南アフリカワインのトレンドに迫る①

2025.12.23

現地渡航情報を交えて徹底解説!
南アフリカワインの魅力

THE CELLAR JOURNAL 09.2025 ---
writer : Haruko Yamamoto

南アフリカワインのトレンドに迫る①

南アフリカの歴史、主要産地や品種などの基礎情報をおさらいしたところで、ここからは、南アフリカの「今」に注目して、古樹の取組みや、環境に配慮した栽培、そして注目を集める産地としてスワートランドや冷涼系産地にフォーカスを当てていきます。

オールド・ヴァイン・プロジェクト

ワイン用ブドウの古樹の表記には明確な定義はなく、一般的には樹齢30年以上のブドウのことを指すことが多いですが、南アフリカでは世界初となる古樹認証制度「オールド・ヴァイン・プロジェクト」が運用されています。 「古木の女王」と称されるローザ・クルーガーさんが海外のブドウ産地を巡る中、古樹の畑のポテンシャルの高さを痛感。南アフリカにある古樹をもっと活用すべきだと考え、2002年から情報収集を開始し、実際に畑まで足を運んで古樹リストを作成するようになったのが活動の始まりです。そして、遂に、2016年に「オールド・ヴァイン・プロジェクト」としてNPO法人を取得。樹齢35年以上の畑をヘリテージ・ヴィンヤードとして認定する他、古樹の栽培方法に関する教育プログラム「オールド・ヴァイン・アカデミー」を開設するなど、精力的に活動の幅を広げています。

地を這うように育つブドウ樹。
▲ 地を這うように育つブドウ樹。

古樹に世界の注目が集まるのは、年齢と共にブドウが地中深く根を張ることで、気候変動への耐性が増したり、栽培環境に順応したテロワールがより表現されたり、樹齢と共に収量が減る分果実の凝縮感が得られたりするからです。一方、「収量が減る=収入が減る」ということ。だからこそ、オールド・ヴァイン・プロジェクトでは、古樹でも適切な収量を得られる栽培方法を学ぶ教育プログラムを提供しているのです。

Old Vine Projectホームページより。右下に樹齢年が記載された認証マークがある。
Old Vine Projectより入手した、植樹年が記載された認証シール。

2025年9月末現在、メンバーは138生産者まで広がり、ヘリテージ・ヴィンヤードとして認証を受けた畑の広さは5,159haとのこと。全体の2割強の広さを占める産地はステレンボッシュ。品種ではシュナン・ブランが半分近くを占めています。尚、一番古い樹は1900年植樹のサンソーとマスカット・オブ・アレキサンドリア。御年、125歳です!審査を通ったワインには、植樹年が記載されたシールが貼られていますので、南アフリカ産のワインを手に取る機会があれば、ぜひチェックしてみてください!

テロワールを重視する
革命を起こしたスワートランド

南アフリカのワイン産地の中で、近年特に熱い視線が集まるのがスワートランドです。元々は穀倉地帯で、共同組合が中心となってワイン用ブドウを卸したり、酒精強化ワインやブランデー用ブドウを供給したりする場所として知られる程度でした。

午後の光に照らされるスワートランドの様子。
午後の光に照らされるスワートランドの様子。
▲ 午後の光に照らされるスワートランドの様子。

しかし、1990年代末から2000年代初頭にかけてビックバンが起こります。南アフリカワイン業界の巨匠、チャールス・バック氏がスワートランドに立ち上げたスパイス・ルート・ワイナリーに若手醸造家であるイーベン・サディ氏を招いたことがきっかけに。2000年にサディ氏がシラー主体の「コルメラ(Columella)を造り出すと、カルト的な人気を獲得し、他の意欲ある若手醸造家がスワートランドに集まるようになります。

イーベン・サディ氏。
▲ イーベン・サディ氏。
サディ・ファミリーが20年以上費やして世に出した新作「Twiswind」と「Sonvang」。気候変動を見越し、自身の畑の環境に合う地中海やイベリア半島系の品種を中心に栽培し、この2つの新作ワインは12品種のフィールド・ブレンドで仕上げられている。
▲ サディ・ファミリーが20年以上費やして世に出した新作「Twiswind」と「Sonvang」。気候変動を見越し、自身の畑の環境に合う地中海やイベリア半島系の品種を中心に栽培し、この2つの新作ワインは12品種のフィールド・ブレンドで仕上げられている。
A.A.バーデンホーストの醸造設備の一部。
▲ A.A.バーデンホーストの醸造設備の一部。

2010年にこれらの新進気鋭の生産者によって開催されたイベント、「スワートランド・レヴォリューション」は大きな成功を収め、世界のワイン市場にスワートランドの魅力が一気に広がります。その後、同じ志を持つ生産者によって「スワートランド・インデペンデント・プロデューサーズ(SIP)」という団体が立ち上がります。SIPでは、スワートランドという土地のアイデンティティを全面に出すことを念頭に、使用するブドウをスワートランド産に限定、南仏や地中海系の品種に主軸を置いた使用ブドウ品種の制限、培養酵母、酸、タンニンなどの添加物や化学的な清澄の禁止など自然派的なアプローチの推奨、新樽使用率の制限など、厳格なガイドラインを設けています。

