2023.03.22 更新

宮崎・都農ワイン

宮崎・都農ワイン

株式会社 都農ワイン

取締役工場長 赤尾誠二氏

日本一不適地ですが何か?世界が認める地酒としてのワイン

日本ワインコラム | 都農ワイン

宮崎空港に到着した。生憎の空模様だったが、空港から外にでるとヤシの木が並び、南国感が溢れている。 今回お邪魔した都農ワインは、宮崎空港から車で北に1時間弱程走らせた先の都農町にある。東に日向灘、西に尾鈴連山がある場所だ。西高東低の牧内台地にあるワイナリーは標高150-200mに位置し、4㎞先にあるという海も眺められる絶景ポイントでもある。ワイナリーで働くサーファー達が、海の状態を常にチェックしているそうで、時々いてもたってもいられず、お休みを取って海に繰り出してしまうほど。サーファーの聖地でもあるようだ。

そしてインタビューのお相手は、1994年の都農ワイン設立時点から、社長と二人三脚で苦楽を共にしてきた赤尾さん。ポニーテールにまとめられた髪と力強いまなざしがイタリア人男性のようで、色気が漂う御方です(ミーハーで申し訳ありません。苦笑)。

都農ワイナリー入り口。アットホームな雰囲気が漂う。▲ 都農ワイナリー入り口。アットホームな雰囲気が漂う。
口調は穏やかで、時折クスっと静かに笑う赤尾さん。このただならぬ雰囲気にやられてしまう。▲ 口調は穏やかで、時折クスっと静かに笑う赤尾さん。このただならぬ雰囲気にやられてしまう。

ワインは地酒であるべき

都農はワイン産地として決して恵まれているとは言えない。雨が多く、台風が頻発するこの地域は、「日本一不適地」と赤尾さんが評するほど、ブドウ栽培に不向きな土地だ。そんな場所であっても、海外メディアで高評価を受け、国内外の品評会でも数多くの賞を受賞している。何か秘密がありそうだ。

永友百二~ひとりの想いがきっかけに

そもそも、なぜ、この地でワインが造られるようになったのか?
戦後間もない1953年前後まで時は遡る。尾鈴山から流れる名貫川付近には、ゴロタ石という丸い石が広がり、その上に火山灰土壌が堆積した畑が広がる。地が浅く水漏れが頻繁に起こる場所で稲作が行われていたこともあり、水を巡る争いも多かった。そんな中、永友百二という一人の農家が争いを抑えるべく、稲作に頼らない農業を目指し、19歳で梨の栽培を始めた。雨の多い都農で果樹栽培は不可能と言われ、「田んぼに木を植えるなんて」と周囲から非難もあったそうだが、研鑽を積み、全国梨品評会で一等を受賞するほどの実績を上げる。そして、終戦後はブドウ栽培にも着手。当時の文献に「ぶどう酒仕込み」の文字もあり、ワインも造られていたようだ。

温暖で冬が短い都農町でのブドウ栽培は、ブドウの萌芽も早く、お盆前には収穫されるという。なんとスイカの隣にブドウが並ぶらしい。目を疑いそうだ!いち早くブドウを出荷できるという特異性もあり高値でブドウが販売されたことから、ブドウ栽培は人気を呼び、多くの農家が後を追った。しかし、一方で、シーズンが過ぎるとブドウの価値がガクッと下がるという問題点も抱えていた。

永友百二氏の名と志を受け継いだスパークリングワイン「Hyakuzi」。▲ 永友百二氏の名と志を受け継いだスパークリングワイン「Hyakuzi」。購入はこちらから。
「Hyakuzi」のキャップシール張りの体験をさせて頂いた。変な仕上がりになっていないといいのだが…▲ 「Hyakuzi」のキャップシール張りの体験をさせて頂いた。変な仕上がりになっていないといいのだが…

