2026.07.07 更新

京都・丹波ワイン

京都・丹波ワイン

丹波ワイン株式会社

代表取締役 黒井 衛 氏、
専務取締役 黒井 仁吉 氏、
販売業務部 エグゼクティブ マネージャー 坂本 泰隆 氏、
製造部 部長 内貴 麻里 氏、
製造部 岡市 昌樹 氏

一人ひとりの知恵を持ち寄って、時間をかけて生みだした京料理に合うワインの姿

日本ワインコラム | 丹波ワイン

京都という言葉を聞くだけで心が躍るのはなぜだろう。神社仏閣、京料理、芸能など、伝統文化が色濃く残りながらモダンで魅力が色褪せない。はんなりした京言葉が行き交う小粋な大人の街といった印象で、とにかくオシャレな「和」の筆頭を走るのだ。そんな「和」の世界に「洋」のワインを融合させたのが今回の取材先、1979年創業の丹波ワインだ。京都市内から車で45分程度、京都府のほぼ中央部にある京丹波に居を構える。
なぜ京都でワインを造ることになったのか。「和」と「洋」が融合する味わいが生みだされる秘訣はどこにあるのか。ワイン造りのきっかけとなった豪快な創業者、そしてその意を汲んで日々知恵を出し合い、実践を重ねるスタッフの皆さんがいるからこそ、丹波ワインという形が出来上がっている。今回はその足取りをお届けしたい。

丹波ワインの看板の背後にある建物が醸造所。写真右手奥には自社畑が広がる。 ▲ 丹波ワインの看板の背後にある建物が醸造所。写真右手奥には自社畑が広がる。

京都の食文化に合うワインを目指して

往々にして創業者は強い好奇心と高い行動力を有するものだが、丹波ワインの創業者、故・黒井哲夫氏もかなり大胆で豪快な方だったようだ。当時、照明器機メーカー、クロイ電機(株)の社長だった黒井氏が、出張先の海外の駅のホームやカフェで気軽に楽しめるワインの美味しさに感動し、ワインをお土産として持ち帰った。だが、日本で同じワインを飲んでも感動が蘇らない。なぜだろうと考えを巡らせ見えてきたのが、その土地の自然環境や人々の日々暮らし、他地域との往来など、長い歴史を経て形成されてきた食文化との相性だ。

創業者である故・黒井哲夫氏のご子息で、丹波ワイン現社長の黒井衛氏。とても気さくで物腰が柔らかいお人柄! ▲ 創業者である故・黒井哲夫氏のご子息で、丹波ワイン現社長の黒井衛氏。とても気さくで物腰が柔らかいお人柄!

たいていの人は、「ああ、そういうことか」で終わる話だが、黒井氏は一味も二味も違う。クロイ電機の社長業を辞め、私財を注ぎ込み、「京都の食文化に合うワイン造り」を目指すのだ。そして1979年、当時生食用ブドウ園を経営していた元丹波町長の山崎高明氏と協力し、丹波ワインを誕生させたのだ。行動力の高さに目を見張る一方、生活がかかっている家族は反対しなかったのだろうか…と心配になった。「幼少期の父親のイメージはお酒が好きな人。家族が反対している様子もなかったし驚きもなかった」と、哲夫氏のご子息で現社長の黒井衛氏(以降、黒井社長)は振り返る。家族が心配する暇を与えない程のスピード感とバイタリティで物事が進んでいったのかもしれない。尚、黒井社長自身は「お酒があまり強くない」そうで、前社長のアルコール分解能力は遺伝しなかったようだ。笑

京丹波の環境に応じたブドウ栽培

京丹波は丹波高原の木々に囲まれた里山で、食の宝庫と呼ばれる程、京料理に欠かせない食材が多数実る豊かな場所だ。栗、黒豆、松茸、牛肉など、「丹波ブランド」と呼ばれる特産物は全国的にも有名なので、ご存知の方も多いだろう。因みに、丹波ワインでは、丹波栗入りのデザートワインも作っている。栗の甘みを感じる上品な和菓子を彷彿とさせる味わいなので、栗好きの方に是非オススメしたい。

