2026.08.25 更新

山梨・駒園ヴィンヤード

山梨・駒園ヴィンヤード

駒園ヴィンヤード株式会社

代表取締役社長 金子 武志氏

新体制で新しい風が吹く!歴史ある古樹の甲州はそのままに、いつか次なる顔を探し出す

日本ワインコラム | 駒園ヴィンヤード

山梨県甲州市塩山(えんざん)にある駒園ヴィンヤード。1952年創業で70年以上の歴史を持つ老舗だ。創業理念である「自然に寄り添うワイン造り」は今も変わりなく、山梨県産ブドウのみでのワイン造りに拘り、小規模ながら、国内外の主要なワインコンクールで数々の受賞歴を誇るワイナリーでもある。
取材日は熱中症警戒アラートが発表される程の危険な暑さで、汗が止まらない。そんな中、スタッフの皆さんと共に朝早くからシャルドネの仕込みを終えた後に取材に応じてくれたのが、今春から駒園ヴィンヤードの社長に就任した金子さんだ。「一日があっという間」としみじみ口にされ、日々目まぐるしく過ごされている中、新体制となっても変わらないことや新たに挑戦していることなど、駒園ヴィンヤードの「今」について話を聞いた。

醸造所に掲げられた看板。赤い屋根と周りに茂るツタが重なってチャーミングな印象だ。 ▲ 醸造所に掲げられた看板。赤い屋根と周りに茂るツタが重なってチャーミングな印象だ。

新体制が発足した!

駒園ヴィンヤードの歴史は、1952年にブドウ農家の五味家がブドウ果汁を加工するジュースの製造会社として創設した五味果汁工業(株)として始まる。その後、1963年に果実酒製造免許を取得、五味葡萄酒(株)へと商号変更しワイン造りが始まり、2019年には「駒園ヴィンヤード」に社名を変更し現在に至る。
そして2026年春、金子さんが駒園ヴィンヤードの代表取締役社長に就任。現在は、金子さんを含めた4人でブドウ栽培、ワイン醸造の他、営業も手掛けているとのことで、冒頭にご紹介した「一日があっという間」という言葉に大きくうなずくばかりだ。目まぐるしい変化の中で金子さんが大事にしているのは、チームが一枚岩となってチャレンジすることだ。「トップダウンではなく、皆で考え、話し合いながら進む体制だからこその良さがある」と前向きに語る。

誠実なお人柄で、一つ一つ丁寧に質問に答えて下さった金子さん。 ▲ 誠実なお人柄で、一つ一つ丁寧に質問に答えて下さった金子さん。

創業前から栽培する、樹齢80年超の甲州ブドウ

自社畑はワイナリー近くの2ヶ所にあり、合計約1.3haを管理している。塩山は甲府盆地東部の扇状地・丘陵地帯にあり、年間約2,200時間という全国トップレベルの長い日照時間を誇ると共に、日本の中では少ない降雨量、昼夜や年間の寒暖差という盆地ならではの気候特性があり、ブドウのみならず様々な果樹の栽培が盛んな地域だ。

ワイナリーから駒園圃場に歩いて向かう道すがらの景色。 ▲ ワイナリーから駒園圃場に歩いて向かう道すがらの景色。

そんな環境で創業前から甲州が育つのが、社名の由来にもなっている駒園圃場だ。約44aの広さの畑に、現在100本程植わっている。その中には樹齢80年を超える甲州も健在で、今も目立った収量の減少はないというのだから驚きだ。もちろん若樹への植え替えも順次進んでいるが、古樹の甲州の枝を用いた苗を使っているようなので、栽培環境に合った甲州が脈々と受け継がれているのだ。

赤い印がついているのが古樹の甲州。他の木と比べて幹の太さが違う。2022年には、創業70周年を記念して、樹齢60年以上の古樹に限定した「Tao ヴィンヤード マスター 甲州 2020」が600本限定で販売された。完売したアイテムだが、超古樹の甲州だけで造られた贅沢な味わいを想像するだけで涎ものだ。尚、写真左手にある白い棒は、棚を支えるために使用するジャッキ付きのポール。砂地土壌でポールが下がりやすいため、ジャッキが付いていると便利だそう。 ▲ 赤い印がついているのが古樹の甲州。他の木と比べて幹の太さが違う。2022年には、創業70周年を記念して、樹齢60年以上の古樹に限定した「Tao ヴィンヤード マスター 甲州 2020」が600本限定で販売された。完売したアイテムだが、超古樹の甲州だけで造られた贅沢な味わいを想像するだけで涎ものだ。尚、写真左手にある白い棒は、棚を支えるために使用するジャッキ付きのポール。砂地土壌でポールが下がりやすいため、ジャッキが付いていると便利だそう。

