。醸造中に少量の酸素に触れることで、ワインがまろやかな味わいに。また、樽由来の香りがワインに加わることで厚みや複雑味が増し、ヴォリューム感のある仕上りに。
・ スキン・コンタクト:通常の白ワインのようにブドウ破砕後すぐに圧搾し果汁と果皮を分けるのではなく、短時間果皮を果汁に浸漬させてから圧搾する手法。果皮から成分が抽出されるので、ワインの色が濃くなり、ブドウ本来の香りがより抽出され、華やかで厚みのある仕上がりに。
・ 早摘みフレッシュタイプ:甲州にはソーヴィニヨン・ブランと同じ柑橘系の香り成分があることが証明されており、これらの香りを全面に出すために、収穫時期を早めて仕込むもの。酸素を遮断した環境で醸造し、澱や樽といった発酵由来の香りも付けず、柑橘系のフレッシュさを前面に出す仕上がりに。

辛口白ワイン以外にもありますよ。
・ スパークリング・ワイン:軽やかな甲州に発泡性を持たせたもの。タンクで二次発酵させたものは爽やかでフレッシュ、シャンパーニュのように瓶内二次発酵させたものは繊細で複雑味がある味わいに。
・ オレンジ・ワイン:スキン・コンタクトよりも長時間果皮を果汁に浸漬させ、赤ワインのように果皮を果汁と一緒に発酵させるもの。スキン・コンタクトよりも果皮からの成分やタンニンが多く抽出されるので、色調もより濃く、香りもより華やかに、タンニンによる渋みも出る。
・ 甘口タイプ:甘味を残して仕上げられた伝統的なスタイル。低アルコールのものも多く、飲みやすい。

甲州ワインが人気な理由

香りの中にユズやスダチ、カボスといった和柑橘のニュアンスや日本の梨を彷彿とさせるものがあったり、シュール・リー製法のものには日本酒の吟醸香のような香りがあったり…と、日本人に馴染みやすいワインといえるでしょう。また、海外からの旅行者であれば、帰国後に日本旅行を思い出すきっかけになるかもしれません。この和のニュアンスが人を惹きつける要素と言えます。更に、甲州と一口にいっても味わいが幅広く、色んなスタイルのものを試したくなる奥深さもあります。

 

この人気は日本に留まるものではありません。2014年、イギリスで開催される世界最大級のワインコンテスト「デキャンタ・ワールド・ワイン・アワード」で、中央葡萄酒の甲州ワイン「キュヴェ三澤 明野甲州」が日本初となる金賞を受賞。その後も甲州ワインは数々の賞を受賞し、世界の評価も上がり続けているので、目が離せない存在となっているのです。

甲州ワインに合う料理

甲州ワインは軽やかですっきりした味わいなので、こってり系よりは淡白なものとの相性が良いです。そして、なんと言っても和食との相性が最高です!
魚介系との相性も◎なので、お寿司やお刺身、白身魚の天ぷらは鉄板な組み合わせですし、お出汁を効かせた煮物や茶わん蒸しなどとも相性が良いです。また、通常、キャビアやからすみ以外の魚卵とワインを合わせると生臭さが増してしまうことが多いのですが、シュール・リー製法の甲州ワインの場合、幅広く受け入れてくれます。魚卵を用いた和食も多いので、嬉しいですよね。

他のワインとの違い

日本ワインの産地と言えば山梨、長野、北海道などが挙げられますが、実は、日本全国でワインは造られています。また、シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンといった国際品種の栽培も進んでいますが、それぞれの気候風土に合った日本固有の品種が多く栽培されています。場所も品種も多様なのが日本ワインの魅力の一つですね。
ここでは数ある日本固有品種の中で、甲州同様、O.I.V.に登録された3品種の特徴を整理しました。ご参考になさって下さい。

 

甲州

マスカット・ベーリーA

山幸

O.I.V.登録年

2010年

2013年

2020年

種類

白ブドウ

黒ブドウ

黒ブドウ

交配

ヴィニフェラ種(欧州系)×ヴィティス・ダヴィーディ種(中国野生種)