販売所に展示されていたマップ。醸造所と各畑の位置関係がよく分かる。「向上野」では主にシャルドネとサンジョヴェーゼを、「千原」ではタナを、そして「平林」ではメルロ、ピノ・ノワール、タナ、ピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブラン、シュナン・ブランなどを植えている。因みにタナが植わっていた場所ではもともとカベルネ・ソーヴィニヨンを育てていたが、生育が悪く最近植え替えたものだ。 ▲ 販売所に展示されていたマップ。醸造所と各畑の位置関係がよく分かる。
「向上野」では主にシャルドネとサンジョヴェーゼを、「千原」ではタナを、そして「平林」ではメルロ、ピノ・ノワール、タナ、ピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブラン、シュナン・ブランなどを植えている。
因みにタナが植わっていた場所ではもともとカベルネ・ソーヴィニヨンを育てていたが、生育が悪く最近植え替えたものだ。

そんな自然豊かな場所に、丹波ワインは21,000坪(約7ha)という広大な敷地を持つ。もともとクロイ電機の工場建設予定地だった場所を開墾して造られた場所だ。敷地には、自社畑、醸造所、ワインショップ、レストラン等の施設が揃っている。自社畑はワイナリーに併設する「鳥居野」、そこから道路を挟んで隣接する「向上野」と「千原」、そして車で5分程の場所にある「平林」の4ヶ所で、合計4.5haある。これらの畑では、京丹波の環境を理解した上で管理がなされている。具体的に見ていこう。

西日本の中では雨は少なめ、それでも必須の雨対策

京丹波は内陸性気候と日本海式気候の特徴を持ち合わせる。冬は雪の降る日はあるものの積雪はそこまで多くなく、内陸性気候の影響もあり、年間、1,500mm前後と西日本の中では比較的降雨量は少ない。但し、7月後半頃に京丹波で発生し京都市内へと流れていく積乱雲、通称「丹波太郎」の影響でゲリラ豪雨的な夕立が毎日のように起こり、「この時期は、毎夕畑作業がいったん休止になります」と、販売業務部 エグゼクティブ マネージャーの坂本さんと栽培部の岡市さんは声を揃えた。

雨の後とは思えない程、ぬかるみのない土壌。 ▲ 雨の後とは思えない程、ぬかるみのない土壌。
今年から畑作業をリードする立場に昇格した岡市さん。丁寧な説明と真摯な眼差しが爽やかで、「ザ・ナイス・ガイ」と言いたくなるお方だ。 ▲ 今年から畑作業をリードする立場に昇格した岡市さん。丁寧な説明と真摯な眼差しが爽やかで、「ザ・ナイス・ガイ」と言いたくなるお方だ。

西日本の中では降雨量は少なめかもしれないが、やはり病気を予防する上で雨対策は必須だ。丹波ワインでは全て垣根仕立てでブドウ栽培されており、垣根全体を覆うレインカット又はフルーツゾーンのみの雨よけを施している。「雨に当てないことで、病気をかなり抑えられます。例えばピノ・ノワールは果実が密集して小さな房状になることから病気になりやすいですが、レインカットを施すことで病害をかなり抑えることが出来ています」と、岡市さんは手応えを語る。

手前側は、垣根全体のレインカットを施されている。通路を挟んで左側がセミヨン、右側にピノ・ノワールが植わっている。 ▲ 手前側は、垣根全体のレインカットを施されている。通路を挟んで左側がセミヨン、右側にピノ・ノワールが植わっている。

よりよい土壌環境を目指して続く改良

京丹波は黒ボク土が多く、肥沃で保水性と排水性が大きいのが特徴だ。この土があるからこそ、様々な農産品が育つのだろう。丹波ワインの畑も黒ボク土を含むが、粘土質が多い土壌のため、排水性が悪いところには暗渠を設置し、水はけのよさを確保している。また、除草剤は一切使わずに草生栽培を行い、刈り込んだ草は土に混ぜ込んで緑肥として利用。その他にもブドウを搾汁した後に残る種や皮などの搾りかすやワインの澱を畑の一角で発酵堆肥化し、有機肥料として畑に還元している。地道な作業の積み重ねにより、土壌の構造と質の改良が進んでいる。