Cape Wine 2025では、スワートランドの生産者が集まる一角が設けられ、一体感が表現されていた。
▲ Cape Wine 2025では、スワートランドの生産者が集まる一角が設けられ、一体感が表現されていた。

スワートランドの夏は暑く、非常に乾燥した場所なので、ブドウにかかる水分ストレスは大きいです。土壌は、シェールや花崗岩が中心ですが、粘土質が多い場所や鉄分が多い場所もあり、多様な土壌構成となっています。また、ブッシュ・ヴァインで栽培されている古樹が多い場所としても有名です。これらの環境から、低収量でより凝縮した小粒のブドウが収穫されるという特徴があります。

スワートランドの注目の新世代生産者であるデイヴィッド&ナディア。
自然な造りのワインで、風味や質感の複雑味はありつつ優しい
すーっと体に入っていく味わいが最高です。
▲ スワートランドの注目の"新世代"生産者であるデイヴィッド&ナディア。自然な造りのワインで、風味や質感の複雑味はありつつ優しい、すーっと体に入っていく味わいが最高です。

スワートランドのおすすめワイン

革命的なスワートランドのワインを試したい方におすすめの生産者とそのワインを紹介していきます。

ザ・サディ・ファミリー・ワインズ コルメラ 2022
ザ・サディ・ファミリー・ワインズ コルメラ 2022

まずは、スワートランドの革命の立役者であるイーベン・サディ。
シラー、ムールヴェードル、グルナッシュ、カリニャン、サンソー、ティンタ・バロッカ、ピノタージュの7品種のブレンドで造られた赤ワインです。現地では、2005年、2012年、2020年の垂直試飲をしましたが、2005年ヴィンテージでも果実味が残っており、熟成ポテンシャルの高さを感じました。

若い内は赤系・黒系両方の果実の香りやバラやスミレのようなお花のニュアンスもあり、果実の凝縮感が高く、シルキーなタンニンと共に非常にエレガントな赤ワインです。現地で飲んだ2020年は熟成感よりも果実感が前面に出ていて、まだまだ熟成できるぞ!といった印象でした。もちろん果実味を楽しむのもありですが、寝かせるのも楽しみな赤ワインです。

イーベン・サディ氏とその息子、マーカス・サディ氏。
イーベン・サディ氏とその息子、マーカス・サディ氏。
▲ イーベン・サディ氏とその息子、マーカス・サディ氏。
ザ・サディ・ファミリー・ワインズ パラディウス 2022
ザ・サディ・ファミリー・ワインズ パラディウス 2022

スワートランドの自社畑17区画で育つ11品種を用いて造られた、白ワインのシグネチャー・キュヴェです。現地では、2009年、2016年、2020年の垂直試飲をしました。特に若い内は、グラスに注いで直ぐに香りが立つというよりも、グラスの中で時間を置いてから青リンゴや柑橘、濡れた石っぽさといったアロマが顔を出し、タイトな酸味を感じました。2020年でも酸味はまだタイトな印象。2016年ヴィンテージになるとナッツやドライのアプリコットやレーズンといったニュアンスが立ち上がり、シェリーのような酸化のニュアンスも感じました。2009年はシェリーのようなニュアンスがもう少し強く出ていました。白ワインでも熟成ポテンシャルの高さを感じる造りです!

Cape Wine 2025では、スワートランドの生産者が集まる一角にザ・サディ・ファミリーのブースが。
Cape Wine 2025では、スワートランドの生産者が集まる一角にザ・サディ・ファミリーのブースが。
▲ Cape Wine 2025では、スワートランドの生産者が集まる一角にザ・サディ・ファミリーのブースが。
マリヌー シラー 2020
マリヌー シラー 2020

上段でシュナン・ブランを紹介しましたが、マリヌーのシラーを無視することはできません。こちらのワインは、シスト土壌、風化した花崗岩土壌、鉄の豊富な石を含む土壌の3つの土壌タイプの複数の畑で育ったシラーをブレンドしたもので、スワートランドという場所全体を表現していると言えるでしょう。ブラックベリーや黒オリーブといった果実にスミレのようなお花のニュアンスもあります。ベルベットのようなタンニンとスパイシーさもあり、力強くもエレガントな赤ワインに仕上がっています。

そして、シュナン・ブラン同様、もし可能であれば、土壌違いのテロワール・シリーズも試して頂きたいです。花崗岩土壌の畑は、「マリヌー グラニット シラー」。シスト土壌の「マリヌ― シスト シラー」。そして、鉄を含む土壌の「マリヌー アイアン シラー」。花崗岩土壌には果実味の華やかさを、シスト土壌にはタイトはストラクチャーを、鉄分の多い土壌にはアロマの広がりを感じやすいかと思います!

