2024.02.20

ムルソーの特徴や歴史、格付けを解説!おすすめのワイン3選も紹介

 

ムルソーはフランス、ブルゴーニュの銘醸地の一つで高級な白ワインを生み出す場所として知られている一方、比較的親しみやすいワインということもあり多くの人に人気があります。 世界で愛される産地とはいえどれを選べばいいかなかなか難しい所かと思いますので、今回はムルソーの特徴や基礎知識、種類などに加えておすすめのムルソーワイン3本もご紹介いたします。

ムルソー(Meursault)とは?

ワイン初心者の方も「ムルソー」という単語を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。ムルソーはブルゴーニュ地方 コート・ド・ボーヌ地区のちょうど真ん中にあります。北のヴォルネーと南のピュリニー・モンラッシェの間に位置するムルソーは標高230メートルから360メートルで、シャルドネを栽培するには最適な高さであり、なだらかな斜面にブドウ畑が広がっています。
ブルゴーニュにはコルトン・シャルルマーニュ、ピュリニー・モンラッシェ、シャサーニュ・モンラッシェといった素晴らしい銘醸地がありますが、ムルソーもそれらの産地と並ぶほどのワインを生み出しています。

ちなみに「ムルソー」という名前は「ネズミのジャンプ」が由来ではないかと言われています。なぜネズミかというとその昔白ブドウと赤ブドウがネズミがジャンプできるくらいすぐ近くで栽培されていたからだそうです。

白ワインが有名

ムルソーと言えば、白ワイン!が有名で、村名ワインであっても上質なワインが多いのです。更に上位のプルミエ・クリュ(1級畑)の中にはグラン・クリュに匹敵すると評価が高い、「ジュヌヴリエール」、「ぺリエール」、「シャルム」、「グット・ドール」などがあり、ブルゴーニュ最高峰の畑から生産されるムルソーのワインは誰しもが飲んでみたいのではないでしょうか。
実はこのムルソー、白ワインが有名な産地ですが全生産量の内、4%が赤ワインで、村の北側で僅かに赤ワインも造られているのです。ムルソーで生まれる赤ワインはどんな味なのか?興味がありますが非常にピュアな果実味が中心となり、全体的にコンパクト、そしてフローラルな印象で、長期熟成というよりは割と早飲みタイプの赤ワインといえます。ただ、白ワインが有名な産地が故、なかなかお目に掛る機会も少ないワインですので巡りあわせがあったら試してみる価値はあると思います。

豊かなミネラル感が感じられる高品質なワイン

ムルソーに限らず、シャルドネという品種は石灰質土壌に適しており、土壌がブドウに与える養分を得ることでワインに対してミネラル感を与えることが出来ます。例えば、シャブリは石灰質土壌の割合が高いため、より多くのミネラル分を含むことでワインに繊細さやシャープさを与えることが出来ますが、ムルソーは石灰質に加え粘土も含んだ土壌もある事でシャルドネ由来のフィネスに加えて力強さや厚みのある骨格をワインに表現しています。

熟成によって味わいが変化する

熟成したムルソーは何とも言えない味わいが堪能できるのもまた事実で、まさにブルゴーニュ白ワインの王様と呼べる風格があります。
若いうちはミネラルが中心で力強いアロマ、シャルドネ由来のトースト香が加わり、直線的でリニア、しっかりとした味わいを一般的に感じ取れますが、熟成をすることでムルソーのワインは豹変します。若いうちは白いフルーツや柑橘系を伴うアロマだったのが、熟成を経る事で黄色いフルーツ(マンダリンオレンジ、花梨、アプリコットなど)の熟したアロマに変化し、ボディーは柔らかくふくよかになり、心地よい酸味が加わりムルソーのテロワールでもある、厚みを感じられるテイストも加わってきます。当然、樽熟成を長期間に渡って醸す生産者であれば、よりリッチさやゴージャスな印象をワインに与えることが出来るのです。

