南アフリカワインのトレンドに迫る②

2026.01.16

現地渡航情報を交えて徹底解説!
南アフリカワインの魅力

THE CELLAR JOURNAL 09.2025 ---
writer : Haruko Yamamoto

南アフリカワインのトレンドに迫る②

開拓者が切り開いた冷涼産地

上段の産地紹介「ケープ・サウス・コースト」でご説明の通り、ケープ・サウス・コーストは冷涼な気候を活かして造られるピノ・ノワールやシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランといった品種のワインに注目が集まる産地です。ワインの質の高さに定評がありますが、意外なことに産地としての歴史はそこまで古くはありません。

雄大なヘメル・アン・アードの景色をバックにアフリカン・ミュージックの生演奏!
▲ 雄大なヘメル・アン・アードの景色をバックにアフリカン・ミュージックの生演奏!
美しいフィンボスの花々!
▲ 美しいフィンボスの花々!

例えば、ウォーカー・ベイという産地は、1975年にティム・ハミルトン・ラッセルが未開の地であったヘメル・アン・アードにシャルドネとピノ・ノワールを植えたことからその歴史がスタートしているので、50年程しか経っていません。当時は、周囲から冷ややかな目で見られていたようですが、若き醸造家ピーター・フィンレイソンを招聘し、二人三脚で挑戦を続け、周囲の批判を跳ね返す結果を得ていきます。

ハミルトン・ラッセルの現代表、アンソニー氏。
クラシックなジャケットとハンカチーフの合わせ技がオシャレで、ザ・ジェントルマンといった雰囲気。
▲ ハミルトン・ラッセルの現代表、アンソニー氏。クラシックなジャケットとハンカチーフの合わせ技がオシャレで、ザ・ジェントルマンといった雰囲気。

その後、ピーター・フィンレイソンは独立し、ブルゴーニュのボーヌを拠点とするネゴシアン、ブシャール・エネ・エ・フィスの一族とパートナーシップを組む形で、ブシャール・フィンレイソンをヘメル・アン・アードに設立しています。彼らの開拓者精神によって開かれた場所がウォーカー・ベイであり、ヘメル・アン・アードなのです。因みに、ティム・ハミルトン・ラッセルがスタートしたハミルトン・ラッセル・ヴィンヤーズは、ティムの息子であるアンソニーが1991年に引き継ぎ今に至ります。また、ピーター・フィンレイソンの息子のピーター・アラン・フィンレイソンは、兄のアンドリューと共に2007年にクリスタルムをヘメル・アン・アードに立ち上げ、その洗練された味わいに世界的にも高い評価を受けるワイナリーとして注目を集めています。

ブルゴーニュを彷彿とさせるヘメル・アン・アードのピノ・ノワール。
▲ ブルゴーニュを彷彿とさせるヘメル・アン・アードのピノ・ノワール。
ピーター・フィンレイソンの姪が夫妻で立ち上げたCreationは世界の「トップ50ワイナリー」に選ばれるなど、南アフリカを代表するトップワイナリーの一つ。恐るべし、フィンレイソン・ファミリー!
▲ ピーター・フィンレイソンの姪が夫妻で立ち上げたCreationは世界の「トップ50ワイナリー」に選ばれるなど、南アフリカを代表するトップワイナリーの一つ。恐るべし、フィンレイソン・ファミリー!

ヘメル・アン・アードでの動きに触発される形で、ブドウ栽培が始まったのがエルギンです。古くは18世紀頃にブドウ栽培されていたようですが、産業ではなく自家消費用という位置づけだったようです。1980年代半ば頃から、エルギンのポテンシャルに注目が集まるようになり、1990年にwardに認定されます。エルギンを語る上で外せないのがポール・クルーバーでしょう。1896年設立の老舗ですが、リンゴを始めとする果樹や野菜、家畜などの農園経営を長く続けていましたが、1980年代半ば頃から試験的にブドウを植え始め、1990年代からは本格的にワインを造り、エルギンのパイオニアとして今も不動の地位を築いています。また、イギリス人のリチャード・カーショウMW(マスター・オブ・ワイン)が、2012年にエルギンに設立したリチャード・カーショウ・ワインズ(Richard Kershaw Wines)は、ファーストヴィンテージから国内外から高い評価を受け注目を集める新進気鋭のワイナリーです。