マリヌーも、Cape Wine 2025ではスワートランドの生産者が集まる一角にブースが。
マリヌーも、Cape Wine 2025ではスワートランドの生産者が集まる一角にブースが。
▲ マリヌーも、Cape Wine 2025ではスワートランドの生産者が集まる一角にブースが。
A.A.バーデンホースト ラムナグラス サンソー 2017
A.A.バーデンホースト ラムナグラス サンソー 2017

スワートランドに本拠地を置くワイナリーで、1950~60年代に植えられたシュナン・ブラン、サンソー、グルナッシュなど、様々なブドウ品種を、灌漑無しで有機栽培しています。醸造過程も人為的介入を極限まで減らしたアプローチがとられています。現地では2017年と2023年のものをテイスティングする機会がありました。ベリーやチェリーといった赤系のチャーミングな果実の香りやスミレのようなお花のニュアンス、スパイシーさもあります。口当たりはソフトでスムースですが、しっかりとした酸味と柔らかなタンニンを感じます。すーっと体に入っていく滋味深い味わい。2017年になると、熟成感が良く出ていて、ドライフラワーやきのこ、土っぽいニュアンスも増え、複雑味が増していました。おすすめです!

気さくな人柄が魅力的なA.A.バーデンホーストのオーナーの一人であるアディ・バーデンホースト氏
Cape Wine 2025では、スワートランドの生産者が集まる一角にブースを出展。
Cape Wine 2025では、スワートランドの生産者が集まる一角にブースを出展。
▲ (左)気さくな人柄が魅力的なA.A.バーデンホーストのオーナーの一人であるアディ・バーデンホースト氏[中央]と、WOSA JapanからProject Managerの高橋氏[右]と水上氏[左]。(中央・右)Cape Wine 2025では、スワートランドの生産者が集まる一角にブースを出展。
ラール エヴァ シラー 2022
ラール エヴァ シラー 2022

2008年、スワートランドにドノヴァン・ラール氏によって設立されたワイナリーです。古い畑で栽培された収量の少ない凝縮感のあるブドウを使い、人為的介入を減らした不干渉主義で造られるワインの味わいはどれも秀逸です!そんなラールから2本ご紹介を。1本目はシスト土壌で育ったシラーを使った「エヴァ シラー」。長女の名前が付された一本です。因みに次女の「ノア」は花崗岩土壌のシリーズに付けられています。理由を聞いたところ、長女は落ち着きがあって控えめ、次女が溌溂としているからとのことで、土壌が表すワインの味わいの違いにも繋がっているとのことでした。ぜひ、「エヴァ」と「ノア」を試される時に感じてみて下さい。さて、「エヴァ」シリーズのこちらのシラーですが、赤系・黒系両方の果実やラベンダー、コショウなどのスパイスといった凝縮感と複雑味のある果実味を感じます。だからといってこってりしていないのです。シスト土壌らしく酸味とグリップのあるタンニンの骨格がしっかりと果実味を下支えしつつ、アルコール度数は12.5%と高くない!ドノヴァン氏が「この凝縮感でアルコール度数が12.5%というのは、この畑だから可能なこと」、と太鼓判を押すのも納得の味わいです。余韻も長く、ぜひお試し頂きたい一本です。

大柄な見た目とは裏腹に、少しシャイで優しい語り口。とても誠実な人柄が滲み出ているドノヴァン氏。
▲ 大柄な見た目とは裏腹に、少しシャイで優しい語り口。とても誠実な人柄が滲み出ているドノヴァン氏。
ラール サンソー 2023
ラール サンソー 2023

こちらは1982年植樹の古樹のサンソーで造られた赤ワイン。ラズベリーやチェリーなどの赤い果実主体のチャーミングさがありつつ、ハーブやスパイスのニュアンスやミネラル感が重なりジューシーで魅力的な仕上がりです。フレッシュな酸味とシルキーなタンニンがワインに骨格を与え、ブルゴーニュのピノ・ノワールのよう…。本当?と疑われる方もいるかもしれませんが、騙されたと思って一度試してみて下さい!驚きますから!!

右から3列目は2024年ヴィンテージから単独で仕込むことになったグルナッシュ・ノワール。こちらの入荷も楽しみだ。
▲ 右から3列目は2024年ヴィンテージから単独で仕込むことになったグルナッシュ・ノワール。こちらの入荷も楽しみだ。
フラム・ワインズ ピノタージュ 2016
フラム・ワインズ ピノタージュ 2016

畑は、シトラスダル・マウンテンの中の銘醸地スカーフバーグにあります。1978年に植樹された非常に古い畑で、生き残りをかけて戦う高齢のピノタージュは、なんと自根です。現地では2021年ヴィンテージをテイスティングしましたが、プラム、ザクロ、カシスなどの熟した赤い果実の香りにフェンネルのようなハーブのニュアンスを感じます。果実味は豊かで緻密なタンニンがあります。当主のティヌス・クルーガー氏の程よく脱力した雰囲気を拝みながらテイスティング影響もあるのかもしれませんが(笑)、ワインにもどこか洒脱な印象を受けました。『品種どうこうよりも「Nice Red Wine」を作りたかった』という彼の言葉の通り、難しい事抜きに美味しい赤ワインを飲みたい時におすすめの一本です。

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山本 暖子

THE CELLAR online store ライター

日本ワインコラム、生産者コラム等執筆担当
資格:日本ソムリエ協会認定ワイン・エキスパート、WSET Level4 Diploma

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