2025.06.06 更新

長野・ヨネファーム東御

長野・ヨネファーム東御

株式会社ザ・グレイナリー

代表取締役 米倉利典 氏

後悔しない人生をひた走る、寡黙な男のワイン造り

日本ワインコラム |ヨネファーム東御

インタビューのお相手、米倉さんとは、地元で大人気のやきそば・ワンタンのお店「開花亭」で待ち合わせ。到着時には既に長い行列だったが、食い意地の張った我々にとって行列なんて怖くない。米倉さんへのご挨拶も早々に、熱々の焼きそばとワンタンを汗タラタラで食すところからのスタートとなった。こんな素敵なお店での待ち合わせを提案して下さったくらいだし、さぞかし何度も来店しているかと思いきや、2回目という米倉さん。普段はきっと、畑仕事が忙しくて、のんびりランチとはいかないのだろう…

くしゃっとした目元が印象的。優しい笑顔の米倉さん。 ▲ くしゃっとした目元が印象的。優しい笑顔の米倉さん。

2018年に東御市でワイン用ブドウ栽培を開始した米倉さんは、3ヶ所に跨る約5haの畑で多種多様なブドウ品種を一人で栽培するスーパーマンだ。口数は少なめ。反射神経的に言葉を発するのではなく、自分の中で納得したことだけを話すからだろう。だからこそ、発せられる言葉には強い意志を感じる。そんな米倉さんの現在とこれからについて色々とお話を伺った。

広がる畑の管理

米倉さんがワイン業界に足を踏み入れたのは50歳を目前にした頃。その前から15年間毎月ワイン会を開催し、友人達と世界各地のワインを楽しんだり、ブルゴーニュ、ローヌ、カリフォルニアといった銘醸地を訪問し、栽培・醸造を体験したりと、趣味以上仕事未満の熱量でワインと関わってきたが、とうとう仕事にする決意を固め、25年勤務した通信系会社を退職。2015年に東京、神楽坂でワインバー&ショップをオープンしたが、ワインとの関係が深まる中でワイン造りへの興味が増し、開店数年で再度転身を図る。長野県東御市が募集していた千曲川ワインアカデミーの3期生として、2017年に移住するのだ。そして、信州うえだファームの研修生として農業研修も受け、2019年に独立する。

ヨネファーム東御のインスタより。千曲川ワインアカデミーの同期との一枚。いい関係性なのが見て取れる素敵な一枚だ。 ヨネファーム東御のインスタより。千曲川ワインアカデミーの同期との一枚。いい関係性なのが見て取れる素敵な一枚だ。

米倉さんのブドウ畑は、長野県東御市の3つの場所(鞍掛金井、祢津御堂、海善寺)に跨る。東御市は降水量が少なく、冷涼ながら日照時間は長い。また、畑は540mから780mと標高が高い場所にあり、昼夜の寒暖差のあるワイン用ブドウ栽培に恵まれた場所だ。

独立後すぐに植栽開始したのは鞍掛金井。0.5haの広さに白赤6種類のブドウが植わっている。その後、巨峰が植わる海善寺の畑の管理も開始し、2019年には、東御市がワイン用ブドウ団地として立ち上げた祢津御堂での植栽を開始する。広さ4.1haの畑で、赤白11種類のブドウを栽培している。これだけではない。畑に足を運ぶことが難しくなった千曲川ワインアカデミー同期の0.7haの畑の管理もお手伝いしているというのだから、どこにそんな体力があるのか…⁉と目が点になる。

持続可能なブドウ栽培を目指して

「できるだけ薬は使いたくはないけど、ブドウができないと話にならない」、と米倉さんは語る。東御市はワイン用ブドウ栽培に適した場所ではあるが、「日本の中で」という前提が付く。高温多湿な日本は、世界の銘醸地と比べてブドウが病気にかかるリスクは格段に高い。ブドウ栽培を始めてから3年目までは年3回程度の農薬散布で問題なかったが、4年目になると一気に病気が蔓延して大変な事態に陥ったそうだ。リュー・ド・ヴァンの小山さんも同じことを語っていたが、若木は菌やウイルスの蓄積がなく、無農薬でも大きな問題にはならないことが多いが、年数を重ねるにつれ、病原物質が蓄積され病気が発生しやすくなるのだ。
こういった経験も踏まえ、ビジネスと環境の両立の観点から減農薬栽培を主軸に据え、農薬散布量はJAの防除暦で推奨される量の半分程度に抑えているそうだ。

祢津御堂にある米倉さんの畑の様子。眼下に市街地が見え、遠くには八ヶ岳、霧ヶ峰、北アルプスといった美しい山々の絶景が!また、畑の前にはビジターセンターである「ワインテラス御堂」があり、ワインの試飲・販売スペースもある。
▲ 祢津御堂にある米倉さんの畑の様子。眼下に市街地が見え、遠くには八ヶ岳、霧ヶ峰、北アルプスといった美しい山々の絶景が!また、畑の前にはビジターセンターである「ワインテラス御堂」があり、ワインの試飲・販売スペースもある。