地元のみんなで協力して

この問題を解決する手立てはないか。あるブドウ農家が都農町長を務めた際、地元産のブドウを使ったワイナリー設立の構想がスタートする。地元の農家と都農町が一体となり、醸造用ブドウの栽培を開始、ついに1994年に第三セクターで都農ワインが誕生する。そして2年後にはワイナリーが創設され自社醸造が開始する。
この都農ワインの歴史の幕開けに最前線で関与していたのが、当時18歳の赤尾さんだ。19歳で梨の栽培を始めた永友百二氏と重ならないだろうか?赤尾さんは、地元の農業高校で食品化学を学んでいた。将来はすし職人になりたいと思っていたが、ワイナリー設立のための技術者募集を目にし、応募したそうだ。

「机の上で勉強する1年よりも、作業しながら勉強する1年の方が大事」

と仰る赤尾さん。ブドウ栽培とワイン醸造に携わってから、物凄いスピードで技術やノウハウを吸収・発展されたのだろう。ワイナリー設立から10年間ひたむきに、そしてがむしゃらにワイン造りに向き合ってきた。
それでも、悩みはあった。「どうしてわざわざ都農でワインを造るのですか?ワイン造りに適した場所は他にあるでしょう?」この問いに、真正面から答えられない自分がいたのだ。

確かに雨も台風も多い都農。この地でブドウ栽培・ワイン造りに向き合う皆さんには頭が下がる思いだ。 ▲ 確かに雨も台風も多い都農。この地でブドウ栽培・ワイン造りに向き合う皆さんには頭が下がる思いだ。

迷いは晴れる~オーストラリアでの気付き

転機は2006年に訪れた。日本代表としてただ一人、オーストラリアのワイナリーへ3カ月間の研修に送られたのだ。多数の醸造家の中から、日本のワイン産地として名高い山梨や長野といった場所ではなく、日本一不適地と評される都農から赤尾さんが選ばれた。ただただ素晴らしいとしか言いようがないが、現場で学び、気付きを咀嚼し、仮説を立ててまた実践に移す。そういう独自性と真摯な姿勢が光っていたのではないだろうか。オーストラリアもワインの世界ではニュー・ワールドに位置し、オールド・ワールドの伝統と最先端の技術をうまく掛け合わせてワインを産出している地域だ。出会うべくして出会ったのだろうと思う。

オーストラリアの広大な地で大量に生産されるワイン。世界最先端の技術を目の当たりして、その良さを吸収すると共に、都農でやってきたことが間違いでなかったことも再認識する。
そして何より、明確になったことがある。「地元の人にワインを地酒として飲んでほしい。」その思いだ。「なぜ都農でワインを造るのか?」という問いに対して、「ワインは地酒」というフレーズが腹落ちした。地酒としてのワインを都農で造っている。他のワイン産地を羨むことも、引け目を感じることもなくなった。海外に出たからこそ見えた、地元でワインを造る理由。これを機に、赤尾さんの醸造家としての道は揺らぎのないものになったのだ。

ワイナリーに展示されている数々のワイン。地酒として地元の方に取り入れてほしいという気持ちが伝わる。
ワイナリーに展示されている数々のワイン。地酒として地元の方に取り入れてほしいという気持ちが伝わる。
▲ ワイナリーに展示されている数々のワイン。地酒として地元の方に取り入れてほしいという気持ちが伝わる。

日本一ブドウ栽培不適地~マイナスをプラスに

都農でのワイン造りに迷いはない。ただ、決して恵まれた環境にあるとは言えないのも事実だ。それでも赤尾さんは、「日本一不適地は経営資源でもあるのです」と言い切る。このマイナスをプラスに変える言葉が力強い!