畑は平地にあるが標高460mと高く、適度に冷たい風が流れ込む地形も寄与して、昼夜の寒暖差が生まれることからブドウの酸持ちが良い。また、笛吹川系の扇状地によってできた砂壌土なので水はけが良く、養分も少ないことからブドウに適度なストレスがかかり、果実の凝縮感に繋がる。尚、畑は除草剤不使用の草生栽培で、定期的に有機肥料を散布し土壌改良を行っている。健康な土なのでモグラを見かけることもあるが、畑を耕してくれたり害虫を食べてくれたりするバディとみなして共生しているそう。この環境があるからこそ高齢の甲州も健康に年を重ねているのだろう。「甲州は蔓も柔らかいですし、誘引といった作業も比較的楽です。また、病気にも強いですし、日本の気候に合致した品種だと思います」と、金子さんは期待を寄せる。

色付きが進む甲州。 ▲ 色付きが進む甲州。
日当たりがいい場所で育つ甲州は一足先にキレイな藤色に色付いていた。 ▲ 日当たりがいい場所で育つ甲州は一足先にキレイな藤色に色付いていた。

病気に強いとは言え、長雨が続くと病気に繋がることもあるので、ブドウの傘かけを行ったり、除葉で風通しを良くしたりする他、6月頃からは定期防除も行い万全を期す。それでも難しいのは温暖化の影響だ。「もう少し収穫は後かなと思っていたら急に酸落ちが始まったりするので、収穫のタイミングを見極めるのが難しくなってきていますし、極端な天気が発生するので統計も取りにくい」と金子さんは難しさを語る。そんな状況の中でも高い品質を保持しているのがこの畑だ。自社最古の駒園圃場の甲州100%で造る「Tao駒園 甲州」は、直近のサクラアワード2026ゴールドメダル受賞以外にも数々の受賞歴を誇る、駒園ヴィンヤードの中でも特別な一本。ぜひ古樹がもたらす凝縮感を味わって頂きたい。

甲州に続く品種を求めて、様々なヨーロッパ系品種を栽培

ワイナリーから目と鼻の先にある駒園圃場よりは遠いが、川窪圃場もワイナリーから車で数分の場所にあるので管理しやすい畑だ。山梨県の最大河川、富士川の支流に当たる笛吹川の左岸に位置する。標高は440mと駒園圃場とほとんど変わりないが、駒園圃場より川からの距離が近いので土壌は更に砂質が多く、ブドウ樹がゆっくり成長するので凝縮感の高いブドウが育つ。

広さ約83aの川窪圃場。圃場の横に笛吹川から繋がる水路がある。鹿の獣害対策のため、畑の周りをフェンスで囲っている。 ▲ 広さ約83aの川窪圃場。圃場の横に笛吹川から繋がる水路がある。鹿の獣害対策のため、畑の周りをフェンスで囲っている。

甲州だけを栽培する駒園圃場とは打って変わって、川窪圃場では、ヨーロッパ系品種を中心に多種多様な品種を栽培している。尚、甲州を含め、駒園ヴィンヤードで育つブドウは全て棚栽培だ。
・白ワイン品種:シャルドネ、リースリング
・赤ワイン品種:ピノ・ノワール、シラー、バルベーラ、アリカント、サンジョヴェーゼ、ビジュノワール

育てやすい品種=市場が求める品種とは限らない

川窪圃場では、栽培環境との適性と市場からの需要を見極めながら様々な品種の栽培を続けている。赤ワイン品種の中では、ビジュノワールとアリカントが病気にも強く手間をかけずに質の高いブドウが収穫できる有難い存在だ。ビジュノワールは山梨県果樹試験場が開発した、山梨27号(甲州三尺×メルロー)とマルベックの交雑品種。フランス語で宝石を意味する「ビジュ(Bijou)」と、黒を意味する「ノワール(Noir)」という言葉が用いられている通り、色が濃く、タンニンもしっかりあるのでボディ感のある味わいだ。秋の長雨や台風の前に収穫期を迎えるので、日本の気候にも合う品種と言える。一方、アリカントは主に南仏やスペインなどで栽培されている品種で、果皮だけでなく果肉・果汁まで赤くなり、色調の濃いワインに仕上がるのが特徴だ。

傘かけなくとも病気知らずに健康に育つアリカント! ▲ 傘かけなくとも病気知らずに健康に育つアリカント!