気候変動の影響だろうか、極端な空模様になることが増えた昨今。これまでとは異なる対策が求められつつある。2024年は猛暑に加え、8月後半から9月にかけて雨が断続的に降り続く難しい年で、収穫前に一気に晩腐病というカビの病気が広がったそうだ。特に黒ブドウへの影響が大きく、収量は予定の半分程度、メルロに至っては9割方がダメになってしまった。今後も異常気象が続くと言われており、農家にとっては困難な時代だ。米倉さんの畑では雨除けは特に必要としてこなかったが、今年からは祢津御堂のメルロについては、フルーツゾーンだけの雨除けを始める予定だそう。薬に頼らない対策を色々と考えておられるのだ。

祢津御堂の畑は、緩やかな斜面だ。広いスペースなので草刈りだけでも本当に大変…
▲ 祢津御堂の畑は、緩やかな斜面だ。広いスペースなので草刈りだけでも本当に大変…

一つに絞るのはもったいない

3つの畑では、白ブドウ6品種(シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、セミヨン、ルーサンヌ、ヴィオニエ)、黒ブドウ9種類(シラー、ムールヴェルドル、グルナッシュ、メルロ、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルド、ピノ・ノワール、巨峰)と、多種多様なブドウを育てている。これらはフランスの主なワイン品種であると同時に、世界的にも認知度が高い。

「品種それぞれに美味しさがある。1つに絞るのはもったいないし、決められない」、と米倉さんは言う。ワインに対する深い愛情を感じる言葉だ。これまでは、各品種の収量が少ないということもありブレンドすることが多かったが、いざブレンドしてみると、ブレンドしたからこそ得られる美味しさや組み合わせによる新たな発見もあり、手応えを感じている。

例えば、「メランジュ・ボルドレーズ」というキュヴェでは、ボルドー・ブレンドとして、メルロ、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルドといった品種がブレンドされているし、「メランジュ・ローダニアン」は、ローヌ地方のワインを彷彿とさせる、シラーとムールヴェルドルのブレンドに仕上がっている。品種や比率は毎年変わるが、こういった楽しさが提供できるは、多品種を育てているからこそ。

千曲川ワインアカデミーの同期と立ち上げ、運営しているグループ、「トロワジエーム」より。左が「メランジュ・ボルドレーズ」、右が「メランジュ・ローダニアン」。
▲ 千曲川ワインアカデミーの同期と立ち上げ、運営しているグループ、「トロワジエーム」より。左が「メランジュ・ボルドレーズ」、右が「メランジュ・ローダニアン」。

それ以外にも、「品種毎に収量が毎年異なるので、天候リスクを分散させ、味わいを補完し合える」というビジネス面での有難い側面もある。例えば、「クアチュオール」というキュヴェの白ワインは、セミヨン、ヴィオニエ、シャルドネ、ルーサンヌのブレンド。2023年は各品種ほぼ同等比率のブレンドだったが、2024年はシャルドネが80%以上を占めた。ブレンド比率は異なるが、「クアチュオール」という世界観はそのままに。生産者の意図を感じながら、毎年異なる味わいを楽しめるワインなのだ。

「トロワジエーム」より。「クアチュオール」の美しい色調にうっとりする。 ▲ 「トロワジエーム」より。「クアチュオール」の美しい色調にうっとりする。

困難は一つずつクリアしていく

最初に植栽したのは、鞍掛金井にあるシラー、ヴィオニエ、セミヨンの3種類で、計250本。当時苗木不足が酷く、なかなか思ったように手に入らなかった。やっとの思いで手にしたにも関わらず、シラーの一部は房付きや着色が良くない。畑は元々野菜やくるみを栽培していた農地だったので、土に栄養分はある。シラーも樹勢が強い品種なので、本来は成長しやすいはず。成長が芳しくない6列は伐根して植え直すことを決めた。しかし、手塩にかけて育ててきたブドウ樹をばっさり切ってしまうのは心苦しく、昨冬にまずは3列だけ切ったそう。葛藤する気持ちがよく分かる。

民家のすぐ近くにある鞍掛金井にある畑。ムールヴェルドルの出来具合に特に満足しているとのこと! ▲ 民家のすぐ近くにある鞍掛金井にある畑。ムールヴェルドルの出来具合に特に満足しているとのこと!
 奥の民家側にあるシラーの列を切ったのが分かる。 ▲ 奥の民家側にあるシラーの列を切ったのが分かる。

祢津御堂にも困難はある。元桑畑で長く耕作放棄地だった約28haの広大な場所を、ワイン用ブドウ団地として5段に分けて造成したもので、米倉さんの畑は1段目と2段目に位置する。生産者側は、自然の形を活かして雑木を伐根してほしいというリクエストを行政側に出していたものの、紆余曲折あり、山を切り崩して土手を造ることになった。この辺りは硬盤層で、ユンボを使っても掘れないくらい土は固い。造成後に表土として山の土を戻すことにはなっていたものの、表土の厚さは場所によって異なり、栄養分も少ない状態に。また、山の中にある水脈が地表に表れ、水が溜まりやすい場所がいくつかあったという。米倉さんは2019、20年にシラーを植えたが、一部は思ったように成長しなかったので植え替えたそうだ。また、2020年に植えたリースリングは全く芽が出ず、2021年に全て植え替えた。成長がゆっくりという品種特性もあるかもしれないが、こうも植替えが続くと心が折れそうだ。