畑の一角にある発酵堆肥を作る場所。ブドウの搾りかすや澱があるのが分かる。
畑の一角にある発酵堆肥を作る場所。ブドウの搾りかすや澱があるのが分かる。
▲ 畑の一角にある発酵堆肥を作る場所。ブドウの搾りかすや澱があるのが分かる。

昼夜の寒暖差と霧を活かした栽培

京丹波は中山間地なので、夏の日中は温度が上がるが夜間の気温がぐっと下がる。この寒暖差がブドウの酸味を維持し、アントシアニンの生成による着色の良さを促してくれる。ただし、温暖化の影響もあり、「ここ数年は夜温が下がらなくなってきていて、黒ブドウの着色も難しさが出てきています」と岡市さんは明かしてくれた。
また、秋頃になると昼夜の寒暖差の大きさから丹波霧と呼ばれる程、頻繁に霧が発生するようになる。丹波ワインはこの環境を活かし、完熟したセミヨンの収穫を更に遅らせ、丹波霧が発生するほど寒くなる時期に手摘みで収穫して遅摘みデザートワインを造っているのだ。

10月半ば頃まで収穫を引き延ばすセミヨンは、雨に当てないために垣根全体を覆うレインカットが欠かせない。 ▲ 10月半ば頃まで収穫を引き延ばすセミヨンは、雨に当てないために垣根全体を覆うレインカットが欠かせない。
遅積みのセミヨンは、糖度の非常に高いデザートワインになる。なんとも贅沢なお味! ▲ 遅積みのセミヨンは、糖度の非常に高いデザートワインになる。なんとも贅沢なお味!

研究を大事にする文化が根付いている

丹波ワイン創業と同時に入社した山梨大学農学部出身の末田有氏を筆頭に、丹波ワインの畑チームの面々は農学部出身者が多く、研究者気質が備わっている。今回畑についていろいろと解説して下さった岡市さんも京都府立大学の農学部出身。大学では梨の香りの遺伝子について研究を重ねていたという。農業関連を生業にしたいと考えていたそうで、「畑の仕事はめちゃくちゃ楽しい」と素敵な笑顔をみせてくれた。研究を大事にする文化が根付いているのだろう。畑では、遊び心を大切に、栽培者自らが手を動かして実験してみるという姿勢が随所に垣間見える。

創業当時から続く試験栽培

ワイナリーに併設された「鳥居野」の畑は1.5haあり、古樹のピノ・ノワール、遅摘みのセミヨン、ピノ・ブランを中心に栽培されている他、かなりの面積を使って試験栽培も行われている。丹波ワイナリーは、50品種以上という西日本最多の品種栽培を誇る。実は商品化されているのは選ばれた一部のみで、大半の約40品種は試験栽培中のブドウだ。

写真右手前が試験栽培区画。一列毎に異なる品種が栽培されており、成長度合いがそれぞれに異なるので、じっくり観察したくなる。 ▲ 写真右手前が試験栽培区画。一列毎に異なる品種が栽培されており、成長度合いがそれぞれに異なるので、じっくり観察したくなる。

試験栽培区画は一列毎に異なる品種が栽培されており、樹の成長速度や病気の出やすさ、果実の付き具合などが見て取れるので、環境との適応状況が一目瞭然だ。ぱっと見るとブドウ樹の成長が順調に見える品種であっても、よく見ると花芽が少なくて収量が確保できないという判断を下すこともあるそう。坂本さんがあるエピソードを紹介してくれた。トレッビアーノという品種をビニールなしの路地栽培していたにも関わらず、昨年キレイなブドウが収穫されたそうで、「これいいやん!」と興奮気味に本格栽培への移行を提案したところ、岡市さんを始めとする畑チームに「味が乗ってない」と却下されたそう。年齢や勤務年数に関わらず、思ったことを言い合える風通しのよさを感じさせる一コマだ。