「ビジュノワールは山梨発祥のブドウですし、病気にも強いので赤ワインのフラグシップになり得る存在ですが、市場の認知度が高くないというのがネックで…」と金子さんは葛藤をにじませた。また、「アリカントは傘かけも不要で、ほったらかしでも健康に育ち収量もある有難い存在ではあるのですが、市場の認知度を考えると単体で仕込むのではなく、補助品種としてブレンドする方が理にかなっている」と分析する。現在、ビジュノワールはピノ・ノワールと並んで単体でワインに仕上げているが、アリカントは他の赤ワイン品種同様、ブレンド用として活用している。供給側が市場のニーズに合わせてブドウ栽培するのは市場の原理として理解できるが、日本でワイン文化が根付くためには、消費者側も特定の品種に拘らずにその土地の環境に合う収穫物を楽しむという姿勢を持つことも大事なのだろう、と飲み手の一人として考えさせられる。

圃場では色んなブドウを試食させて頂いたが、どれもしっかり熟していた。 ▲ 圃場では色んなブドウを試食させて頂いたが、どれもしっかり熟していた。

手間はかかるが挑戦を続けたいピノ・ノワールとシャルドネ

市場認知度抜群のピノ・ノワールは、手間がかかる品種だ。果皮が非常に薄く房が密着しているので、雨が多いと果実が膨れて実を潰し合うこともあるし、ベト病やウドンコ病、晩腐病といったカビ系の病気にも弱く、質・量共に天候に左右されやすい。棚栽培する場合、果実への傘かけが必須だが、ブドウの肩と呼ばれる部分を落とさないと傘かけができないそうで、傘かけ一つにしても他品種よりも手間がかかる。更に、温暖な気候では一気に過熟が進むこともあり、収穫時期の見極めが非常に難しい。「去年は一週間程収穫を遅らせたところ、ブドウがレーズン化したと聞いていたので、今年は着色の弱さを感じましたが、pH値や糖度のバランスを見て収穫期を逃さないよう、この間収穫を終えました」と金子さんは教えてくれた。せっかく手塩に掛けて育てたブドウなのだからベストな状態で収穫したい気持ちは痛いほど分かるが、収穫期の天候等で台無しになっては元も子もないのだ。真剣勝負を続ける様子が良く分かる。

先日収穫を終えたばかりのピノ・ノワールの棚。 ▲ 先日収穫を終えたばかりのピノ・ノワールの棚。

白ブドウの中でリースリングは最も苦戦している品種ではあるが、「日々試行錯誤しながら栽培中」とのことだ。シャルドネも難しい品種ではあるが、「ヨーロッパ品種の中でも、シャルドネは今後特に力を入れていきたい」と金子さんは上を向く。「確かに山梨の夏は暑いですし、温暖化の影響で今後はもっと厳しい条件になると思います。ですが、暑いから育たないで終わるのではなく、できる対策を施すことで暑い山梨という環境で育つシャルドネの姿を見せていきたい」と力強い言葉を残した。シャルドネは比較的気候への順応性が高く、ニュートラル品種だからこそ、その土地の環境が味わいに反映されやすいと言われている。金子さんが解釈した「山梨のテロワールで育つシャルドネ」がどんな姿をしているのか、その登場を楽しみに待ちにしたい。

取材日の午前中にシャルドネの仕込みを終えたそうで、スタッフの方がプレス機の中に入り込んで入念に洗浄されていた。 ▲ 取材日の午前中にシャルドネの仕込みを終えたそうで、スタッフの方がプレス機の中に入り込んで入念に洗浄されていた。
絞ったブドウ滓は、ワイナリー近くの土の中に戻している。 ▲ 絞ったブドウ滓は、ワイナリー近くの土の中に戻している。

普段ワインを飲まない方にも気軽に楽しんでもらいたい

年間約15,000本程度のワインを仕込むという醸造所は、歴史を感じる佇まいだ。買いブドウも含めて原料を全て山梨県産のブドウにすることに拘ると共に、ブドウの個性を活かしたワインを造るべく、醸造技術に頼るのではなく基本に忠実な造りを大事にしている。

どこか牧歌的な雰囲気を感じる佇まいの醸造所。 ▲ どこか牧歌的な雰囲気を感じる佇まいの醸造所。

「普段ワインを飲まない方にも楽しんでもらいたい」という金子さんの言葉を体現するように、駒園ヴィンヤードでは、山梨県内契約農家のブドウを使用したエントリーレベルの「Pony」というシリーズを展開している。手に取りやすい価格帯ながら果実味をしっかりと感じられるので、ワイン初心者でも気軽に楽しめる。「Ponyを試してみて、美味しいと思われたら試してみてもらいたい」と金子さんが続けて紹介したのが、上位シリーズ「Tao」で自社ブドウを使ったしっかりとした味わいのワインを楽しめる。因みに、「Tao」とは、道を意味し、創業理念である「自然に寄り添うワイン造り」というワイン道を表している。