祢津御堂の畑は強粘土質の土壌。ブドウの根がしっかり張るのを根気強く待っている。 ▲ 祢津御堂の畑は強粘土質の土壌。ブドウの根がしっかり張るのを根気強く待っている。

もちろん、行政もこの状況に指をくわえて見ているだけではない。暗渠や大きい水路を設けたり、造成工事中の大雨で麓の民家へ影響があったこともあり、水害対策としてプールのような調整池を3箇所造ったりして対応している。また、生産者も定期的に集まって、共有スペースの草刈りなどで一緒に汗を流す。人生において、全てが揃うなんてことはないのかもしれない。だから、今の状況から逃げずに向き合う。そして課題を見つめ、できることから一つずつクリアしていく。そういう姿勢に感服する。

ワイン団地には暗渠や水路が張り巡らされている。 ▲ ワイン団地には暗渠や水路が張り巡らされている。
大人が小さく見える様子から、調整池の大きさが分かるだろう。 ▲ 大人が小さく見える様子から、調整池の大きさが分かるだろう。

委託で造るワイン

現在、収穫したブドウは全て委託醸造してワインに仕上げている。元々付き合いのあったツイジラボとは、最初に仕込むことになったシラーから続く関係で、今は赤ワインと微発泡ワインをお願いしている。白ワインについては、醸造責任者の小西さんが造る白ワインが好きだったこともあり、アルカンヴィ―ユに委託している。アルカンヴィーニュとは契約上、7月中にワインを引き上げる必要があり、1年ほど樽熟成をかけたい赤ワインの醸造をお願いするのは難しいため、うまい具合に委託醸造のすみ分けができたという訳だ。

ワインンテラス御堂のインスタより。ヨネファーム東御のワインの取り扱いもあるので、ぜひお試しを! ワインンテラス御堂のインスタより。ヨネファーム東御のワインの取り扱いもあるので、ぜひお試しを!

祢津御堂の畑の横には、リュー・ド・ヴァンの小山さんが新設したカーヴ・ド・ミドウがある。自社ブドウの醸造だけではなく、祢津御堂ワイン団地でブドウ栽培する人への支援も念頭に置いて設立された醸造所なので、米倉さんの祢津御堂のブドウが委託醸造される可能性もあるだろう。ブドウの移動も少なくなるので、合理的ではあるのだ。

ワイナリー建設に向けて

委託醸造で仕上げているワインの味わいには満足している。また、建材費高騰の影響もあり、ワイン建設にかかる費用は非常に高くなってきている中、当面は委託醸造が現実的だと考えている。ただ、ブドウ畑の拡大と共に、着実に収穫量も増えているので、委託費も上がってくるだろう。自分のワイナリーがあれば、醸造の自由度も上がるし、自分のスタイルをより濃く打ち出せる。

チャーミングな笑顔で周りを虜にする平井さん。

「今後5-10年以内には自分のワイナリーを建てたい。既存のワイナリーに追加投資する形で、施設の拡充をお願いするという方法もあるかもしれない。就農してから5年後くらいにワイナリー建設を目指していたのですけど…10年かかっちゃいましたね(苦笑)」、と米倉さん。

予定よりは時間がかかるかもしれないが、米倉さんのことだから、一歩一歩着実に目標に進んでいくに違いない。

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寡黙な方で、「やってます!」アピールはない。だけど、やると決めたことは全力以上の力を出してやる。仲間を大事にされる方で、その気持ちは言葉よりも行動で示す。
どうしてここまでできるのかなぁ、と思っていたが、「なぜワインの世界に行くことを決めたのか?」という問いに対する米倉さんの答えで腑に落ちた。

「死ぬときに後悔したくない。」

この思いが強く、50歳を機にやりたいことは思いっきりチャレンジすることにしたそうだ。人は皆いつか死ぬが、永遠に人生が続くかのように過ごしがちだ。しかし、米倉さんは終わりをしっかり意識しているから、人よりずっと密度の濃い時間を過ごすことができるのではないかと思う。そして、終わりを意識しているからこそ、苦労や逆境を正面から受け止める強さと胆力があるのだ。ワイナリー完成のお知らせを心待ちにしつつ、本気でブドウ栽培に向き合う米倉さんのワインを楽しみたい!

▲ お忙しいところ、お時間頂き、ありがとうございました!ワイナリー完成の暁には、ぜひまたお邪魔させて下さい!

Interviewer : 人見  /  Writer : 山本  /  Photographer : 大石悠貴  /  訪問日 : 2025年6月6日

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