チキン南蛮に合うワインを造っている

牧内台地の基盤は約1500万年前に尾鈴山が噴火した際の溶岩が固まってできたもので、溶結凝灰岩と呼ばれる。その上に火山灰が積もっている場所だ。土壌は火山灰土壌(黒ボク土)で、雨の多いこの地域にとってありがたい排水性に優れている一方、ブドウを育てる上で必要となるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が乏しいというマイナス面がある。特にカルシウムは、ヨーロッパの銘醸地の1/10の量しかないそうだ。赤尾さんは言う。

「カルシウムが少ない大地は、謂わば『水より軽い土』。だから水はけがいい。フランスのカルシウム豊富な大地は『水より重く』保水性があるので、排水性を高めるためにブドウを斜面に植える傾向がある。では、カルシウムがワインに与える影響が何かというと、ブドウの色や渋み。同じシラーでもフランスのシラーは色も濃くタンニンもあるフルボディタイプ。日本のシラーは色が淡く、渋みも少ないライトボディに仕上がる。」と。

1500万年前尾鈴火山から噴出してできた溶岩の塊(溶結凝灰岩)。牧内大地の土壌基盤が良く分かる場所だ。この基盤上部に火山灰土壌を始めとする地層が重なる。 ▲ 1500万年前尾鈴火山から噴出してできた溶岩の塊(溶結凝灰岩)。牧内大地の土壌基盤が良く分かる場所だ。この基盤上部に火山灰土壌を始めとする地層が重なる。

これはブドウだけに当てはまるものではない。赤尾さんは続けた。

「カルシウムたっぷりのフランスの大地で育ったトマトは驚くほど味が濃く、トマトで出汁が取れるほど。同じようにその大地で育った草を食べた牛からできる牛乳やチーズも濃厚に仕上がる。そういうチーズと合うのはフランスのワイン。逆に言うと、日本のしょうゆやポン酢、味噌と合うのは日本のワイン。日本の大地で育ったタケノコに合うのは日本のワインであるべき。僕たちは、宮崎の大地で育った鶏を使ったチキン南蛮に合うワインを造っているのです。」

ワインを少しかじったことのある方なら、ワインはその土地のものと合わせるのが鉄板だということは耳にしたことがあるだろう。盲目的に受け取ってきた定説が、「カルシウム」という物質で紐解かれ、思わず膝を打った。赤尾さんは「このことは、どの本にも載っていないし、証拠もないけど、日々ワインと向き合う中で実感したこと。」と仰った。なかなか言えることではない。確たる証拠はないと断った上で、自分の経験談・持論として言い切る。その潔さと洞察力に感服した。

チキン南蛮に合うワイン達!ワイナリーでは試飲も楽しめるので、是非楽しんで頂きたい。 ▲ チキン南蛮に合うワイン達!ワイナリーでは試飲も楽しめるので、是非楽しんで頂きたい。

土壌改良の努力は怠らない

カルシウムが少ないことがワインの個性に繋がっても、ミネラル分が不足することで、ブドウの成長に影響が出る場合はNGだ。赤尾さんは言う。「国土の狭い日本で同じ大地で繰り返し農作物が作られてきたのは、農家がその都度、適切なタイミングで堆肥を与えて土壌改良を怠らなかったからだ。」と。化学肥料の様に直接植物に栄養を与えるというアプローチではなく、土壌にいる微生物の栄養となる堆肥を散布する。こうすると、微生物が堆肥を分解し土壌に団粒構造ができ、ブドウの根がしっかりと張り、養分を吸い上げる環境が作られるのだ。また、この団粒構造のおかげで、土はフカフカになり、空気の層ができることで水が地中に浸透、雨量が多くても排水性のよい環境で病気になりにくいというわけだ。

都農ワインの土はフカフカだ。生憎の雨模様だったが、排水性のよい土壌でぬかるみもあまりない。 ▲ 都農ワインの土はフカフカだ。生憎の雨模様だったが、排水性のよい土壌でぬかるみもあまりない。

雨の多い都農で農薬を減らし、有機肥料で栽培を行う。さらりと仰ったが、相当な困難と試行錯誤があって今のスタイルに落ち着いたのだろう。

高温多湿な環境に対応する

都農の降雨量は圧倒的に多い。年間3,000-4,000ミリもあるという。これは、世界のブドウ産地の5-8倍だ。しかも、ブドウが育つ4月~9月にかけての降雨量が2,000ミリとこれまた多い。更に、収穫期に台風が来る。せっかく大事に育てたブドウでも、強い風と激しい雨の応酬となる台風が通れば、目を背けたくなるような被害を被る。