ムルソーの歴史

現在、ムルソーは世界的に高い評価を得ていますが、1950年~1960年代までは、あまり注目されていた産地ではなく、逆に不遇の時代を過ごした過去もあるのです。
今では想像がし難いですが、1950年代までのムルソーは良質なシャルドネの産地でありながらも、白ワインよりも赤ワインの方が生産量も販売価格も上回っていました。ネゴシアンに桶売りすることが一般的だった時代にムルソーのシャルドネは人気がなく買い取って貰う事が出来なかったため、自分たちで瓶詰めして売るしかありませんでした。
ムルソーの白ワインがクローズアップされるようになったのは、1980年代にアメリカで巻き起こった「シャルドネブーム」です。当時から既に、「モンラッシェ」などは高い値付けで取引されていたのですが、アメリカのクルティエ達はまだ安価だったムルソーに着目するようになります。当時のムルソーのスタイルは「濃厚・力強くふくよか・こってり」という表現がピッタリでアメリカのワイン愛好家の人々に好まれる味わいでした。そして、手軽な価格帯だったことも相まって「ムルソー」という産地が一気に名を轟かせることになっていきます。

リッチな味わいが好まれるというトレンドも徐々に変化を見せており、世界的な地球温暖化というのもその一因と考えられています。とりわけ、このシャルドネという品種は「酸が命」という事もあって、地球温暖化の影響で収穫前にブドウの熟度が上がる一方、酸度は下がってしまい、伴ってアルコール度数の高いブドウが出来やすい傾向が続いています。
こうした自然環境や時代の流れもあり、クラシカルな樽がしっかり効いた厚みのあるムルソーのワインというのが徐々に減っていて、どちらかというとシャルドネの個性とテロワールをしっかりと反映させた果実味が前面に醸し出されている、繊細なスタイルのムルソーが主流になっている印象があります。

ムルソーの格付け

ブルゴーニュワインは法律によって格付けが行われていますが、フランスワインの他の産地の格付けとはちょっと異なります。ボルドー地方はシャトー(生産者)に対しての格付けですし、シャンパーニュ地方は村ごとの格付けです。一方、ブルゴーニュは細分化された畑ごとの格付けとなるため、より範囲が狭くなり限定的になります。
ブルゴーニュ内には「クリマ」と呼ばれる単位の畑が1000以上も存在し、僅か33の畑だけがグラン・クリュに認定をされていますが、これはブルゴーニュ全体の1.5%のみです。続いてプルミエ・クリュが684の畑で全体の10.1%になります。

ムルソーの格付けをみていくと、ムルソー村の全域で栽培されたブドウを採用する、村名(ヴィラージュ)ワインとムルソー村では最上位にあたる1級(プルミエ・クリュ)があります。村名ワインは限定された畑ではなく、広範囲に渡って栽培されたブドウを集めて仕込むのですが、生産者によってはプルミエ・クリュの畑で栽培したブドウも品質に見合わない場合は村名ワインとして使う事もあるため、決して村名ワインの品質が低いとは言い切れません。
ムルソーにはグラン・クリュ(特級畑)はなく、プルミエ・クリュ(1級畑)が最上位になりますが、ヴィンテージと生産者によっては、グラン・クリュを上回るワインが生産されることもあり、世界的に白ワインの最高峰の産地といっても過言ではありません。畑の格付け当時、既に高い名声を得ていた畑の持ち主にとって、もしかしたらグラン・クリュの格付けは不要だったのかもしれません。

代表的なプルミエ・クリュ

ムルソーの最上位にあたる、プルミエ・クリュの中でも誰しもが飲んでみたいプルミエ・クリュは、圧倒的な知名度を誇るジュヌヴリエール、ぺリエール、シャルムで、この3大プルミエ・クリュが御三家と呼ばれています。この3つのプルミエ・クリュから生まれる白ワインは時に、グラン・クリュを上回る評価を得ることがあります。
ぺリエールは石切り場という意味を持っており、名前から想像する通り、ブドウにミネラルを豊富に与えながらも、ムルソーは石灰岩が覆う粘土の比率が高い土壌の影響によってワインは果実味が力強く、そして余韻も長いリッチなワインが多いのも特徴です。