平林圃場の一角。カベルネ・ソーヴィニヨンは栽培環境に合わないと判断し、今年初頭にタナに改植された。 ▲ 平林圃場の一角。カベルネ・ソーヴィニヨンは栽培環境に合わないと判断し、今年初頭にタナに改植された。

試験栽培品種の見直しは定期的に行い、環境との相性が良くないと判断したものを引き抜いた上で、新たな品種を試験栽培するそう。「ムロンは半量引き抜き、ソーヴィニヨン・グリに植え替えました」と岡市さんが教えてくれた。因みに、試験栽培している品種については、「京都丹波てぐみ39」や「京都丹波 トラディショナル(瓶内二次発酵)」といった商品に使用されているそうなので、ぜひお試しを!

台木も自ら育て、クローンも細かく選定する

苗木を購入するワイナリーが多い中、丹波ワインでは自分達で苗木を作っている。穂木品種の早晩性や樹勢などに応じて台木を選定して接ぎ木していくそうだ。また、丹波ワインでは穂木のクローンも細かく選定して接ぎ木されている。シャルドネで使用しているブルゴーニュ原産の「ENTAV809」と呼ばれるクローンは、マスカット香が際立っているそうだ。
畑では様々な台木が栽培されていたが、末田氏が京都府立大学と一緒に研究を始めた「四倍体」の台木活用は面白い。ブドウは通常、染色体を2セット有する二倍体だが、突然変異で四倍体が発見された。因みに巨峰は四倍体の交雑で生み出された品種だ。四倍体の場合、細根が太く短くなるという特徴がある。そのため、根の表面積が減り、吸収される水分や養分が少なくなり、穂木の樹勢が抑えられ、程よい水分ストレスもかかって果実の凝縮感が増すそうだ。問題は、根が張りづらく成長が遅いことだそう。四倍体の台木で育つブドウがどのような変化を遂げるのか、ぜひ研究結果をまた聞かせてもらいたい。

鹿の獣害が酷いため、フェンスを新設したとのこと。無事にブドウが収穫されることを期待する! ▲ 鹿の獣害が酷いため、フェンスを新設したとのこと。無事にブドウが収穫されることを期待する!

契約農家も研究熱心

研究熱心な面白さを併せ持つのは、丹波ワインの社員だけではない。1998年から付き合いのある京丹後在住の藤原さんは、ジョージア原産のサペラヴィを栽培・出荷してきた契約農家だ。ご高齢となり、2024年から丹波ワインのスタッフが農園を管理することになったそうだが、昔からジョージア産のブドウに目を付けていたとはかなりの先見の明がおありとしか言いようがない。また、亀岡在住の契約農家の福岡さんは、メルロやカベルネ・ソーヴィニヨンの他、プティ・マンサンなども栽培している。元エンジニアというだけあり、最新の英語文献を調べて栽培手法に取り入れてみたり、自ら新品種を作ってみたりと、かなり研究熱心だそう。こういう知的好奇心の強い契約農家の存在は、丹波ワインにとっても大きな刺激になっているに違いない。

ブドウ畑に突如として現れた野菜畑は、末田氏が管理しているそう。ガチガチのルールに縛られない、自由な雰囲気がいい! ▲ ブドウ畑に突如として現れた野菜畑は、末田氏が管理しているそう。ガチガチのルールに縛られない、自由な雰囲気がいい!