対策1:自然の力を借りる(海、山、水脈)

確かに雨は多い。しかし、海と山の恵みがある。朝は東から吹く海風、夕方は西からの山風と、常に風が吹く環境にあることから、雨雲が停滞することが少なく、曇りが少ない。そのため、日照量は日本トップクラスを誇る。

パンフレットを使って都農ワインの環境を細かく説明して下さる赤尾さん。 ▲ パンフレットを使って都農ワインの環境を細かく説明して下さる赤尾さん。

しかも、南国にも関わらず、海風の影響で真夏でも35℃程度までしか上がらず、昼間は山梨よりも涼しいそうだ。海から4km程度離れていることもあり、塩害はない。
また、牧内台地には3つの滝があり、尾鈴山からの冷涼水脈がある。都農ワインの圃場♯6(6区)は、高品質のブドウを実らせることで有名だ。実はこの圃場近くには水が沸く湿原がある。確かに育成期前半は高い湿度から病気の心配が尽きないが、冷涼水脈によって夜間の気温がグンと下がることから、特に後半の成長期にブドウの風味が増す。

受賞多数の高品質ワインはこの地区のブドウが使われている。まさに自然の恵みだ。

対策2:レインガードと剪定方法をマスターする

雨対策としてビニールトンネルを使った栽培を徹底。そして、湿気の多いこの場所では風通しを良くすることが最優先となるため、剪定は、ヨーロッパで一般的な垣根仕立てではなく棚仕立てだ。また、台風等で葉が飛んでいくこともあることから、枝を下に足らす一文字短梢剪定を採用。これら対策を講じた結果、ブドウの生長点が充実し、枝、葉、果実ともに充実し、品質も安定しているという。

▲ これから梅雨に入るということで、昨年の収穫後外していたレインガードを張ったところだそうだ。
▲ 棚仕立の一文字短梢剪定されたブドウの木。今年の収穫を今から見守る赤尾さん。

対策3:早熟品種を植える

都農の冬は短く、春が早い。そのため、例えばシャルドネは、3月下旬に萌芽し、その60日後の5月下旬に開花、7月下旬にヴェレゾン(色付き)が始まり、8月下旬のお盆のシーズンに収穫を迎えるという。温暖な気候とは言え、カベルネ・ソーヴィニヨンのような10月に収穫を迎えるような晩熟品種は植えない。8月~9月中旬までに収穫が終えられるような早熟品種に限定し、台風の被害を最小限にとどめる努力をしている。都農ワインの看板商品であるキャンベル・アーリーは、その名が示す通り、8月のお盆前には収穫を終えられる。9haの畑には14品種が植えられているが、シャルドネやピノ・ノワール、マスカット・ベーリーAといった早熟品種に限定されている。

▲ 暖かい都農では、3月下旬にも拘わらず、既にブドウが芽吹く。

対策4:月の満ち欠けを定点観察する

赤尾さんは2004年から、月齢とぶどうの定点観測を毎日続け、エクセルに記録し続けているという。そのデータの一部を拝見し、度肝を抜かれた。ほぼ20年間、欠かすことなく同じ角度でブドウの育成状況を写真に収めるとともに、その時々の天候、活動内容や気付きなどをデータとして残しているのだ。
新月・満月は大潮、上弦・下弦は小潮。ブドウの成長もこの月の満ち欠けのリズムに呼応しているそうだ。萌芽では、大潮に向けて膨らみ、小潮にかけて出芽する。こういうタイミングが分かっていると、堆肥を施したり草刈りをしたりするタイミングが分かってくるという。そして大潮のタイミングは虫の産卵や孵化が行われるので、虫が活発になる。だからそのタイミングに合わせて防虫対策を取っているそうだ。また、満開を迎えたブドウは、90-100日で収穫のタイミングを迎えるので、記録を残すことは収穫のタイミングを計る上でも重要だ。データに裏打ちされた対策は明確だ。どの仕事でも言えることだが、チーム員と協議する時にもデータがあるとないとでは議論の深みは違う。こういう地道な作業を厭わない赤尾さんの姿勢に思わずうなってしまう。