シャルムはムルソー村最大のプルミエ・クリュで生産量も流通量も一般的に多く、柔らかくマイルドな口当たりで包み込まれるような味わいが特徴的です。

ジュヌヴリエールは繊細でフィネスやミネラルを多く感じることが出来る土壌で、ムルソーのプルミエ・クリュの中でも引き締まったワインを生み出します。

他、グット・ドールは黄金の雫という意味ですが、秋の収穫期に黄金色に染まったブドウ畑が連想されますし、ムルソーのワインに対してのイメージでは、色調が濃く黄金色で樽由来のバターの香りを兼ね備えたリッチな白ワイン。という印象を持っている人にぴったり寄り添うと思いますし、ミネラル感が強く、タイトな印象ですが長期熟成向きのポリュゾ、力強く凝縮感溢れ、リッチな味わいを表現するブシェールがムルソープルミエ・クリュでは代表格となります。

ムルソーに合う料理

ムルソーに合わせるお料理は、ワインの格とお料理の格を合わせるイメージでちょっと特別感のあるお料理が良いかもしれません。ムルソーが持つ、ミネラルとふくよかさを考えると一般的に魚介料理との相性は良いと思いますが、中でも甲殻類との相性は素晴らしく、例えばオマールブルーのロースト、手長エビの香草パン粉焼きなどが良いですし、白身魚を使う場合は、皮目を香ばしく焼き上げてクリスピーに仕立て、白ワインとバターを使ったソースで仕上げるお料理も良いですが、バターもちょっと焦がした仕立てで「ブールノワゼット」を使うと更に相乗効果も高くなります。ワインのスタイルによりますが、白ワインでありながらもお肉料理にもよく合います。素材としては「鶏肉」がベストではないでしょうか。
以前、パリのレストランでブレス産 若鶏のフリカッセを頂いたときに、出てきたワインがムルソーでした。赤ワインが出てくるのかな?と思っていたのに、ムルソーの白ワインが出てきたので驚いたのですが、厚みのあるムルソーとよく合いました。恐らく、ムルソーがもつクリーミーなニュアンスとフリカッセ(クリームを使う)という調理法を上手にソムリエの方が合わせたマリアージュでした。赤身の素材にムルソーを合わせるのは難しいと思うのですが、白身肉との相性は良いと思います。もちろんフランス料理だけではなく、中国料理では魚介と白湯のスープ、伊勢海老のXO醤炒めなどの海鮮系は相性が良いですし、若めでフレッシュ感のあるムルソーは、素材を生かした日本料理ともよく合うので試して頂きたいと思います。

他のブルゴーニュワインとの比較

ブルゴーニュワインで有名なシャブリ地区は日本で馴染みがありますし、ムルソーはまだだけどシャブリを飲んだことがある人は多いかも知れません。ムルソーとの最大の違いは味わいに対してのシャープさや切れ味じゃないでしょうか。石灰を多く含んだキンメリジャン土壌のシャブリはミネラルを豊富に含んでおり、ブドウに繊細さをより表現します。そのシャルドネのポテンシャルを生かすためにステンレスタンクを用いてワインを造る生産者も多く、ムルソーに比べシャブリの方がすっきりとした味わいになります。

ピュリニー・モンラッシェもムルソーと同じく、ブルゴーニュワインの最高峰として評価をされている村になりますが、ピュリニー・モンラッシェの方がムルソーに比べて引き締まっていて、ミネラルが豊富なワインを生み出します。繊細でコンパクト、直線的でありながら洗練されたエレガントさと、ふくよかさをワインに与えています。

ムルソーのおすすめワイン3選

ルー・デュモン ムルソー 2020

2000年に設立され、まだ歴史は浅いのですが日本人 天才醸造家、仲田晃司氏が仕込むワイン。日本人らしく緻密にワイン造りがされていて、まさに「職人」という言葉がぴったりです。
細部にまで徹底的に拘る執念とテロワールを徹底的に研究しつくしており、繊細で洗練された味わいのムルソーです。