年中フル稼働の醸造所

丹波ワインの年間生産量は約50万本とかなり多い。うち、1/3は海外原料を含む国産ワイン、2/3は契約農家や買いブドウを含む日本ワインだ。自社畑ブドウを原料とするワインは全体の1割程度、約5万本とのこと。ブドウのみならず、梅やリンゴを用いたワインも製造している。様々な原料で多くの本数を製造していることから、醸造所は年中フル稼働となっている。その醸造所は築40年以上の建物で、メンテナンスを施しながら維持管理している。「できることなら建て替えて最新の建造物にした方が作業的には楽ですが、古い建物でも衛生環境は怠らないようにしている」、と製造部長の内貴さんは言う。床に傾斜がなく清掃が大変だったり、所々に不具合もあったりもするが、汚れがあればすぐ掃除することを心掛けているそうだ。

大小さまざまなタンクが並ぶ様子。製造量の多さが良く分かる。 ▲ 大小さまざまなタンクが並ぶ様子。製造量の多さが良く分かる。

手入れしながら長く設備を使っているからこその味わいもある。ワイナリーには5、60本タンクがあるが、中には酒蔵から譲り受けたホーロータンクが並ぶ。「ホーローはガラス質でコーティングされているので匂い移りしないのがいいですし、修繕しながら長く使えるのも利点です。昔はステンレスタンクよりもかなり安価だったこともあり、先輩が特注で買い足したワイン用のホーロータンクを今でも大事に使っています。ただ、昨今はメーカーが激減していることもあって、修繕をお願いできる先が減っているという問題もあります」と内貴さんは実情を教えてくれた。
樽はフレンチオークを中心に150-160程揃えている。昨今の新樽の値上がりは凄まじく、気軽に買い足すことは難しいが、それでも毎年10本ほど新樽を購入しているそうだ。尚、丹波ワインでは「和食に合うワイン」を目指しているので、新樽100%で熟成させるワインは少なく、樽の香りは控えめな古樽をメインに用いて、ゆっくり酸化熟成させることでまろやかな味わいになるような手法を用いている。

樽は225Lで揃えられている。白ワインは7ヶ月、赤ワインは1-2年程樽熟成させている。この中に「Magrenan Vino Tinto Japones」と記載のある樽があった。日本ワイン用に作られたもので、側面にアメリカンオークで、鏡にフレンチオークが用いられているとのこと。 ▲ 樽は225Lで揃えられている。白ワインは7ヶ月、赤ワインは1-2年程樽熟成させている。この中に「Magrenan Vino Tinto Japones」と記載のある樽があった。日本ワイン用に作られたもので、側面にアメリカンオークで、鏡にフレンチオークが用いられているとのこと。

和食に合う味わいを目指し、特注タンクで仕込むピノ・ノワール

丹波ワインのピノ・ノワールとの付き合いは長い。1980年にドイツのガイゼンハイム研究所を通じて苗木を輸入し1983年に植樹したのが始まりで、今では同社のフラグシップワインの一つになっている。2018年からは古樹のピノ・ノワールだけを使ったヴィエイユ・ヴィーニのワインも販売している。果皮が薄く、果実が密集していることから、病気が蔓延しやすく長年栽培上の苦労が絶えなかった品種だが、今では台木の選定や先手の防除などを行うことで、品質の高いブドウを収穫できるようになってきた。

ピノ・ノワールの樹齢は40年を超えるが、収量は落ちることがないそうだ。 ▲ ピノ・ノワールの樹齢は40年を超えるが、収量は落ちることがないそうだ。
ワイナリーに併設されたカフェからはピノ・ノワールの畑が見える。なんとも贅沢な仕掛け。 ▲ ワイナリーに併設されたカフェからはピノ・ノワールの畑が見える。なんとも贅沢な仕掛け。

醸造の過程でも、試行錯誤を繰り返してきた。京丹波で育つピノ・ノワールは種が大きいという特徴があるそう。「果実の成熟と種の成熟のタイミングは必ずしも一致しないですし、天候によっては種が熟しきらないタイミングで収穫せざるを得ない時もあります。ピノ・ノワールは色調の淡い品種ですが、それでも赤ワインとして仕込む以上、ある程度の色は欲しい。醸し発酵して長期間漬け込めば色は濃くなるものの、種からの荒いタンニンも抽出されバランスが悪くなるという問題がありました」と、内貴さんが振り返る。そこで導入されたのが、種子を取り除くことができるタンクだ!