ベーリー(アメリカ系)×マスカット・ハンブルグ(欧州系)

清見(アメリカ系と欧州系の交配種×ヤマブドウ)×ヤマブドウ

主要産地

山梨県

山梨県が主要産地だが、山形県や長野県など多様

北海道

色調

淡い黄色

明るいルビー色

濃いルビー色

香り

穏やかな和柑橘が特徴。

醸造スタイルによって香りに幅あり。

甘いキャンディ香が特徴。

イチゴ、ラズベリーといった赤系果実の香り。

野性味ある芳醇な香りが特徴。

味わい

果実味、酸味、アルコールの全てが繊細で穏やか。

柑橘の皮のような若干の苦味も。

穏やかな酸味と渋み。全体的に軽やかな仕上がり。

力強い酸味と野性味あふれるコクがある。

おすすめの甲州ワイン3選

最後におすすめの甲州ワイン3選を順番に紹介します。

旭洋酒 ソレイユ・クラシック 白 2022

1本目はフレッシュでフルーティーなタイプ。柑橘系の香りがあります。ほのかな甘みを感じると共に、穏やかな酸味と最後に甲州独特の若干の苦味がアクセントとして加わり、甲州ワインを初めて飲む方にオススメです。
和食全般と相性が良く、煮物、エビフライ、チキンソテー、オイル系パスタなどとも合うので、家庭料理と合わせるデイリーワインとして人気があります。

中央葡萄酒 グレイス グリド甲州 2022

2本目は創業100年超の勝沼を代表するワイナリーが造る甲州。グリ・ド(Gris de)とは、フランス語で灰色という意味で、灰色ブドウと呼ばれる甲州ブドウの果皮の特徴を表現したワインです。洋梨やオレンジ、和柑橘と言ったフレッシュでフルーティーな果実香に、お花やスパイスの香りも感じ取られます。まろやかな口当たりで爽やかな酸味と旨味が感じられる辛口ワインで、普段の和食を幅広く受け止める安定感のある味わいです。
2012ヴィンテージが英国デカンター誌主催の「アジア・ワインアワード」で、ゴールドメダルとリージョナルトロフィーを受賞したこともあり、海外の友人に日本のワインを紹介したい時にもおすすめです。

中央葡萄酒 グレイス甲州 菱山畑 2022

最後も2本目と同じ生産者ですが、勝沼町で最も高い標高(500m~600m)に位置する菱山地区で収穫された甲州で造られた辛口スタイルです。柑橘や白いお花の香り、スパイスといったアロマの上に、溌溂とした酸味とスモーキーな鉱物を彷彿とさせるミネラル感もあり、高級感のある仕上がりです。
国際的なコンクールでも数多くの受賞歴を持つ老舗の造り手のものですし、お祝いごとのパーティーや贈り物などにおすすめです。

まとめ

いかがでしたか? 世界でも注目を集める甲州ワイン。昔は甘口に仕上げられることが多かったですが、今は辛口が多く、和のニュアンスを感じるので和食と合わせやすく、普段使いしやすいワインなので、ぜひ一度試してみてください。
また、様々な醸造手法を用いて仕上げられる品種でもあり、醸造法によって味わいに幅があるので、色々と飲み比べするのもおすすめです。
ザ・セラーのサイトには甲州ワインを各種揃えています。店舗にも甲州ワインを始めとする日本ワインが揃い、知識と経験を積んだスタッフが常駐していますので、皆さまのワイン選びにお役立て下さい。

THE CELLAR online store

この記事を書いた人

山本 暖子

山本 暖子

WSET認定 Level4 Diploma
JSA認定 ワインエキスパート
学生時代の留学や総合商社勤務時の海外駐在などを通じ、世界各国のワインやその文化に魅了される。
現在は瀬戸内海に浮かぶ大三島で農的暮らしを営みながら、カーヴ・ド・リラックスのECサイト運営やコラム執筆など、ワインに関する情報発信に力を注いでいる。