未開の地に挑戦するパイオニア達がいたからこそ、冷涼系のエレガントで質の高い南アフリカのワインが世界を席巻することができたという訳です。

冷涼産地のおすすめワイン

それでは、冷涼系のおすすめワインをいくつかご紹介していきます。

ハミルトン・ラッセル・ヴィンヤーズ
シャルドネ ヘメル・アン・アード・ヴァレー 2018
ハミルトン・ラッセル・ヴィンヤーズ シャルドネ ヘメル・アン・アード・ヴァレー 2018

石の多い、粘土質が豊富なシェール土壌で育ったシャルドネです。現地では2024年ヴィンテージをテイスティングしました。樽香をしっかり感じるリッチな仕上がりですが、レモン、リンゴや洋ナシといった果実香とフレッシュな酸味をしっかりと感じ、余韻も長い上品な味わいです。チーズやクリーム系の料理と合わせたくなる一本です。

また、2012年、2018年、2023年を垂直試飲もしました。2021年ヴィンテージ以降、228Lから300Lに樽を大きくしたとのことで、2023年は樽のニュアンスが穏やかになったのが分かりました。2012年も2018年も熟成香を感じましたが、フルーツのニュアンスも残っていて、長熟のポテンシャルの高さを感じたワインです!

クリスタルム クレイ・シェルス シャルドネ 2023
 クリスタルム クレイ・シェルス シャルドネ 2023

上段の「ケープ・サウス・コーストの有名生産者、おすすめワイン」では、同じ生産者のピノ・ノワールを紹介しましたが、こちらは、そのピノ・ノワールと同じメル・アン・アード・リッジ地区にある、シングル・ヴィンヤードのシャルドネ100%キュヴェです。畑の土壌がクレイ(粘土)とシェールから構成されているため、そのままキュヴェ名になっています。

現地で2024年ヴィンテージをテイスティングしましたが、桃やリンゴ、ライチ、白いお花のような香りにスモーキーなニュアンスも。口に含むとピンっとしたテンションを感じる酸味、蜂蜜レモンクリームのようなこっくりした味わい、そして小石を思わせるミネラル感も。思わずため息が漏れる、うっとりした味わいですので、ぜひお試しを!

(右)イベント最終日のパーティーでの一枚。
アニマル柄の服を着ているのがピーター・アラン・フィンレイソン!
▲ (右)イベント最終日のパーティーでの一枚。アニマル柄の服を着ているのがピーター・アラン・フィンレイソン!
アタラクシア ピノ・ノワール 2020
 アタラクシア ピノ・ノワール 2020

オーナー兼醸造家のケヴィン・グラントは、ハミルトン・ラッセルで醸造責任者を務めた後、フランス、オレゴン、オーストラリア、ニュージーランドなど海外で経験を積み、2004年、ヘメル・アン・アードにアタラクシアを設立しました。ハミルトン・ラッセル時代から名声を集めている、南アフリカを代表する造り手です。
こちらのワインは、2025年7月の虎フェスで、お客様投票第3位に輝いたワイン!ヘメル・アン・アード・リッジで育ったピノ・ノワールで造られました。しっかりした酸味とシルキーなタンニンの骨格の上に、チェリーやザクロといったピュアな果実味があります。腐葉土やスパイス、ヴァニラの風味もあり、エレガントな味わいをお楽しみ頂けます。

サワーヴァイン オム ピノ・ノワール 2019
 サワーヴァイン オム ピノ・ノワール 2019

まずシックなラベルに目が行き、じっくり鑑賞したくなります。女性醸造家が立ち上げたワイナリーで、「やさしい抽出を心掛けている」と語ってくれた通り、彼女のワインはどれもピュアで透明感を感じる、フェミニンな印象でした。
現地では2024年ヴィンテージをテイスティングしました。ヘメル・アン・アード・リッジの標高300mの所にある冷涼な畑で育ったピノ・ノワールで、名前の「オム」には宇宙の創造や平和といった意味があり、「天と地」を意味するヘメル・アン・アードに呼応する形で付けられたものです。

ベリーやチェリーといった赤系果実の香りに、スパイスやハーブのニュアンスが層となって表れます。フレッシュな酸味がワインにテンションを与えると同時に、優しく抽出されたタンニンはとてもシルキー。全体的にフェミニンな印象ですが、しっかり骨格があるので、満足感がありながら飲みやすいワインです!