ロベール・アンポー ムルソー ペリエール 1995

ムルソー村を拠点に構える由緒正しき老舗生産者です。カーヴで長年熟成させたワインをリリースするため、熟成のスペシャリストといえるドメーヌで市場に出回っているほとんどのワインが手に入れて直ぐに飲める状態にあるのが特徴です。
プルミエ・クリュでも最高峰のぺリエールの畑で複雑性に富んでおり、黄色い成熟度の高い果実味と長い余韻に包まれ、まさに王道のムルソーといった、風格がある白ワインです。

ジャック・プリウール ムルソー ペリエール 2020

18世紀にムルソー村に設立された超一流生産者。1990年から醸造に携わるナディーヌ・ギュブラン女史の元、素晴らしいワインを世に送り出しています。
このぺリエールはアプリコットやマンダリンオレンジ、非常にリッチで複雑なアロマが特徴的で若々しくフレッシュさを残しながらも芯が通ったパワフルさを兼ね備えた逸品です。この先20年以上は熟成に耐えうるポテンシャルを兼ね備えたワインです。

まとめ

ブルゴーニュの白ワイン産地で名実ともに名を轟かせている、ムルソーは白ワイン好きな愛好家はこの土地のワインを愛してやみません。ムルソーのテロワールをしっかり反映させたミネラルを豊富に感じ、引き締まったタイプから熟成を得て実にゴージャスになったムルソーなど様々です。実際、私がレストランでワインをセールスする際によくご注文を頂くのがムルソーです。ただ、このムルソーはお勧めをする際にちょっと注意が必要です。
何故ならば「ムルソーは長期熟成型で味わい豊か、樽感もあって飲み応えがある!」というイメージを持っているお客様が少なくないからです。ですから、クラシカルなスタイルを醸し出しているムルソーの最高峰、コシュ・デュリなどはリッチでゴージャスなワインですので、お客様のイメージ通りになりますが、例えばジャック・プリウールのような繊細さが表現されているムルソーをお勧めする時は、お客様が持っている「ムルソー」のイメージとちょっと違う時があるので注意が必要です。このように、「ムルソー = 樽感がしっかりあるワイン」というイメージが強く根付いているのはブルゴーニュの白ワインでムルソーだけかもしれません。

ムルソー村で最上位のプルミエ・クリュでも時に、グラン・クリュを超えるワインを生み出すこのムルソーのワインは、長期熟成タイプから軽やかで切れ味の良い繊細なワインもあり表情豊かなワインが多いのですが、白ワイン最高峰の産地としてこれからも発展を遂げていき、飲み手を驚愕させるワインを世に送りだしていくと共に、秀逸な生産者がムルソーにはひしめき合っているため、今後も需要の高い産地として名を轟かせていくと思います。

ムルソーのワインは熟成を経ることで香りも味わいも複雑味を増していきます。ただ、若いヴィンテージのムルソーもミネラルをしっかりと感じて、力強い味わいも多く、様々なシーンで楽しんで頂けるワインです。また前述したように近年は自然の産物であるブドウをトーストの強い樽でワイン造るのではなく、ブドウのポテンシャルを引き出すような繊細な造りにスライドしている傾向があるので、近い将来、ムルソーが持つイメージも飲み手によって様々になるのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

高丸智天

高丸智天

ガストロノミー “ジョエル・ロブション”
シェフソムリエ 高丸智天 (Tomohiro TAKAMARU)

【経歴】
1977年 広島県生まれ。
ホテル・レストラン専門学校卒業後、千葉県のホテル内フレンチレストランで10間年勤務したのち
2008年 ガストロノミー “ジョエル・ロブション” 入社
2012年 同店 プルミエソムリエ就任
2016年 同店 シェフソムリエ就任
2023年 テタンジェ社よりシャンパーニュ騎士団 シュヴァリエ 叙任
現在に至る

ミシュランガイド17年連続三ツ星「ガストロノミー “ジョエル・ロブション”」シェフソムリエ。シャトーレストランにストックする3,000種類 25,000本のワインを熟知し、お客様に最適な1本を提案している。また、料理とワインのマリアージュには定評があり、多くの人から高い支持を得ている。