▲ 圧巻のデータ量!!絵巻物語のようだ…

ライフワークとしてのワイン造り

地酒を造りたいという想いが強いからとは言え、20年間記録を付け続け、土作りや雨対策といった大変な作業をひたむきに続けられるのか?投げ出したりしたくならないのだろうか?疑問を投げかけた。

「仕事ではないのです。ライフワークです!」

その答えに脳天直撃級の衝撃を受けた。仕事だとは思っていない。心から楽しいと思っているからこそ続けているのだ。そういう心の声が聞こえてきた。自分の生業をライフワークと言い切れる人はそうはいない。ある程度割り切りを持って仕事をしている人の方が断然多いだろう。そんな中、自分の仕事をライフワークだと言い切れる赤尾さんが眩しかった。

「ライフワークだ」と楽しそうに話す赤尾さん。この朗らかさは簡単に真似できない。 ▲ 「ライフワークだ」と楽しそうに話す赤尾さん。この朗らかさは簡単に真似できない。

全ては収穫日を決めるため

ワイナリーでの仕事は、肉体的に過酷なものもあれば、精神的にキツイものもあるだろう。だけど、ライフワークだから続けられる。それに、9haの広大な畑にブドウを植えたのは自分だという責任もある。

「収穫日を決めること。これが一番大事。」

と、赤尾さんは断言する。ブドウの酸味と糖度、フレーバーの熟度のバランスからいつが収穫のベストなのか。台風が来る場合、どのタイミングで収穫するのか。どの畑から収穫するのか。収穫の人はいつから集めるのか。工場の作業工程はどうするのか、等々。「収穫日を決める」と一言にいっても、それに付随する作業工程は山のようにある。この全てを「決断」できるように、ライフワークとして毎日畑に立ちたい。そして、記録を取り、地道な作業を繰り返す。収穫は一年に一度しかない。このピークをワクワクとヒリヒリ感を持って迎えるためにライフワークがあるのかもしれない。

ライフワークだからこそチャレンジできる

赤尾さんは実験好きでもある。
基本的に、ワインには「品種の個性」と「地域のテロワール」が感じられることが最低限必要で、醸造過程でオフ・フレーバーがでることはNGだと考える。これまで、単一ワインとして、一つの品種からワインを表現してきた。しかし、シャルドネだとこんな味、キャンベル・アーリーだとこんな味、という風に品種で飲む時代は終わりを迎えるのではないか…そんな思いもあった。

こちらの「アンベラシー・シリーズ」はワイナリー限定販売だ。ぜひ、ワイナリーに足を運んでお買い求めいただきたい! ▲ こちらの「アンベラシー・シリーズ」はワイナリー限定販売だ。ぜひ、ワイナリーに足を運んでお買い求めいただきたい!

普段の食卓で気軽に楽しめるもの。親しみやすさと同時に都農のテロワールを感じられるもの。こういうワインを表現したいと考えできたのがアンベラシー・シリーズだ。
都農で育った複数のブドウ品種をアッサンブラージュ(組み合わせ)したもので、品種を組み合わせたからこそ表現できる味わいとなっている。ちなみに「アンベラシー」は「いい塩梅」という意味の都農の言葉だ。

ネーミングも味わいも都農を丸ごと表現したものとなっている。

ワインはおしゃれな飲み物ではなく日常的に楽しむものとして捉えてほしいという願いもあり、1000円代の商品ラインアップが多い。とは言え、時にはおめかしして飲むワインもある。プレステージ・シリーズと名付けられたワインは、最高品質のブドウを使って最先端の醸造技術も駆使しつつ造られたワインである。価格帯は異なれ、根底にあるのは一つ。「品質≧値段」である。お客様に何度も楽しんでもらいたいから。そういう気持ちが前面に出ている。