タンクでワインが発酵中の様子。 ▲ タンクでワインが発酵中の様子。

比重の重い種子はタンクの下部に集まるという特性を活かし、発酵の途中で種だけを取り除くようにしているそう。「果実のつぶし具合やどのタイミングで種を取り除くかなど、難しい判断を迫られることはありますが、このタンクを導入してから味わいがかなりよくなりました」と手応えを教えてくれた。栽培・醸造の両方での技術向上により、和食に寄り添う雑味のない味わいのピノ・ノワールが生まれるのだ。

古樹のピノ・ノワールを味わえる日本のワイナリーは珍しい。 ▲ 古樹のピノ・ノワールを味わえる日本のワイナリーは珍しい。
テイスティングで各種ワインをサーブしてくれた専務取締役の黒井仁吉さん。 ▲ テイスティングで各種ワインをサーブしてくれた専務取締役の黒井仁吉さん。

「打倒ビール」で始まった「てぐみ」シリーズ

丹波ワインの人気No.1といえば、「てぐみ」である。「売上の3割ほど占める屋台骨」と、生みの親である内貴さんは誇らしげに教えてくれた。
てぐみのコンセプトは「打倒ビール&健康志向」だ。内貴さんは入社後しばらくの間、山梨や四国から買い付けたデラウェアを使ったほんのり甘いフレッシュな新酒造りを担当していたそうで、「ピーク時は1アイテムで10万本の売上げを記録した」とのこと。徐々に日本におけるワインの認知度が上がり、赤ワイン人気が高まる一方、甘口の白ワインの人気に陰りがでるようになり、売上を回復せねば…という想いがあったそうだ。丹波ワインは国内消費を軸にしており、マーケットは日本だ。ワインブームと言われるものの、今でも日本のワイン消費量は多くない。「国内のアルコール消費割合を見ると、ワインは3.5%程度。一方でビール類は40%近く占めます。であれば、ビールの代わりになるものを造ろうと考えました。また、健康志向の高まりもあるので、亜硫酸無添加がいいと思ったのです」と、内貴さんは振り返る。

はじける笑顔が素敵な内貴さん。姉御肌なリーダーシップを感じ、「どこまでも付いていきます!」と言いたくなる。 ▲ はじける笑顔が素敵な内貴さん。姉御肌なリーダーシップを感じ、「どこまでも付いていきます!」と言いたくなる。
大人気の「てぐみ」は、白やロゼ、複数品種のブレンドなど、様々なラインナップがある。 ▲ 大人気の「てぐみ」は、白やロゼ、複数品種のブレンドなど、様々なラインナップがある。

入社時の経験からデラウェアと微発泡スタイルは合うと自信があったし、亜硫酸無添加ワインを過去に製造した経験から、瓶詰後の味わいを維持するためには炭酸ガスが充填されている状態が理想的だと踏んでいた。「味わいの面でも製造手法においても微発泡が最善でした。それに日本人は微炭酸も濁りも好物ですしね」と、嬉しそうに教えてくれた。尚、「てぐみ」という名前の由来は、発酵中のワインを一本一本「手で汲んで(てぐみ)」瓶詰めしたからだそう。愛情を感じるネーミングである。
初年度は、6キロタンク一本分で5-6千本程製造。「実は、初年度はうっかり亜硫酸を入れてしまったので、リリースが1年遅れたのですよ。振り返れば、いい思い出です」と、豪快に笑いながら教えてくれた内貴さん。そして、「すぐにいいアイディアが生まれることはないので、次の世代になるかもしれませんが、何事にも流行り廃りはありますし、次のてぐみを考えていきたいですね」と未来に目を向けた。このバイタリティがあれば、まだまだ何かがあるに違いない。期待を胸に待ちたいと思う。

