コレクション: 北海道のワイン
長野県と並んで、この20年の間に目覚ましい発展を遂げているワイン産地が北海道です。2023年の日本ワインの生産量では長野県を抜き、2位に躍り出ました。ワイナリー数も2014年の22軒から2023年には64軒と約3倍に増加しており、近年の北海道ワインの急激な成長を見て取る事が出来ます。2018年には山梨に次いで、日本で2番目のワイン産地のG.I.として認可されました。
北海道の有利な点としてまず挙げられるのは、冷涼な気候。特に温暖化が顕著な近年の気候変動を考えると、北海道に注目が集まるのは必然と言えるでしょう。2019年を境に北海道でも気候は随分と変わった(主要産地の積算温度はウィンクラー・インデックスのRegion 1⇒2へと突入)と言う声も近年多く聞かれるようになりましたが、未だワイン産地として開拓されていない冷涼地も多く残り、多くの可能性を秘めた産地であるのは間違いありません。逆に弱点としては、雪解けが遅く降雪が早いため生育期間が短い事、冬の最低気温の低さからぶどう樹を雪の中に埋めて凍害から守る必要がある事が挙げられます(これも気候変動で変わるかも知れません)。
もう一つの利点は土地が広く、価格が安く、まとまった農地が手に入れやすい事。北海道の急激なワイナリーの増加の裏には、その経済的な参入のしやすさから個人が設立した小規模ワイナリーが一気に増えた点もあります。結果として、北海道のワイナリーの業界構造は日本最大のワイナリーである北海道ワインや、自治体主導の十勝ワイン、ふらのワインなどの歴史ある少数の大手ワイナリーと、21世紀に入って個人によって立ち上げられた多くの小規模ワイナリーが共存している状況となっています。
ワイン用のぶどう品種ではピノ・ノワールをイメージされる方が多いと思いますが、2023年の実績ではトップ10にも入っていません(例年10位前後)。最も多いのはナイアガラ、2位がキャンベル・アーリー、そして6位にポートランドとアメリカ系のぶどう品種が上位に入っているのがわかります。これは先に述べた大手ワイナリーのエントリークラスのワインに使用されているのがこれらのぶどうだからです。病気に強く収量も安定したこれらのぶどうたちは、栽培農家によって広く栽培されワイナリーに供給されています。ヴィニフェラで多いのはケルナー、ツヴァイゲルト、ミュラー・トゥルガウ、ロンドなどのドイツ・オーストリア系品種です。かつての寒かった時代に北海道で完熟出来た貴重なぶどうがこれらの品種だったからで、こちらも主力の生産者はぶどう栽培農家です。また山幸(十勝ワインが開発)のような寒さに強い独自品種が多いのも北海道ならではでしょう。近年ブルゴーニュ品種(ピノ系、シャルドネ)を中心としたフランスのヴィニフェラ系を植えるワイナリーが増えていますが、新しい畑や小規模な生産者が多く、まだ大きく全体の数字を変えるところまでには至っていません。
◆北海道を代表する産地
後志地方(余市・仁木)
余市町と隣接する仁木町が主要産地。特に余市町は北海道全体のワイン用ぶどう栽培面積の30%、ぶどう生産量の半分強を占める、北海道最大のワイン産地となっている。2025年現在のワイナリーは19軒。2008年までワイナリーは1軒しかなく、大手のワイナリーにぶどうを収める栽培農家が中心の産地だったが、2008年設立のドメーヌ タカヒコの誕生と評価の高まりにより、一躍世界にも注目される産地に成長した。高品質なピノ・ノワールとドイツ系品種の評価が高い。
空知地方(三笠・岩見沢)
札幌と旭川の間に位置する地方で、主力の産地は三笠市と岩見沢市。単独の存在ではあるが、浦臼町に日本最大のワイン用ぶどう畑である北海道ワインの鶴沼ヴィンヤードも存在する。近年、周辺の市町村にもワイナリーが誕生中。内陸性の気候で寒暖差とヴィンテージ差が余市よりも大きい。ヴィニフェラが主体という事もあって、収量は余市よりも少なめで、凝縮感の高いワインが生まれる産地と言える。鶴沼以外に大手は無く、個人経営のワイナリー主体の産地。
その他(道南・道東)
道南では、函館市、北斗市がワイン生産の中心。特に函館には、ピノ・ノワールの本場ブルゴーニュの生産者ドメーヌ・ド・モンティーユが近年ワイナリーを開き、大きな注目を集めている。新規のワイナリーも増加中で産地化する動きが見られる。道央・道東では富良野と池田町が生産の中心だったが、この周囲にも近年ワイナリーが増加中。温暖化によってさらに栽培可能エリアが拡大する可能性も高い。現在の北端は名寄だが、ほど近い東川、鷹栖などにも注目の生産者が出て来ている。
◆北海道を代表するぶどう品種
・ナイアガラ
アメリカ原産のいわゆるラブルスカ系品種。品種由来の鮮やかで強い香りがあります。低価格のエントリーラインの商品に主に使われていますが、北海道のナイアガラは香り高く、酸のキレもあり、独特の魅力を持ちます。
・キャンベル・アーリー
アメリカ原産のいわゆるラブルスカ系品種。ナイアガラ同様の品種由来の鮮やかで強い香りがあります。色は明るく、渋みが少なくフルーティな味わいが特徴で、生のぶどうをそのまま頬張るような果実味に魅力があります。
・ケルナー
ドイツで交配されたヴィニフェラ系(トローリンガー✕リースリング)。寒さに強く、早熟なため1980年代に広く導入された。リースリング由来の特有の魅力的なアロマがあり根強い人気を誇る。遅摘みぶどうからの甘口も秀逸。
・ツヴァイゲルト
ツヴァイゲルト博士が交配したオーストリアを代表する品種(ザンクト・ラウレント✕ブラウフレンキッシュ)。早熟で、酸もタンニンもまろやかな、フルーティなワインを産む。気候変動で品質が向上し、改めて見直されている。
・山幸
十勝ワインによって開発された日本固有品種(ヤマブドウ✕清見)。非常に寒さに強く埋めなくても越冬出来るため、雪の少ない道東エリアで急速に栽培が増えている。非常に色が濃く、強い酸味を持つのが特徴。
・ピノ・ノワール
生産量はまだまだ多くないが、品質面では北海道で最も期待されている高貴品種。栽培は難しいが、香り高くエレガントな酒質は唯一無二。2008年創業のドメーヌ タカヒコが世界で評価された事で、北海道のワインブームをつくった品種。