ラベルには現地の植物が描かれていて、とにかく美しい。
▲ ラベルには現地の植物が描かれていて、とにかく美しい。
右側が醸造家のジェシカ・サワーヴァインさん。
▲ 右側が醸造家のジェシカ・サワーヴァインさん。
ポール・クルーバー
セブン・フラッグス ピノ・ノワール 2021

上段の「ケープ・サウス・コーストの有名生産者、おすすめワイン」では、同じ生産者のシャルドネを紹介したので、こちらではピノ・ノワールを。

 ポール・クルーバー セブン・フラッグス ピノ・ノワール 2021

現地では2023年ヴィンテージをテイスティング。ベリーやプラムといった赤系果実にスパイスやチョコレート、紅茶やきのこ、土っぽいニュアンスも。しっかりした酸味とシルキーなタンニンがあり、口当たりも滑らかで非常にエレガントな印象です。果実の凝縮感が素晴らしく、旨味を感じる味わいは流石の一言。今飲んでも文句なしに美味しいですし、熟成を楽しめる一本です!

オーガニック・ワイン・
プロジェクト

南アフリカのワイン産地に足を運ぶと、まず圧倒されるのがその雄大な自然環境です。2004年に世界遺産に登録された「ケープ植物区保護地域群(Cape Floral Kingdom)」はアフリカ大陸の0.5%の面積しかありませんが、北半球全体の植物数を上回る9,600種以上の植物が生息し、このうち70%が固有種という、とても貴重な環境です。そして、南アフリカのワイン産地の95%がこの保護区内にあることから、南アフリカのワイン産業は環境に配慮したブドウ栽培が広く推奨されているのです。

スターク・コンデ・ワインズのワイナリーに到着した際に配られたフィンボスを使ったブローチ。ふわっといい香りが広がり、配色も美しい。
▲ スターク・コンデ・ワインズのワイナリーに到着した際に配られたフィンボスを使ったブローチ。ふわっといい香りが広がり、配色も美しい。
スターク・コンデはステレンボッシュ内の銘醸地、ヨンカースフックの小高い山の斜面にある。ヨンカースフック自然保護区が広がる場所でもあり、雄大な景色に出会える。そんな景色を背景に説明をするのが、Vinproのコンサルティングサービス責任者であるエティエンヌ・ターブルランシュ博士。
▲ スターク・コンデはステレンボッシュ内の銘醸地、ヨンカースフックの小高い山の斜面にある。ヨンカースフック自然保護区が広がる場所でもあり、雄大な景色に出会える。そんな景色を背景に説明をするのが、Vinproのコンサルティングサービス責任者であるエティエンヌ・ターブルランシュ博士。
Cape Wine 2025のイベント会場にもサステナビリティについての説明が。
▲ Cape Wine 2025のイベント会場にもサステナビリティについての説明が。

例えば、1998年に導入されたIPW(Integrated Production of Wine)では、持続可能な農業のためのガイドラインが設定されており、95%以上のブドウ栽培家やワイン生産者がこのガイドラインに即した活動を行っています。その他にも2005年にThe Biodiversity & Wine Initiative(現在は、WWF-SA Conservation Champion Programmeに置き換わっています)という制度が設立され、2015年までに90%以上のブドウ栽培家やワイン生産者が環境に即した造りをしているという認定を受けています。

この流れを推し進めるように2024年9月に立ち上がったのが、「オーガニック・ワイン・サウス・アフリカ」です。現時点(2025年9月末)のメンバー数は12ですが、今後も増加を見込んでいるそう。上記の通り、南アフリカではサステイナブル農法は広く採用されていますが、実はオーガニック農法はそこまでの広がりを見せていません。現地で開催されたイベント「Organic Wines South Africa Down to Earth」に参加した際の説明では、南アフリカのワインの内、オーガニック栽培されているものは1%に満たないとのことでした。一方、世界のオーガニック・ワイン市場は成長し続けており、Research & Marketsによると2023年の108億ドルから2030年には215億ドル弱にまで成長する見込みとのことで、南アフリカにおけるオーガニック・ワインの成長余地も大きいという訳です。サステイナブル農法から一歩足を踏み込んだオーガニック農法への展開についても注目していきたいですね。