次なる挑戦~常に攻めの姿勢を忘れない

永友百二氏から始まった都農でのブドウ栽培。定説を覆す不屈の精神とそのチャレンジ精神は、都農ワインに脈々と引き継がれている。祖父の時代から始まった歴史は、現在は孫の代で、実際に、永友百二氏のお孫さんがブドウのプロフェッショナルとして農園で働いておられる。これをその次の世代にどう発展させていくか。
理想と現実の間に揺れ動くことも多い。都農は、オールド・ワールドに代表される偉大なワイン産地やニュー・ワールドと言われる魅力的な産地とは違う。こぢんまりとした農業として取り組む分には面白いかもしれないが、経営的な目線で見れば難しい局面もある。だからこそ、色んな角度で次の一手を打ち続けている。

新しい技術は積極的に取り入れる

これまで読んでくださった読者であれば、都農ワインは、新しいことに果敢にチャレンジする人々だということは分かってもらえただろう。この姿勢は、ワイン醸造の施設でも見て取れる。ワイナリーには多くの設備が必要となるため、尻込みしたくもなるほど莫大な費用がかかるが、都農ワインは積極的に設備投資を行い、「品質≧値段」なワインの製造に力を注いでいる。
工場内には、日本国内初号機となる瓶詰め機がある。今では大手ワインメーカーもこの機械を手に入れているらしい。円安の今、ユーロが安かった当時に購入して良かったと胸をなでおろす。先見の明がおありのようだ。

日本国内初号機となる瓶詰め機。都農ワインは「人柱です」と笑っておられたが、いいと思ったものは前例がなくても大胆に手に入れるという攻めの姿勢が垣間見られる。 ▲ 日本国内初号機となる瓶詰め機。都農ワインは「人柱です」と笑っておられたが、いいと思ったものは前例がなくても大胆に手に入れるという攻めの姿勢が垣間見られる。

他にも、品質向上のために各種機材を輸入し揃えている。機械好きでもある赤尾さんはエンジニアから色々と話を聞いて、多少の不具合ならば自分で直してしまうそう。驚きだ。

▲ (左)選果台。収穫時にブドウ果実は選別しているが、選果台も用い、更に丁寧な選別を行い、健康的なブドウ果だけを使う体制を確保している。(中央)イタリア製のバスケットプレス機は、上からの圧力で果汁を絞るタイプ。ゴザが付いており、その間から果汁が流れ出る仕組みだ。優しく果汁を絞ることができるので、雑味の少ない果汁の抽出が可能。(右)ドイツ製のプレス機は窒素ガスが充填された空気圧式のもの。酸化が抑えられるので、よりクリアなスタイルのワイン用に用いられる。

都農ワインでは樽熟成されたワインも販売している。しかし、樽の値上がりは凄まじく、毎年10-20%程度値上がりしていると言う。価格を押し上げずに品質を維持できないか…目を付けたのがオークチップだ。日常用のワインのラインナップであれば、樽ではなく、オークチップで樽の風味を添加する。樽以外のオプションも持っていると、経営的な安心材料にもなる。

樽熟成も行うが、オークチップも必要に応じて使っているそう。 ▲ 樽熟成も行うが、オークチップも必要に応じて使っているそう。

温暖化対策に真剣に取り組む

2015年以降、地球温暖化のステージが変わったと感じるそうだ。ゲリラ豪雨があったり、梅雨の時季から既にブドウの被害が大きくでたり…比較的酸持ちが良い白品種でも、ここ2年で酸落ちすると感じてきた。今後、この土地でワインを造るためには、真剣に品種と向き合う必要がある。
例えば「ビジュ・ノワール」。フランス語で「黒い宝石(Bijou Noir)」という意味の品種は、山梨27号(甲州三尺とメルローの掛け合わせ)にマルベックを掛け合わせたものだ。赤尾さんに「温暖化知らず」と言わしめるこの品種は、着色が良くタンニンが多い。病気にも強い。そして早熟品種だ。酒質がよく栽培しやすいこの品種に注目しているそうだ。