北海道壮瞥で始まった新たな取り組み

丹波ワインは、2018年から北海道洞爺湖のほとりにある壮瞥(そうべつ)町でブドウ栽培を始めた。2014年に同町産のシードル醸造の依頼がきっかけとなり、壮瞥町商工会シードル実行委員会からのワイン用ブドウ栽培をしてみてはどうかとの提案があったそうだ。京都から北海道はかなりの距離があるが、丹波ワインが北海道でブドウ栽培することは運命だったのだろう。提案をうけてから4年後には試験栽培することになったのだ。
2018年に25aの広さから試験栽培を始め、2021年には畑を約1ha追加。現在、ピノ・ブラン、シャルドネ、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブラン、ゲヴュルツトラミネール、テンプラニーリョなどを栽培している。
ピノ・ブランは少量だったが2019年に初収穫した。「丹波のピノ・ブランと全く表情が違ったので本当に驚きました。醸造する身としては非常に面白かったですし、出来上がったワインを前にして、皆が北海道のワインに注目する気持ちがよく分かりました」と壮瞥のブドウを讃えた上で、2024年に初収穫されたピノ・ノワールについては、「丹波の古樹の方がレベルは上」と、内貴さんは冷静な評価を下した。

少し分かりにくいかもしれないが、上段に「2024 SO Pinot Noir」と記載されている樽に、壮瞥のピノ・ノワールが眠っている。尚、壮瞥のブドウはトラックに積みフェリーで運搬した上で、丹波で醸造しているそう。 ▲ 少し分かりにくいかもしれないが、上段に「2024 SO Pinot Noir」と記載されている樽に、壮瞥のピノ・ノワールが眠っている。尚、壮瞥のブドウはトラックに積みフェリーで運搬した上で、丹波で醸造しているそう。

とんとん拍子に進んでいった壮瞥でのブドウ栽培だが、難しさもある。栽培スタッフは出張ベースで畑作業を行っているため、即時対応が難しい。アライグマやタヌキといった害獣被害、そして晩腐病といった病気の影響で、2025年は6トンの収穫予定に反し1トンしか収穫できなかったそうだ。北海道の方が病気のリスクが少ないと想定し防除の回数を減らしていたが、今年からは丹波での慣習を踏襲した対策に切り替えたそうだ。今年は6-10トンの収穫を予定しているそう。害獣被害や病気がないことを祈るばかりだ。

ワイナリーに併設されたショップには、ワインだけではなく地元の食品やオリジナル産品が並ぶ。写真奥にはワインの試飲スペースも。 ▲ ワイナリーに併設されたショップには、ワインだけではなく地元の食品やオリジナル産品が並ぶ。写真奥にはワインの試飲スペースも。

取材の最後で内貴さんが口にされた言葉が忘れられない。 「丹波ワインでは色んなタイプのワインを造っているので、個人のこだわりだけで造るワインとは違います。でも、色々ある中から自分で楽しみを見つけてやっています。まあ、ぶつぶつ言いながらやっていると面白くなってきますよ。笑」

内貴さんだけではない。今回取材する中で気付いたのだが、丹波ワインの皆さんは一人ノリツッコミが多い!つまり、「ぶつぶつ言いながら面白くやっている」である。黙々と仕事をするのではなく、時にはぶつぶつ文句を言いながら、「いやいや待てよ…」と客観的な意見の対立を自分の中で繰り広げているのだ。この「ぶつぶつ言う」というのは、研究熱心さの表れではないだろうか。こんな面白い人達が集まる組織だからこそ、予期せぬ面白いことが生まれるのだ。あっと驚くワインの誕生を期待せずにはいられない。

醸造所の前にある観賞用の「ネヘレスコール」 ▲ 醸造所の前にある観賞用の「ネヘレスコール」

丹波ワインの皆さま、貴重なお話を聞かせて下さり、ありがとうございました! 写真は、醸造所の前にある観賞用の「ネヘレスコール」。聖書にも登場する特別なブドウだ。1房の長さが1m近くになる世界最大級の大きさで、お味も甘くておいしいそう!ワイナリー見学に行かれる方はぜひチェックを!

Writer : 山本  /  Photographer : 大石悠貴  /  訪問日 :  2026年7月7日

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