土壌改良やコンポスト、カバー・クロップについても詳しく説明がありました。
土壌改良やコンポスト、カバー・クロップについても詳しく説明がありました。
▲ 土壌改良やコンポスト、カバー・クロップについても詳しく説明がありました。
そして、動物達もブドウ畑の土壌環境改善に大きく貢献しています!愛らしい姿から目が離せなかった…
▲ そして、動物達もブドウ畑の土壌環境改善に大きく貢献しています!愛らしい姿から目が離せなかった…

オーガニック・ワイン・プロジェクトのおすすめワイン

オーガニック・ワイン・サウス・アフリカのメンバーのワインから2本ワインを紹介します。オーガニック・ワイン・サウス・アフリカで委員会メンバーに就任しているライナカは、南アフリカで初めてビオディナミ認証を取得したワイナリーですので、機会があればお試しください。

現オーナーのヨハン・ライナカ氏(写真)は、南アフリカワイン業界のビオディナミ農法の第一人者だ。
▲ 現オーナーのヨハン・ライナカ氏(写真)は、南アフリカワイン業界のビオディナミ農法の第一人者だ。
スピアー・ワインズ ディスカヴァー・コレクション シュナン・ブラン/シャルドネ 2022
 スピアー・ワインズ ディスカヴァー・コレクション シュナン・ブラン/シャルドネ 2022

こちらのワインはサステイナブル農法で栽培されたシュナン・ブラン80%、シャルドネ20%のブレンドで造られています。リンゴや洋ナシの他、グアバやメロンのようなトロピカル・フルーツのニュアンスと、オレンジの花など華やかなアロマと風味を持つ芳醇な白ワイン。クリスプな酸味と程よいボリューム感をこのお値段で楽しめるとは…と驚きのコスパです。

オーガニック農法で造られたシュナン・ブランやリジェネラティブ農法の専門家とコラボして造られたシュナン・ブランもあります。現地でテイスティングしましたが、前者はジューシーでフレッシュ、後者はスキン・コンタクトを施していることもあり、程よい苦味とリッチな風味がフード・フレンドリーで、機会があれば、ぜひ食事と合わせて頂きたいワインです!

Cape Wine 2025では、大きなブースを出展。
▲ Cape Wine 2025では、大きなブースを出展。
左側がリジェネラティブ農法の専門家とコラボして造られたシュナン・ブランで、右側がオーガニック農法で造られたシュナン・ブラン。
▲ 左側がリジェネラティブ農法の専門家とコラボして造られたシュナン・ブランで、右側がオーガニック農法で造られたシュナン・ブラン。
スターク・コンデ・ワインズ
スターク・コンデ カベルネ・ソーヴィニヨン 2017
 スターク・コンデ・ワインズ スターク・コンデ カベルネ・ソーヴィニヨン 2017

異なった微小気候が点在するヨンカースフック・ヴァレーに位置する自社畑で、Ecocertの認定を取った有機栽培のカベルネ・ソーヴィニヨンで造られています。赤スグリやチェリーといった果実味とクランチーなタンニンがあり、クラシック且つ飲み応えのある赤ワインです!

(左)オーナー醸造家のホセ・コンデ氏。
▲ オーナー醸造家のホセ・コンデ氏。
スターク・コンデのワイナリー内外の景色は圧巻の一言!
スターク・コンデのワイナリー内外の景色は圧巻の一言!
▲ スターク・コンデのワイナリー内外の景色は圧巻の一言!
※当サイトの内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。また、まとめサイト等への引用を厳禁いたします。
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山本 暖子

THE CELLAR online store ライター

日本ワインコラム、生産者コラム等執筆担当
資格:日本ソムリエ協会認定ワイン・エキスパート、WSET Level4 Diploma

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