都農ワインには古木のブドウも沢山ある。植え替えのタイミングを迎えたブドウは、気候に合う適切なクローン選定を行うようにしている。
「シラーはクローンを変えて良くなった」と赤尾さん。同じ品種でもクローンを見極めることで可能性は広がるのだ。一方、クローンを変えても難しい品種もあるかもしれない。その場合は、若い樹齢で植え替えを行うことも視野にいれているそうだ。これら取組みを掛け合わせて次の世代に繋ぐのだ。

こ都農ワインが注目するビジュ・ノワールで造られた赤ワイン。都農ワインHPより ▲ 都農ワインが注目するビジュ・ノワールで造られた赤ワイン。都農ワインHPより

コミュニティ・ビジネスに意識を向ける

昨年9月、ワイナリー2階を改装し、ベーカリー兼カフェをオープンした。地元の木材を使って造られた内装はオシャレでありつつ、どこかホッと落ち着かせてくれる雰囲気だ。ワインと一緒に楽しむことのできる軽食として、地元の食材を使ったパンが手に入る。ゆくゆくは地元の小麦でパン生地まで造りたい…そんな夢が広がっている。
都農町の6次産業化を目指して造られた都農ワイン。1次産業(農業)、2次産業(製造業)は確立したが、6次産業化するには3次産業(サービス部門)が必要だ。そんな思いがずっとあったという。 第3セクターとしてスタートした都農ワインだからこそ、地域と共に成長するというブレない軸がある。ワインの価値を高めるとともに、地元の産業を活性化する。「都農の聖地力を高めたい。」という赤尾さんの夢は一歩を踏み出したところだ。

木材をふんだんに使って造られたオシャレなベーカリー。 ▲ 木材をふんだんに使って造られたオシャレなベーカリー。
都農ワインが造るホワイトブランデー「Bojo」が入っているカヌレ。お味が気になる! ▲ 都農ワインが造るホワイトブランデー「Bojo」が入っているカヌレ。お味が気になる!

人材育成に力を注ぐ

ベーカリー部門も含め、現在都農ワインには30名のスタッフが働く。その年齢は24歳から77歳までの幅広さ!3世代に亘る職場環境である。お客様もちょうど3世代に亘るそうで、年代ごとにアプローチできるのが強みだ。強みもあるが課題もある。後継者問題だ。日本一不適地と呼ばれる場所で長く続くワイナリーで働いてみたいと思う若者は多いそうだ。そして、彼らは勉強熱心。だが、日本一不適地で確立された高い技術力を得たからだろうか…一定期間が経過すると、独立してワイナリーを開きたいと申し出る人も多いという。そして、その気持ちに対しては、快く送り出してやりたい。赤尾さんの親心である。

「都農出身の人か、ここで結婚して骨をうずめてくれるような人が来てほしいなぁ…」

と遠い目をして呟く赤尾さん。本音がちらりと顔を出す。この問題は走りながら解決するしかない。けれど、都農ワインなら大丈夫!これまでも色んな課題を克服してきたではないか!!

今回お会いする前までは、赤尾さんは豪快に我先にと道を切り開いてきたタイプなのかと思いきや、インタビューを終えて浮かび上がってきた姿は、真逆だった。熟考を重ねた上で実践に移す。地道な作業を続け、そこで得た気付きを惜しげもなく人に伝えていく。懐の深い方である。と同時に「1週間休みがあったら、ゴルフ→釣り→ゴルフ→釣り…をエンドレスに続けたい。笑」と答えられた赤尾さん。こういうチャーミングな一面も気負いなく見せてくれる。老若男女が惚れ込んでしまうお人柄なのだ。

「ワインは人柄」、「作柄は人柄」と評された赤尾さん。そんな赤尾さんが造られるワインに惚れこむことは間違いなしだ。新しく改装されたワイナリーにぜひ足を運んで、都農の味を堪能してみてほしい。

お忙しい中時間を超過してまで対応して下さった赤尾さん。ありがとうございました!! ▲ お忙しい中時間を超過してまで対応して下さった赤尾さん。ありがとうございました!!

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Interviewer : 人見  /  Writer : 山本  /  Photographer : 吉永  /  訪問日 : 2023年3月22日

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