取ワイナリーの敷地内にある販売所。どこか懐かしさを感じる建物だ。 ▲ ワイナリーの敷地内にある販売所。どこか懐かしさを感じる建物だ。
販売所には各種ワインが並ぶ。こちらはPonyシリーズ。 ▲ 販売所には各種ワインが並ぶ。こちらはPonyシリーズ。

スパークリングワイン造りに挑戦

駒園ヴィンヤードではこれまで、赤、白、ロゼ、オレンジなど様々なスタイルのスティルワインを造ってきたが、今夏、初のチャレンジとなるスパークリングワイン、「Ponyスパークリング Petit Rose」をお披露目した。甲州を主体に、ピノ・ノワールやビジュノワール、サンジョヴェーゼといった自社栽培の赤ワイン品種をブレンドすることでコクを持たせたガス充填式のロゼ・スパークリングだ。アルコール度数は9.5%と低めに設定されているので、アルコールに強くない方も安心して試せる。「氷を入れて飲んでも美味しい」とのことなので、肩ひじ張らずに楽しみたい。

新発売のロゼ・スパークリングワイン!色もチャーミングだ。 ▲ 新発売のロゼ・スパークリングワイン!色もチャーミングだ。
検定日が2025.12.23となっていて、新しさを感じさせるガス充填用のサーマルタンク。 ▲ 検定日が2025.12.23となっていて、新しさを感じさせるガス充填用のサーマルタンク。

「小規模ワイナリーですし、スパークリングワイン用に醸造所を増設するということはせず、必要な機材を動かしながら製造しています」と、新たに導入したガス充填用のサーマルタンクを紹介してくれた。まずは今年のロゼ・スパークリングを楽しみつつ、今後のラインナップも楽しみに待ちたい。

自分達のカラーをひとさじ加えたワイン造りを

過去から大事にしてきた、ブドウの個性を大事にすることやテクニカルにしないという醸造方針は引き継ぎつつも、新体制に移行したタイミングに合わせてチャレンジすると決めたのが、酵母選びだ。駒園ヴィンヤードでは長年、ブドウの個性をダイレクトにワインに反映させることを目的に、発酵時には全ての品種でニュートラル酵母の使用に統一してきたが、今年から品種毎に酵母を変えて予定とのこと。
「この間収穫したピノ・ノワールも従来のものとは異なる酵母を使用しました。まだ検討中の段階ですが、今年収穫する甲州も酵母別に仕込んだ上でブレンドすることも視野に入れています」と、金子さんは計画を明かしてくれた。統一酵母で仕込んだワインと酵母別で仕込んだワインを比較して、今後のワイン造りに活かしていく考えだ。

醸造用に使うステンレスタタンクは、白ワイン用に5機、赤ワイン用に4機揃う。 ▲ 醸造用に使うステンレスタタンクは、白ワイン用に5機、赤ワイン用に4機揃う。
熟成樽はフレンチオークで揃え、同じメーカーのものを使用。白ワインではシャルドネ、赤ワインではピノ・ノワール、サンジョヴェーゼ、ビジュノワールなどを樽熟成させるそう。 ▲ 熟成樽はフレンチオークで揃え、同じメーカーのものを使用。白ワインではシャルドネ、赤ワインではピノ・ノワール、サンジョヴェーゼ、ビジュノワールなどを樽熟成させるそう。

これまでのワイン造りの基本はそのままに、そこに少しだけ自分達ならではの独自の色を加えることに決めた新生・駒園ヴィンヤードの面々。新体制に移行して日はまだ浅く、実験は始まったばかりなので、今後も軌道修正を加えながら独自のブドウ栽培、ワイン醸造の道を形作っていくのだろう。それでも、「やはりブドウの質がワインの味わいに直結することを身に染みて感じているので、ブドウ栽培を主軸に据え、防除や誘引、収穫といったタイミングを逃さないようにしていきたいですね」と金子さんは今後の方針を述べた上で、「駒園ヴィンヤードのフラグシップワインは甲州であることに変わりないですが、甲州の次も見つけていきたい」と力強い抱負を語ってくれた。新しいメンバーが加わり、新しい風が吹き始めている。経験値が少ないからこそスタッフ間で活発な議論がなされ、いい刺激や新しい発見があるに違いない。そんな駒園ヴィンヤードの「これから」のストーリーを聞ける日を心待ちにしている。

金子さん、仕込みでお忙しい中、お時間頂きありがとうございました!新しく始めた挑戦がどのような道になるのか、またお話をお伺いできる日を楽しみにしています。 ▲ 金子さん、仕込みでお忙しい中、お時間頂きありがとうございました!新しく始めた挑戦がどのような道になるのか、またお話をお伺いできる日を楽しみにしています。

Writer : 山本  /  Photographer : 大石悠貴  /  訪問日 : 2026年8月25日

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